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第1章 貧弱だよ乳児編

第2話 脱走、魔力

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   俺の名はセリウス・ファルマー。魔王から人間に成り下がった者。生後、二百二十日程だ。
   生まれ変わったのが人間だと知り気を落としている時に、同年代にも泣かされ、その人間の中でもヒエラルキーの最下層なんじゃないかと少し鬱に入りながら二十日程経ってしまった。
   しかし、ふさぎ込んでいても仕方がないので今日から気持ちを入れ替える事にする。
   俺がふさぎ込んでいた間、突然元気が無くなった俺を両親がえらく心配したが、それを気にしての行動ではない。俺は魔王。人間など歯牙にも掛けない存在なのだ。それを忘れないでほしい。
   ということで、今日から俺は人間でありながら、あの封印を破壊するほど強くなることを決意した。あの封印は外からなら壊せるだろうと予想はしているが、そう簡単に壊れる物ではないだろう。しかし、目標は難しい程燃えるってもんだ……強がりではないぞ。
   ふさぎ込んでいる間、死んで元の魔王の身体に戻るという考えも確かに頭の片隅を過ぎった。魂のカケラをあっちの身体に残して来ているのだ、戻れる算段は結構高い。しかし、俺は敢えて困難な道を選ぶことにした。
   別に、俺が死んで両親が悲しむんじゃないか、なんてことは一欠片も考えてはいない。
   という事で、俺は強くなる為の第一歩を踏もうと思う。
   その第一歩というのはーーこの、柵付きのベッドからの脱出だ!
   ふっふっふっ、俺はもう、ハイハイが出来る。俺にとってここはもう、出られない牢獄ではないのだ。
   脇の留め金を外せば、こちら側の柵は倒れることは既に調査済み。
   ここと、こっちの留め金を外してしまえば……ほら、こっちの面の柵が倒れた。
   今は昼間、父は仕事に出ていていない。いるのは母だけだ。つまりは、見つかる可能性は半分ということだ。
   ほくそ笑みながらベッドからの床を見下ろす。
   後は、このベッドと床の段差をなんとかすれば……
   俺は、敷布団を掴みながら足をゆっくりと床の方に下ろしていった。
   中々、足が床に付かない……もうちょっとだと思うんだが……あっ!
   なんと、足が床に付く前に、握力が持たなくて掴んでいた敷布団を離してしまった。
   あうっ!
   もんどりうって床へと倒れてしまう。
   ゴンッ!
   当然のように強かに後頭部を打つ。
   うううっ!   ここで泣いてしまっては、母親にバレてしまう。ここは堪えれば……
   と思いはするのだが、そんな意思に反して俺の口からは盛大な泣き声が漏れ出てしまう。

「うぎゃーーー!」
「どうしたの?   セー君」

   くそっ!   なんで俺はこんなことが我慢できないんだ。母が慌てて隣の部屋から来てしまったじゃないか。

「どうして柵が開いてるの?   壊れたのかしら?   あらあら、開いた柵から落ちちゃったのね。ごめんなさいね」

   心配そうに俺を抱き上げた母は、左右に揺さぶりながら優しく打ち付けた後頭部を撫でる。
   ああ、安らぎを感じてしまう。
   安らぎを感じて泣き止んだ俺を、母はベッドに寝かせつけて胸をポンポンと叩いた。
   それは、安らぎの中で行われる恐怖のコンボ。
   それは止めてくれ!   その、眠りへと誘う悪魔のリズムを刻むのは!   俺は……強くなる為に……外へと……出なければ……いけない………………グーーー。
   母の妙技によって、俺は眠りの中へと誘われた。



   ーーーーーーーー

   俺の名はセリウス・ファルマー。日々強くなることを願う者。生後、二百四十日程だ。
   今までの俺はどうかしていた。
   ハイハイが出来るからって、それをして強くなれる訳がない。何故それに気付かなかったのか。
   乳児が体を鍛えて、それに見合った成果が上がられるわけがないのだ。確かにあれ以降、脱走は数回成功している。そのせいで今は、柵の角角を紐でガッチリと結わえられ柵が倒れないようにされてしまっているが、肉体を鍛えることが無意味だと気付いた今の俺にはそんなことは些細なこと。
   身体を鍛えることが無意味なら、今は魔力を鍛えれば良いのだ。
   魔力の総量には、個人個人に上限がある。
   例えば、今の俺の魔力の上限が百だとする。それに対して、初歩的な攻撃魔法のファイアアローの消費魔力が十だとすると、ファイアアローを十発撃ってしまえば今の俺の魔力は枯渇してしまう。しかし、俺には強大な魔力を内包する魔王としての肉体と魂で繋がっているという強みがある。
   例えこの身体の魔力が減っても、魂の繋がりを通して魔王の身体から魔力を充填出来るのだ。
   しかし、それでもこの身体の上限を超える魔力を消費するような魔法は使えない。だから、この身体の魔力の上限を高める必要があるのである。
   では、魔力の上限を上げるにはどうすれば良いのか?   それは、身体を鍛えるのと同じ。適度な負荷を与えれば良い。つまりは、魔法を使いまくれば良いのだ。
   というわけで、早速魔法を使おう。
   室内で破壊性のある魔法を使うわけにはいかないからな。無害な……消費魔力は少ないが、光るだけのライト辺りが良いかな。
   よし、先ずは体内の魔力を感じて……感じて……あれ?   魔力が感じられない……なんでだ?
   元の身体まおうのからだだった時は息をするように感じられた体内の魔力が感じられない。
   魔法とは、魔力を呪文と意思の力で別な力へと変換する行為。魔力の存在を感じられなければ使えないのだ。
   どうする?   まさか、こんな初歩的な部分でつまずいてしまうとは!   くそう!   俺はどうやったら強くなれる!
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