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癒えない過去と公爵
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私たちの家族は、政略結婚の多い貴族にしては珍しく、とても仲が良かった。愛する妻と愛する娘、2人がいれば何も要らなかった。
ブレスト侯爵家から婚約の申し出があった。妻は体が弱く、もう子供を産めそうになかった。だから娘には婿を取ってもらうしかない。しかし、娘の気持ちが1番だ。
娘と侯爵家の2番目の令息を会わせることにした。
「お父さま!わたし、アルディスと結婚したい!」
「好きになったのかい?」
「うん!大好き!!」
「…パパと結婚するって3日前まで言ってたのに…。こんなに早く親離れするとは…。」
「これも成長のうちですよ。」
妻が優しく微笑んだ。
「しかし、気に入らん!」
「アルディス令息は優しそうな方でした。何より、本人が気に入ったというのですから婚約を結びましょう。」
「まだ8歳だ…。もう少し後からでも…。」
「あなた!あなたが婚約する年頃だと言ったのではありませんか!」
「…それはそうだが…!!」
娘は自慢の子だった。優しく、凛としていて賢い。どこに出しても恥ずかしくない子だった。
いつも明るい娘からだんだんと笑顔が消え始めたのはいつからだったのだろう。
「学園から帰ってきてから元気がないな。学園で何かあったのか?」
「お父様…。それが…アルディスは私のことを好きでないような気がするのです。」
「アルディスが?それはないだろう。いつも仲良く遊んでいたではないか。」
「それは子供の時の話です!私たちはもう16歳になりました。しかし、いつまで経っても妹のように見られてる気がするのです。それどころか、疎まれてるような…。」
「私も16歳ぐらいの歳の時はレディと話すのが恥ずかしかったものだ。彼もそうなのだよ。」
「そうなのでしょうか…。」
あの時、もっと別の言葉をかけていればよかった。そんな男、愛しい娘には不釣り合いだと。
「公爵様!!学園からお知らせが届いております!お嬢様に危機があったと!!」
「なに!?今すぐ行こう!
馬車を用意しろ!」
娘の入っていた寮へと案内される。案内係は一言も話さない。早く娘に会いたいというのに、ゆっくりとした歩調だ。そのことにとても嫌な予感がした。
部屋に入るとベッドで眠る娘がいた。
「レティ!!」
駆け寄り手を握る。
手はあまりに冷たく、まるで生きていないかのようだ。
「レティ!レティ!返事をしてくれ!レティ!」
私は彼女の体を揺さぶった。
彼女はピクリとも動かなかった。
「レティ…こちらを見てくれ。私の名を呼んでくれ…。」
いつのまにか白衣の男がそばに立っていた。
「今朝、プラトン令嬢が毒薬を飲んで死亡されているのが発見されました。」
「そんな!嘘だ!」
「自殺とみられます。」
「そんなわけが無い!レティが死ぬ筈ななど、ない…。」
そう言いながらも、最近の娘の憂鬱な表情が頭から離れずにいた。
「枕元にお手紙がございました。開封はしておりません。」
手紙を渡される。
私は急いで手紙を開けた。
“お父様、お母様
アルディスのことを深く愛しておりました。アルディス以外との未来など考えられませんでした。
しかし、アルディスに別の人との子供ができたことを聞かされました。
私はもう耐えることができそうにありません。
今まで愛してくれてありがとう。
先立つ不幸をお許しください。
レティシア・プラトン”
妻は娘の自殺を機に、さらに病状が悪化し、後を追うように亡くなってしまった。愛する娘も妻も失った自分にもう何も失うものはなかった。深い悲しみはいつしか深い怒りへと変わった。
アルディスはアンドロ・ルルアンという学園に通う平民の少年と不貞行為をしていたことが分かった。
アンドロが子供を妊娠しなければ、娘も妻も失うことはなかったのに。アンドロがいなければ、今も娘と妻は幸せに暮らしていただろうに。
誘拐したアンドロに剣先を向ける。
お腹の子だけはと命乞いをする姿が妙に気持ち悪く見えた。
妻と娘はお前のせいで死んだのに。
