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プロローグ
プロローグ (プロローグという名の人物紹介)(12/29改稿)
しおりを挟むポヨ~ン……
「なにぃー!?」
思わず出てしまった俺の間抜けな声が、ダンジョン内に虚しく響き渡る。
渾身の力を込めて突き立てた包丁の刃先を、スライムの柔らかボディに簡単に弾じかれたのだ。
想像してみて欲しい。ゼリーに思いっきり刃物を突き立てたのに、予想外の弾力で弾かれたんだから、驚かない方がおかしい。
弾かれた反動で尻餅を付いた俺は、驚愕の思いで眼前のスライムを見つめるしかなかった。
スライムは包丁を突き立てられた衝撃で身体をリズミカルに揺らしてると思ったら、身体を広げ、俺を包み込もうと頭上から覆い被さってきた。
「うっそぉーーーーー!」
再び口から出てしまう情け無い心の叫び。両手足を使って尻餅の体勢のまま必至に後退を試みるが、間に合いそうにもない。
うわー、これ死んだわ。HP5でとても耐えられる攻撃だとは思えない。
妙な冷静さでそんなことを考えてると、
「博貴! 何やってるの!」
怒りと焦りが織り混ざった声と共に服の襟首を掴まれ、後方に凄まじい勢いで引き摺られた。
「痛たたたたたっ! 健一、痛い!」
大根おろし宜しく尻を削られる痛みを代償に命を救われた俺は、振り返ってその命の恩人を怨めしげ睨む。
「痛いじゃないよ博貴、一撃入れたらすぐ後退って言っただろ」
怨みの篭った視線を受け流し、命の恩人は呆れた表情で見下ろしながら、そう非難した。
彼の名は狩野健一。黒を基調としたローブを無難に着こなすこの二枚目は、廃人ゲーマーと重度のオタクという二枚看板を背負う少し残念な男だ。
「いや、そうは言ってもまさか弾かれるとは思わなかったからさぁ……」
「なんてことするの! ヒロちゃんが死んじゃうでしょう!」
健一への言い訳を、可愛らしい怒声が遮る。
声がした前方に視線を戻すと、小柄の可愛らしい女の子がスライムに大振りのビンタをかましていた。
バシャ!
ビンタを喰らったスライムは、地面に落とした水風船の様に四方に弾け飛んだ。
俺があれだけ力を込めて包丁を突き立てても傷一つつかなかったのに、ビンタ一発って……理不尽すぎる。
「ヒロちゃん、大丈夫?」
スライムを容易く片付けた女の子が、心配そうに此方に駆け寄って来る。
彼女の名は姫野美姫。愛称はヒメ。
まだ幼さの残る可愛らしい顔と、ゆったり目の白いローブの上からでも分かる見事なボディを持つ女の子だ。
美男の狩野健一、美女の姫野美姫、並顔(僻み有り)の俺、桂木博貴。
三人は物心つく前からずっと一緒の幼馴染みである。
「博貴、何で直ぐ下がらなかったんだい?」
「いや~、ゼリーのくせに包丁を弾くもんだから、驚いちゃって直ぐに行動に移せなかった」
「驚いたって……あのねぇ博貴。これは命に関わる事なんだよ」
「ねぇ、ケンちゃん」
俺を心配し忠告してくれいる健一の服を、チョイチョイとヒメが引っ張る。
「ん? どうしたのヒメ」
「ヒロちゃんが直ぐに行動出来なかったのって、能力値が低いからじゃない?」
ヒメの言葉を聞き、健一は少し考え込む仕草をした。
「知力が低いから判断力が低下して、敏捷度が低いから直ぐに行動に移せない…… う~ん、ありえるか」
言いながら健一は自分の分析にうんうんと満足気に頷く。
その話を聞いて、俺は『またなのか…』と嘆息をもらした。
この異世界に来て此の方、俺は幾度となく異世界の法則の所為で煮え湯を飲まされてきた。
この世界は全てが『スキル』と『ステータス』に左右される世界だ。この二つの前では、元の世界の物理法則すら通用しないのだからたまったものではない。
健一とヒメは俺の能力値が低いと表現したが、実際は低いなんてものじゃない。
俺の能力値はーー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前 桂木 博貴 Lv0
人間種 人間
状態 正常
HP 5/5
MP 5/5
体力 1
筋力 1
知力 1
器用度 1
敏捷度 1
精神力 1
魔力 1
〈ノーマルスキル〉
料理Lv5(1)
恐怖耐性Lv5(2)
世界共通語Lv10(1)
〈オリジナルスキル〉
**********Lv10(30)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ーーである。
言っておくが、俺は十六歳の健全な肉体と平均的な知識を持っている。しかし、この世界は俺を生まれたての赤ん坊並と判断するだろう。
全くもって理不尽な事だ。
この世界の理不尽な洗礼に打ちのめされ項垂れていると、ヒメと話していた健一がこちらを見る。
「取り敢えず、博貴の物理攻撃は通用しない事は分かったし、上に戻らない?」
「うん、それがいいよ。ヒロちゃんにはここは危険すぎるもん。それに、そろそろ桃花さんが夕食を作ってる頃だと思うよ」
