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第4章 超越者の門出編

第61話 宴もたけなわ……酔っ払いは面倒です

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「何故そう思うんです?」

   確証がある訳がない。これはカマかけだ、そう判断して聞き返してみる。

「いやいや、そう警戒為さらずに。ただ、森に入るのに普通はこの村を通る筈なのですが、私達は命の恩人様達が森に入って行くのを見ていない。ならば元々森の中にいたのではないかと、そう思ったまでです」

   うーんそうか、森と森の中の道を管理している村ならではの理由だな。さて、どう答えるべきか……
   返答を思案していると、再び村長が口を開く。

「もしかして、命の恩人様は勇者である事を隠したいのですか?」

   突然確信を突かれ、思わず目を見開き村長を見てしまう。
   しまった!   表情に出してしまった。これじゃあ、この後何を言っても言い訳にしか聞こえないじゃないか!
   軽率な行動をとった事を後悔していると、村長が『ふぉ、ふぉ、ふぉ』と笑い出した。

「命の恩人様はどうやら勇者である事を隠したいご様子。ならばこの話は無かった事にいたしましょう。なぁに、この事に気付いたのは私のみです。私が黙っていれば何の問題もありません」

   そう言って再び『ふぉ、ふぉ、ふぉ』と笑う長老。
   俺は観念して、長老に感謝する。

「そうして貰うと有難いです」
「しかし、どうして勇者である事を捨てるのですか?」

   頭を下げた俺に長老は興味深そうに尋ねてくる。

「勇者と言っても所詮は国の道具でしょう。豊かな暮らしは保証されてるでしょうが、そんな物の為に道具になるのは御免です」
「ならば貴方はこの先どうするのです?」
「そうですね……」
「ひろにぃ~」

   答えようとしたところに、遠くから声が聞こえる。
   見るとティアが右へ左へとよろよろしながらこっちに歩いてくる。

「……まさか、飲んで無いよな」
〈いえ……しっかりと〉

   念の為確認したらトモが言いづらそうに報告してくる。

(えーと……【猛毒耐性】はどうした)

   村長の手前、念話に切り替える。

〈【猛毒耐性】は命の危険がある物に対して力を発揮するもので、本来はお酒には反応しないんです〉
(俺の時みたいにできなかったのかー!)
〈私達はマスターのスキルなので、ティアと念話は出来ますが、スキルへの干渉は本人の承諾が無ければ無理なんですー!〉
(じゃあ、何で止めなかったー!)
〈私は止めたんですー!〉
(……わ、た、し、は?   じゃあ、焚きつけたやつは?)

   そんな奴は一人しかいないが、一応言質は取っておこう。

〈えーと、そのー、マスターもわかってるくせに……〉

   流石に一心同体である仲間を売る事は躊躇われるか……なら本人に直接聞くことにしょう。

(ニ~ア~)
《あはは、何かなマスター、怖い声出しちゃって》
(何をすっとぼけてる!   何でティアに酒を飲ませた!)
《いやだなぁ、実体の無いぼくが、ティアちゃんにお酒を飲ますなんて出来るわけないじゃん》
(でも、焚きつけたんだろ?)
《あはは、やだなぁ、そんな事……あっほら、ティアちゃんが直ぐそこまで来てるよ》
(そんな事は分かっている念話中でも見えているんだから。それよりも……)
「ひろにぃ発見」

   もっとニアを問い詰めたかったが、ティアは俺を指差しながらそう言うと、トコトコと近付いて来て胡座をかいていた俺の膝にドカッと座った。

「へっへっへっ~ひろにぃだぁ」

   俺の身体に背を預け、俺の顔を見上げてそう呟くティアは、途轍もなく酒臭い。
   あーもう、ニアは一体どれだけティアに酒を進めた!
   ティアは暫く俺の膝でゴロゴロした後、迷惑そうな俺の視線と孫でも見てるような表情の村長の前で可愛い寝息を立て始めた。

「ふぅ、やっと寝たか」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、可愛い盛りの年頃じゃのう」
「ところで村長、この村に宿はありますか?」
「ええ、ありますよ。ちと古いですが、冒険者の為の宿で、一階は冒険者ギルドの支部になっております」
「おお、それは有難いです。路銀も無いので、素材を換金出来る所を探してたのですが、それは冒険者ギルドで出来ます?」
「ええ、森に入った冒険者の持って帰って来た素材を引き取ってますから問題無い筈です」
「ありがとうございます」

   村長に一言礼を言い、俺はティアを抱えて宿へと向かった。

   宿の主人も宴会に参加していて、宴会が終わるまで待たされたのはまあ、御愛嬌という事で……
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