お前が、男にも関わらず、アンディスと恋に落ちるから。お前が、男にも関わらず、アンディスとの子を身籠るから。
お腹を必死に守るアンドロの腹を切り裂く。
異常は正常に戻さなくては。
ブレスト侯爵家から婚約の申し出があった。妻は体が弱く、もう子供を産めそうになかった。だから娘には婿を取ってもらうしかない。しかし、娘の気持ちが1番だ。
娘と侯爵家の2番目の令息を会わせることにした。
「お父さま!わたし、アルディスと結婚したい!」
「好きになったのかい?」
「うん!大好き!!」
「…パパと結婚するって3日前まで言ってたのに…。こんなに早く親離れするとは…。」
「これも成長のうちですよ。」
妻が優しく微笑んだ。
「しかし、気に入らん!」
「アルディス令息は優しそうな方でした。何より、本人が気に入ったというのですから婚約を結びましょう。」
「まだ8歳だ…。もう少し後からでも…。」
「あなた!あなたが婚約する年頃だと言ったのではありませんか!」
「…それはそうだが…!!」
娘は自慢の子だった。優しく、凛としていて賢い。どこに出しても恥ずかしくない子だった。
いつも明るい娘からだんだんと笑顔が消え始めたのはいつからだったのだろう。
「学園から帰ってきてから元気がないな。学園で何かあったのか?」
「お父様…。それが…アルディスは私のことを好きでないような気がするのです。」
「アルディスが?それはないだろう。いつも仲良く遊んでいたではないか。」
「それは子供の時の話です!私たちはもう16歳になりました。しかし、いつまで経っても妹のように見られてる気がするのです。それどころか、疎まれてるような…。」
「私も16歳ぐらいの歳の時はレディと話すのが恥ずかしかったものだ。彼もそうなのだよ。」
「そうなのでしょうか…。」
あの時、もっと別の言葉をかけていればよかった。そんな男、愛しい娘には不釣り合いだと。
「公爵様!!学園からお知らせが届いております!お嬢様に危機があったと!!」
「なに!?今すぐ行こう!
馬車を用意しろ!」
娘の入っていた寮へと案内される。案内係は一言も話さない。早く娘に会いたいというのに、ゆっくりとした歩調だ。そのことにとても嫌な予感がした。
部屋に入るとベッドで眠る娘がいた。
「レティ!!」
駆け寄り手を握る。
手はあまりに冷たく、まるで生きていないかのようだ。
「レティ!レティ!返事をしてくれ!レティ!」
私は彼女の体を揺さぶった。
彼女はピクリとも動かなかった。
「レティ…こちらを見てくれ。私の名を呼んでくれ…。」
いつのまにか白衣の男がそばに立っていた。
「今朝、プラトン令嬢が毒薬を飲んで死亡されているのが発見されました。」
「そんな!嘘だ!」
「自殺とみられます。」
「そんなわけが無い!レティが死ぬ筈ななど、ない…。」
そう言いながらも、最近の娘の憂鬱な表情が頭から離れずにいた。
「枕元にお手紙がございました。開封はしておりません。」
手紙を渡される。
私は急いで手紙を開けた。
“お父様、お母様
アルディスのことを深く愛しておりました。アルディス以外との未来など考えられませんでした。
しかし、アルディスに別の人との子供ができたことを聞かされました。
私はもう耐えることができそうにありません。
今まで愛してくれてありがとう。
先立つ不幸をお許しください。
レティシア・プラトン”
妻は娘の自殺を機に、さらに病状が悪化し、後を追うように亡くなってしまった。愛する娘も妻も失った自分にもう何も失うものはなかった。深い悲しみはいつしか深い怒りへと変わった。
アルディスはアンドロ・ルルアンという学園に通う平民の少年と不貞行為をしていたことが分かった。
アンドロが子供を妊娠しなければ、娘も妻も失うことはなかったのに。アンドロがいなければ、今も娘と妻は幸せに暮らしていただろうに。
誘拐したアンドロに剣先を向ける。
お腹の子だけはと命乞いをする姿が妙に気持ち悪く見えた。
妻と娘はお前のせいで死んだのに。
お前が、男にも関わらず、アンディスと恋に落ちるから。お前が、男にも関わらず、アンディスとの子を身籠るから。
お腹を必死に守るアンドロの腹を切り裂く。
異常は正常に戻さなくては。
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