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第5章 『水の国』教官編

第168話 久々の工作……計画はお早めにしとくべきでした

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「……邪魔」

   五十層のフロアボス、リザードマンジェネラルを【格闘術】と【風魔法】の複合技、足に風を纏わせて蹴る烈風蹴で煩わしさを吹き飛ばす様に文字通り一蹴に伏し、俺は戦利品を回収していた。

「ふむ、【解体】で出てきたのはありふれた武具と核、それと……なんだこれは?」

   握りこぶし程の薄緑色のガラス玉の様な物を持ち上げ、小首を傾げてみるが、それで分かるわけもない。

(アユム?)
[魔除けのオーブですね。半径五メートル程の魔素の通過を阻害する膜を張って、魔物が近付くのを阻止する魔道具です。ですが、このダンジョンに設置されている結界程強力な物ではありませんから、レベルが高い魔物には効果はありません]

   俺の疑問に【森羅万象の理】を使用したアユムが直ぐに回答してくれる。
   しかし、小威力とはいえ魔素阻害型の魔道具ねぇ……

「流石にタイムリー過ぎて、ご都合主義が過ぎるよな」
[これも、【幸運】の効果でしょうか?]
「今、欲しい物が出てくる、ってか?    だとしたら万能過ぎるなぁ」

   苦笑いを浮かべながら、俺は魔法陣へと足を踏み入れた。

   →→→→→→

「さて、久々に工作の時間といきますか」

   久し振りの工作室。
   公彦さんを救う為というよりも、自身の趣味に打ち込めるという事実の方が俺の高揚感を高めてくれているような気がするが、それはまあ、ご愛嬌。
   でも、しょうがないよね。公彦さんとはさっき会ったばかりだし、俺は救える人は全て救いたいなんて思える程、博愛主義者でも善人でもない。
   それでも、美香さん達のトラウマを解消出来るのと、俺の趣味の時間が取れるという一石二鳥のこの状況、合法的に趣味に没頭出来るっていうのは、心が踊ってしょうがない。
   時空間収納から色々な材料を取り出し、机の上に置きながら俺はニタニタしていた。

「さて、魔道具の核となるのは、やっぱりさっき手に入れた魔除けのオーブかな」

   魔除けのオーブを手に取り、俺はそれを繁々と見つめながら思案に耽る。
   魔除けのオーブは確かに魔素の通過を阻害する効果を持つが、それはごく微弱な物。例えるなら蜘蛛の巣みたいな物か……   払い除けずに通ろうとすると不快感を与えるが、力尽くで通れないこともない。
   これは、このオーブが張っている幕が、目の大きい網状だからだ。
   先ずは、【至高の魔道具技師】の力で魔除けのオーブの効果範囲を半径一メートルくらいまで狭めてみる。すると、範囲を狭めた分、網目が小さくなり、大分密度が濃くなった。

「でも、網は網、これでは魔素が漏れ出るよな」

   このダンジョンの結界は魔素を完全にシャットアウトする。これではまだ結界を通れるわけがない。

「やっぱり、魔法での補強は必須か。でも……」
[このオーブは、マスターの魔法を込めるにはあまりにも貧弱かと]

   俺の呟きに、アユムがキッパリと言い切る形で付け加える。
   魔法を込めるという行為は、何に対しても出来るわけではない。強い魔法を込めるには、それ相応の強力な素材が必要なわけで……
   このオーブは、今の魔術式を展開してるだけで許容量が一杯一杯。分かっていたとはいえ、そこが悩みどころだ。

「だよなぁ…… それに、下手に能力を上げると、使用するMPも増える。そのMPを持ち主に頼る事になったら、公彦さんの負担もかなりのものになってしまう」
[ですね。今のままの効果だと、魔術士なら自然回復で補える量ですが、マスターの魔法の効果まで加えてしまうと、その負担は連続使用で半日が限度と推測されます]

