上 下
33 / 172
第3章 人間超越編

第30話 初源の勇者……そして迷惑な組織

しおりを挟む
   
   
   
「はいはーい、ヒメちゃん落ち着いた?」

   軽い口調だけど優しさのこもった声で、かなねぇが自分の胸で泣くヒメを撫でながら宥める。
   普段無邪気ながらも気丈なヒメが、涙を流すのは珍しい。だけど、今は例外。ヒメにとってかなねぇは幼馴染みであり、姉であり、母の様な存在なんだ。その無事な姿を見て涙を流すのは当たり前の事。まあ、それは僕や博貴も同じなんだけどね。

「ふっふっふっ、感動的な光景ですねぇ」

   熱くなった目頭を押さえていると、隣で橘さんがそう言いながら出てもいない涙を拭くそぶりを見せていた。
   この人は……何でこうも行動の一つ一つが胡散臭いのだろう……
   感動の再会が、橘さんの胡散臭さで無残に塗り潰される。気持ちが萎えてしまいそうになるけど、グッと堪えてかなねぇへと向き直った。

「かなねぇ……」
「はあ~い、けんちゃん。右手は空いてるわよ、けんちゃんも私の胸に飛び込む?」
「………………結構です」

   左手でヒメの頭を撫でながら、意地の悪い笑みで空いている右手で手招きするかなねぇの提案を、脱力しながら丁重にお断りする。
   そうだった……この人も相手のペースを乱すのが好きな人だった……
   息をする様に自然体で僕を翻弄してくる年長者二人に、軽い殺意を覚えながらも何とか自制して、真面目な話に持ち込む。

「かなねぇ……何でかなねぇが冒険者ギルドの総統に?   っていうかかなねぇはいつこの世界に来たの?   なんか行方不明になった時と姿が変わってないけど……」
「アッハッハ、質問責め?   けんちゃんはせっかちだねぇ。まっ、その辺の話はおいおい話すから、先ずはおこたに入ったら?   ミカンもあるよ」
「ミカン、ねぇ……それはテルムルの実でしょう。味はメロンに近かったと思ったけど?   それに、コタツに入る様な陽気でもないでしょうに……」

   そう言いながらも、僕はかなねぇの正面に座る。我ながら律儀だと思うけど、ここは言うとうりにしとかないと話が果てしなく脱線していきそうで怖い。

「けんちゃんは相変わらずだねぇ」

   笑いながらかなねぇは右手を差し出してくる。

「かなねぇも変わらない様で何よりだね」

   答えながら僕はかやねぇの手を握り返した。
   それから、落ち着いたヒメが僕の右手に座り、橘さんが左手に座って今度こそ真面目な話が始まる。

「そうねぇ……、先ずは私の事から話そうか……」

   そう言ってかなねぇはその顔から笑顔を消した。やっと真面目な話が出来ると内心ホッとする。

「私はね、百年前の『風の国』の勇者なの」
「えっ、でもかなねぇ若いよ」

   ヒメに若いと言われ、かなねぇが笑顔になった。

「ふっふっふっ、私は永遠の十八歳なのよ。いいでしょう」

   凄まじく勝ち誇った顔で、かつてのアイドルの様なセリフを吐くカナねぇにヒメが羨望の眼差しを向けている。
   歳をとらない……ね、橘さんと同じ進化系スキル?
   いや、橘さんはそれを取得するのに三十年かかったと言っていた。それが本当だとしたらカナねぇは若過ぎる。だとすると……

「それがカナねぇのオリジナルスキルの効果かな?」

   そう結論づけ確認を取ると、とカナねぇは渋い顔をしてこちらを振り向いた。
   相変わらず表情がころっころ変わる人だ。

「むーーー!   けんちゃんは正解出すの早すぎ。そうよ、私のオリジナルスキルは【年齢詐称】。まぁ、歳を自在に出来るだけだから、戦闘の役には立たないけどね」
「はは、成る程。じゃあ、どうしてギルドの総統なんかに?」
「うん、その話をする前にけんちゃん、初源の勇者の話は知ってる?」
「え?   うん、城の書庫で文献を読んだよ。何でも五百年前に現れて魔王を倒したとか」

   あまりに暇だったから以前、書庫でその手の話を調べた事があった。まぁ、ラノベの代わりにはならなかったけど、それなりに楽しく読めた。
   何でも初源の勇者は僕達みたいに複数ではなく、たった一人だったらしい。そして神はそのたった一人の勇者にありったけの力を与えた。
   当時、魔物は間引く事も出来ず増える一方で、ついには魔物王なる者すら出現したというのだから、それに対抗する為の処置だとすれば、当然だろう。
   そしてそれ以降、神は複数の勇者を百年ごとに召喚している。白い部屋で僕達は魔物を倒す為と聞いていたけど、実際は魔物王の再発防止の為らしい。
   ここで僕は疑問に思った。そもそも魔物とはどうやって生まれるのか?   書庫で調べたけど、結局その答えが乗ってる本は見つけられなかった。

