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城下町と俺

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「アース、起きて。」
「んん…。」
「アース。」
「今日は学校休みだろ…?もう少し寝させてくれ…。」
「城下町に行こう。」
「え!!本当!?」
俺はガバッと起き上がる。
「本当に?いいの?」
「ああ。護衛は多いけど、それでも良いなら。」
「やったー!!早く準備しよう!」

俺は急いで支度をする。この学園から城下町までは馬車で1時間。ちょっとした遠出だ。

「アース、今日はこの服に着替えて。今日は一応お忍びデートだからね。」
ソレイルは金持ちの平民が着るような服を着ていた。確かにこれならギリ平民とも思われるかも…?いや、ソレイルの煌びやかさが隠しきれてないな。

馬車に揺られる。
「俺、串焼き食べたい!あと、クレープと、唐揚げと…。」
「今までにないくらい楽しそうだね。」
ソレイルが微笑む。
「それはそうだろ!だって初めてなんだ、こうやって街に行くのは。ずっと憧れてたんだ。自由に買い物したり、食べたりするのが。」
「…アース。君が自由に街に出られるように俺も頑張るよ。」
外の景色に夢中なアースにはその呟きは聞こえていなかった。

街に出る。護衛は沢山つくと言われてた割に近くには2人しか護衛がついていない。
「意外に護衛は少ないんだな。」
「いや、30人はいるよ。」
「え?」
「今目の前を歩いている人たち、後ろを歩いている人たち、あそこで酒を飲んでいる人、あそこで女性と会話している人、あそこで花を売ってる人…。みんな護衛だ。」
俺はポカーンとした。さすがはプロ、擬態能力もピカイチだ。
「こんなに護衛が付いているなら安心だな!」
「そうだといいんだけど。」
ソレイルは少し心配性すぎるところがある。

「早く行こう!俺、あの串焼き食べたい!」
ソレイルの手を引く。ソレイルはようやく安心したように笑った。

「どれがおすすめですか?」
「これなんかどうですか?新商品なんですよ。遠い異国の食べ物なんですよ。その国は鎖国していてね…、なかなか情報は入らない。でもたまたまこのレシピだけ回ってきたんですよ。」
「これって『たこ焼き』だ…。」
「お!お兄さん物知りですね!そうです、これはたこ焼きって言うんですよ。」
「その国の名前ってなんて言うんですか!?どこにあるんですか!?」
「何だっけな…。」
「アース!時間もないし、早く買って食べよう。」
その言葉に俺はハッと正気に戻る。
「そうだった…。なんか興奮してたみたい。早く買って食べよう。」

この世界にアース・フレイムとして生を受けた。前世は前世だと割り切っているつもりだ。それでも、時々、思い出して無性に寂しくなる。ここの生活はもう俺にとって当たり前になっているが、それでもあの頃の食事や文化を懐かしく思ってしまう。
ソレイルに要らぬ心配をかけてはいけない。気を取り直そう。

露店には色々なアクセサリーが出ていた。
そこには美しいかんざしがあった。桜のような花の細工がついている。また、懐かしいものを見てしまった。胸の奥がきゅっと痛くなる。
「アース、それ気になるの?」
「え?ううん!早くお目当てのカフェに行こう!」


「どれにしようかな~。」
目を輝かせながらメニューを見るアースにソレイルはほっと息をつく。アースは先程まで様子がおかしかった。
「俺、このパフェとワッフルで悩んでるんだけど、どっちがいいと思う?」
「じゃあ俺がワッフル頼むから、半分こしよう。」
「本当?やったー!」

「ん!このパフェ美味しい!いちごのムースが甘すぎなくてちょうどいいよ。」
「一口ちょうだい。」
あーっと口を開ける。
「もしかして『あーん』して貰おうとしてる?」
俺がジトっとソレイルを見る。
こんな恥ずかしいこと絶対したくないからな。
「してくれないの?ここには俺たちのこと知ってる人いないんだし、ダメ?」
何度でも言おう、俺はソレイルのお願いに弱い。
顔を真っ赤にしてスプーンをソレイルの口元に運ぶー。

「ソレイル様!!」
驚いて横を見るとステラがいた。
「この店にはよく来るのですか?私も大好きなんです!」
「…久しぶりだね、ステラ嬢。今日、僕は愛しい婚約者とデートで来てるんだよ。」
だから邪魔をしないでくれというソレイルの心の声が聞こえてくる。

「そうなんですね!実はどの席も埋まってて…。よかったら相席させてください。」
「…相席?」
平民にはある相席文化も、当たり前だが貴族社会にはない。相席という図々しいお願いにソレイルは眉を顰めた。
「何度も言うが僕は今日デートで来てる…」
「お願いします!」
ステラが勢いよく頭を下げた。この様子に店内の人々も何事かと注目しだしている。アースもいる以上大事にはできない。

「分かった。相席してもいい。だけど、僕は普通にデートを続けるから。」
「ありがとう!」
ステラは嬉々としてソレイルの隣に座る。
何で図太い神経の持ち主なんだ。アースは少し感心してしまった。

「アース。」
ソレイルがまた口を開ける。
「え!まさかまだやる気?」
「だって邪魔が入ってできてないし。」
表情に出てないのでわかりづらいが、これは怒っている時のソレイルだ。こんな時はソレイルに素直に従うべきだ。
俺は恥を忍んでソレイルの口元にスプーンを運ぶ。
「美味しい。」
ソレイルは微笑む。
その美しさにカフェにいた人がほうっとため息をついた。
「俺のワッフルも一口あげる。口開けて。」

何口か食べさせあった後。
「もういい。帰る!」
ステラはドタドタとカフェを出ていった。
「嵐のような人だな…。」
俺たちはため息をついた。


「もう!全く何なの!あいつは攻略対象者の1人のはずでしょ!何かが狂ってるわ。」
可愛らしい少女のその醜く顔を顰めた姿に通りすがりの人は驚いて凝視する。
「チッ。」
ステラは舌打ちをした。
そんなステラの姿を物陰から見ている人物がいた。


帰りの馬車の中。
「また来ような!」
「うん。アースがこんなに喜んでくれるなら毎日でも来ていいね。
ねえ、アース。目瞑って。」
アースは首を傾げながら目を瞑る。
いいよ、と言われて目を開けると手の上にはあのかんざしがあった。
「これ…!!」
「アースが気になってたみたいだから。」
「嬉しい!」
かんざしは俺の手の中でキラキラと輝く。
「ソレイル、本当にありがとう。」
俺はソレイルの口にキスを落とす。
ソレイルは顔を真っ赤にする。ソレイルは不意打ちに弱い。こんな顔を見られるのも俺だけの特権だと思うと嬉しくなる。
ドヤッとした俺の様子に気づいたか気づいてないか、俺はソレイルに酸欠になるほどの長いキスをされてしまった。

「…ソレイル!もう限界だから…!」
「もう少ししていたかったのに…。残念。」
ソレイルはニヤッと笑った。
やっぱりソレイルには敵いそうにない。


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