   ですよねぇ……魔術士でその負担なら、前衛職だった公彦さんでは、更に負担が増えることになる。

「う~ん、使えそうなアイテムがタイムリーに出てきたから行けそうな気になってたけど、これは大元から見直さないとダメか……って!   そう言えば、アレがあったな」

   俺は、あるアイテムを思い出し、時空間収納をゴソゴソと漁り……

「あった、これだ」

   目的の物を引っ掴み、引っ張り出した。
   それは、爬虫類の瞳を連想させる黒い線の入った赤い宝石。
   火竜山の麓で倒したレッサードラゴンのドロップアイテム、ドラゴンアイ。
   これには、元になっているドラゴンの魔力がこもっている。元になっているのがレッサードラゴンだから魔力量的に不安はあるが、結局、ダンジョンから出るまで保てば良いんだから、こいつでも十分な筈だ。

「こいつに【至高の錬金術士】を使って……」

   スキルを発動させて机上に輝く魔法陣を出現させ、その上に魔除けのオーブとドラゴンアイを置く。
   すると、二つが磁石で引き合う様に近付き、最終的には重なり合って黒い線の入った拳大の薄緑色のオーブになった。

「よし、これなら消費魔力的にも、新たな魔法を込める素材的にも問題無くなった筈だ。あとは、込める魔法だが……」  

   術式はこのオーブに込められているものでいい。この術式は、普通の魔法で作った結界系の魔法が張った場所から動かせないのに対して、持ち主を中心に結界を張ったまま移動出来るという利点がある。
   問題は、それに補強する魔法だが……
   俺の【神級聖神魔術】サンチュクアリや【超級聖神魔術】ホーリースペースでは、内部を聖属性の光で満たしてしまうから、魔物の身体を持つ今の公彦さんでは耐えられない。
   だとすると、【神級闇黒魔術】系統なら行けそうな気がするんだけど……

(【超級闇黒魔術】のカオススペースって、魔素の流出を抑えられるかな?)
[カオススペースは、ホーリースペースの正反対。光属性を寄せ付けない結界ですが、魔法に対しても防壁としての効果がありますので、可能です]

   ふむ……魔法を止めるってことは、つまり魔力を止めるってことか……なら、元々余剰MPである魔素が通り抜け出来ないってことに繋がるよな。
   だったら……

[しかし、カオススペース内では、回復魔法を無効化してしまいますよ]

   方向性が定まってきたと思ったら、アユムからの追加情報で思わず肩がガクッと落ちる。

(つまり、カオススペースを主体にした魔道具を持ってると、あらゆる魔法に対して耐性を持つ結界を常に張ってるってことか?   一見、凄い結界に思えるけど、回復魔法まで無効化してしまうとなると、戦場では致命的だな……って、待てよ)

   アユムの話によると、魔法に対して効果がある魔法防壁は魔力を通さないってことだよな。ってことは、別に闇黒魔術にこだわる必要は無いどころか、防壁の強度にすらこだわる必要がないってことか。
   例えば【初級光術】のライトウォール。
   あれは光の膜を貼り魔法を防ぐが、同じ光属性の回復魔法に対してはその効果を発揮しない。それに、強力な同系統のサンクチュアリと違って、内部には特に効果は無い。

「なんだ、難しく考え過ぎてたのか」

   あまりの呆気ない解決策に、思わず肩の力が抜ける。
   強くなると、弱い魔法に目が行かなくなっていかんな。弱い魔法なら、所持者の消費MPも抑えられるし、願ったり叶ったりじゃないか……って、消費MPを抑えられる?   ……

「あーっ!   だったら、別にドラゴンアイを使わなくても、ミスリル辺りを使っても良かったじゃないか!」

   その事実に気付き、愕然としたが後の祭り。
   仕方無しに俺は、ライトウォールの他に、身体強化系の補強もオーブに行いながら、魔道具を仕上げた。



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みんなの感想(165件)

Yoshio
2022.03.13 Yoshio

待ってるんだけど、続きをそろそろ…

解除
たなかさん
2021.04.20 たなかさん

ぼちぼち続きが読みたいなぁ
と思っております。

解除
月狐
2021.03.20 月狐

なんと!おっさんの作者様でしたか。楽しく読了しました。続きおまちしています🎵

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