「……そうだな、戻るか」
健一の提案にヒメが同意し、俺は落胆しながら頷いた。
ここはダンジョンの第一層。
ここから数メートル戻った所に俺達の拠点となるログハウスに通じる上り階段がある。
俺達は意気消沈しながら地上へと戻った。
「おや、その様子だとやっぱり失敗したみたいだね」
ログハウスに戻り、リビングに入るなりそう声をかけられた。
反射的に項垂れていた頭を上げる。
リビングの中央に設置された大きなテーブル。そこに備え付けられいる椅子に、メガネを掛けた青年が座っている。
彼の名は井上晴哉(いのうえはるや)元の世界では俺達の一つ上の二年生で、高校の生徒会長だった男だ。
「ええ、やっぱり【料理】スキルと包丁の組み合わせでは、スライムにすらダメージを与えられ無いみたいです」
井上は嘲笑いの見え隠れする笑みで俺を見ていたが、健一が俺を庇うように前に出て彼に答える。
「ふ~ん、やっぱり【料理】でダメージ補正#☆\*〆~……」
井上は更に見下した笑みを浮かべ話し始めたが、その言葉は途中から意味の分からない物に変わった。
ああ、また始まった……
途中から理解出来なくなった井上の言葉を聞き、俺は顔を歪める。
別に井上は俺の理解出来ない言葉で話してる訳ではない。
話してる言葉は日本語だと分かっているのに、その内容が全く理解できないのだ。
これは俺の推測だが、知力1の俺はこの異世界の新しい情報を理解、または記憶出来ないのだと思う。
スライムを認識出来たのは、単に元の世界の情報に過ぎない。もっとも、この世界のスライムに目と口は付いていなかったが……
井上と健一が俺が断片的にしか聞き取れない会話を続けていると、
「あっ、私、桃花さんを手伝ってくるね」
そう言ってヒメが厨房に消えていった。
ヒメ……訳の分からない会話をするこの二人の所に、俺を一人置いて行くのか……
居た堪れない気持ちでヒメの背中を見送っていると、外に通じる扉が勢い良く開け放たれ、マッチョの大男が滴る汗をタオルで拭きながら室内に入って来た。
彼の名は窪省吾(くぼしょうご)。元空手部部長の三年生で、身体を鍛えるのが何よりも好きな人だ。
今も外で日課のトレーニングでもしてたのだろう。
「おう、お前ら帰ってたのか」
屈託の無い笑みを浮かべ、窪さんが此方に手を上げた。
「ええ、今さっき帰って来ました。挑戦は…… 失敗しましたけど」
「はっはっはっ、失敗したか…… まっ、気を落とすな」
窪さんは俺に近づくと、バシバシと背中を叩きながら豪快に笑った。
窪さん……ちょっと……いや、だいぶ痛いです。
瞳に避難の意思をふんだんに込め窪さんを見る。しかし、窪さんは御構い無しで激励という名の攻撃を緩めない。
窪さん、マジで痛いから……ああ! HPが減ってる!
俺の視界の右上にあるHP表示が3/5となっていた。
このままでは五分と持たずにHPが0になってしまう! 死因が仲間の激励なんて嫌すぎる。
本格的に窪さんを止めようとした矢先、厨房へと繋がる扉が開き、抑揚の無い無感情な女性の声がした。
「皆、揃ってたのね……」
そちらを見ると、長身の女性が立っていた。
彼女の名は喜多村桃花(きたむらとうか)井上と同じ元二年生で生徒会副会長だった人だ。
身長が百七十五センチの俺とほぼ同じ背丈にスレンダーなボディ。ストレートの艶のある黒髪をポニーテールに纏め、かつては表情豊かだったその涼やかな美貌を、今は無表情に固めている。
桃花さん、元の世界ではよく笑う人だったのに……この世界に来てから段々感情を出さなくなっちゃったな……
誰もが健一みたいに『異世界転移最高です!』とはいかないか……
「丁度いいわ……夕食の準備が出来たから、夕食にしましょう」
桃花さんはそう言い残し厨房に引っ込むと、ヒメと共に料理を持って来てテーブルに並べ始めた。
夕食か。夕食が終われば娯楽の無いここでは就寝となる。つまりは今日が終了した事を意味していた。
結局今日も収穫無しだった……いつになったら……どうしたらレベル0を抜け出せるのだろうか?
俺はこの世界に来て矢鱈と増えたため息を盛大に吐いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めての方は読んで頂いて有難うございます。
以前改稿前の作品を読んで頂いた方は、再び読んで頂ぎ有難うございます。
神尾 優です。
この話は読みづらかった始めの頃の話を今描いたらどう書くだろうか?という私の自己満足の為に書いてみた話です。
前半部分はほぼ別物になってしまってますが、いかがだったでしょうか?
本当は設定説明でうざい前半の話を全部書き直したいのですが、時間が無いので取り敢えずプロローグのみ書いてみました。
初めて書いた元の話も残しますので、これを初めて読んで頂いた方は次の話は読まずにいて下さい。
では、本当に読んで頂き有難うございました。
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