「うん、で、その勇者が神から直接力を貰ったっていう話は?」
「勿論知ってるけど」
「そう。じゃあ、その後に来た四百年前の勇者達にも初源の勇者程ではないけど、それなりの力を与えてたという話は?」
「えっ!   それは初耳だよ。僕らみたいに【恐怖耐性】、【料理】、【世界共通語】のスキルとかじゃなくて?」
「うん。どうやら進化系スキルを与えてたみたいなのよ」
「はぁ~?」

   それは驚きだ。だとすれば、破格の対応と言っていい。

「と言う事は、四百年前の勇者はこの世界で大した苦労も無く、強力な力を手に入れたと……それは、増長するよね」

   思わず井上を思い浮かべてしまった。まあ、あいつの場合は王女に言い寄られ『もう、この国は俺の物も同然』と思い込んでるだけで、実際は宰相の手の平でいい様に転がっているだけだけどね。

「ええ、もう好き勝手。生き残った二十人程が『光の国』に集まって調停者なんて大層な組織を作ったわ」
「……まさか、まだ生きてるの?」
「そうよ。そして勇者が召喚される度に選定してスカウトしてってるから、今は四十人位になってるかしら」
「勇者が四十人……結構な戦力だよね。で、その組織は何の為の組織なの?」

   そう尋ねるとかなねぇは困った様な顔で大きな嘆息をついた。

「そうねぇ~敢えて言うなら、出る杭を打つ組織?」
「……なにそれ?」
「目立ってる奴を殺っちゃったり、力を持っていながら自分たちの組織に入らない奴を集団でボコボコにしたり」
「え~と、それは自分たち以外、力を持つ事は許さないって事?」

   そう答えるとかなねぇは満足そうに頷いた。
   これは、かなねぇはその調停者とかいう組織にいい感情を持ってないな。

「そう解釈して貰って構わないわ。今のけんちゃんなら理解出来ると思うけど、私も『風の国』の連中に嫌気がさしてね、死んだ様に偽装して国を出たの。だけど今度は調停者に目を付けられちゃって。それで同じ様な境遇の人たちと協力して、当時国ごとにバラバラだった冒険者ギルドを一つに纏めて、調停者に対抗したのよ」
「そうだったんだ……」
「と、言う事で私の話はこんな所ね。で、今度はけんちゃんたちの話を聞こうかしら」

   そう言うとかなねぇは底意地の悪い笑みを浮かべた。
   あっ、これは普通に話を聞くつもりは無いみたいだ……
   かなねぇ、この世界で百年もの年月を生きてきたっていうのに、全然変わってないや。
   ちょっと安心した様な、ちょっとは成長していて欲しかった様な……

「先ずは、一番気になってた事だけど、ひろちゃんはどうしたの?   まさか、ひろちゃんだけこっちに来なかったとか?」
「その事なんだけど、博貴は……」

   僕は博貴の現状を話した上で、博貴の安否確認をかなねぇに頼んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   カナねぇの容姿描写をし忘れてしまいました。
   後にやらせていただきます。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁
ファンタジー
とある異世界で暮らすエリアックは、6歳になったある日、唐突に前世の記憶を取り戻す。 前世で過労死を遂げた主人公は、謎の女神の介入によってこの世界に転生していたのだ。 その際、女神はちょっとした力を与えてくれた。 【無荷無覚】(むかむかく)――一切のストレスを感じなくなるという力だった。 光と闇の精霊から二重に加護を授かってしまったエリアックは、加護同士の反発のせいで魔法が使えず、「出来損ない」と陰口を叩かれてきた。 だが、前世の記憶を取り戻したことでふと思う。 「【無荷無覚】を使えば、俺にも魔法が使えるんじゃね?」 ――それが、ストレスを感じなくなった男が繰り広げる、一大転生譚の始まりだった。 ※『NO FATIGUE 24時間戦える男の転生譚』と趣向を同じくする後継的な姉妹作という位置づけです(作者も同じです)。 ※この作品は未書籍化作品です。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を

榊与一
ファンタジー
俺の名は御剣那由多(みつるぎなゆた)。 16歳。 ある日目覚めたらそこは異世界で、しかも召喚した奴らは俺のクラスが勇者じゃないからとハズレ扱いしてきた。 しかも元の世界に戻す事無く、小銭だけ渡して異世界に適当に放棄されるしまつ。 まったくふざけた話である。 まあだが別にいいさ。 何故なら―― 俺は超学習能力が高い天才だから。 異世界だろうが何だろうが、この才能で適応して生き延びてやる。 そして自分の力で元の世界に帰ってやろうじゃないか。 これはハズレ召喚だと思われた御剣那由多が、持ち前の才能を生かして異世界で無双する物語。

処理中です...