上 下
11 / 15

楠涼夜は遠慮がない

しおりを挟む
涼夜と2人で電車に乗っていると、突然声をかけられた。

「よっ!同じ電車だったんだな!」

昨日仲良くなったばかりのそうちゃんだった。

「…え!お前ら、そういう関係だったの!?」

そうちゃんが目を丸くして驚く。

「ん?なんのこと?」
「いや、手繋いでるじゃん!しかも恋人繋ぎ!」
「あっ!」

あまりにも当たり前すぎて何のことだかわからなかった。
小学生の頃から外ではいつも手を繋いでいたし、中学生になってからも登下校は手を繋いでいた。

慌てて手を振り解こうとすると、涼夜にさらに強く握られてしまった。

「俺たちは運命の番だからね」

涼夜は平気な顔をして嘘をつく。
本物の運命の番の白浜しらはま雪都ゆきとにはもう出会っているのに。

「あぁ~!幹斗が涼夜の運命の番だったんだ!なんか納得かも。2人はしっくりくるっていうか」

そんなことを言われたのは初めてである。
表立っては誰も言わなかったが、いつも、不釣り合いだとか、勿体無いだとか言われてきた。

「そう言ってくれるなんて嬉しいよ。ありがとう。結婚式呼ぶね」
「もう結婚の話!?涼夜、気が早くねぇか?」

そうちゃんは冗談だと思って笑っているが、俺にはこれが冗談じゃないことはわかっていた。
しかし、結婚なんてしないなんて言ってもまた揉めて面倒なことになるだけだ。

「俺さ、アルファ性なんだけど、普通の人より弱くて。だから今まで気づかなかったけど、言われてみたら、確かに幹斗から涼夜のマーキングの匂いがする。
俺みたいな弱弱アルファにも分かるなんて、相当強いマーキングだな!」

俺は目を見開く。

「えぇ?マーキング?なにそれ!そんなことしてたの?」
「黙ってやっててごめんね。でも幹斗を他のアルファに取られたくなくて」
「俺を狙うアルファなんていねぇよ!」
「いや、幹斗みたいな可愛くて優しくて明るくて魅力的なオメガを狙わない人なんていないよ」

だって俺、オメガじゃなくてベータだし。

俺は小さくため息をついた。


「やっぱさ、ずっと一緒にいるの?」

そうちゃんが興味津々に聞く。

「んー、寝る時以外は基本一緒にいるかもな」
「時々、お互いの家にお泊まりしたりもするしね」
「お泊まり!いいなー!楽しそう」
「今度、そうちゃんも俺の家遊びに来いよ。ゲームしようぜ」
「いいね!」
「幹斗、お泊まりは禁止ね」
「ええー!何で。大人数でお泊まり会した方が修学旅行みたいで楽しいよ」
「ダメ。」
「あははっ、それくらいの気はきくよ。ちゃんと暗くなる前に帰ります」
「えぇー?お泊まり会したかったのに」
「だーめ」

涼夜が2回ダメと言ったら、もうおねだりはしてはダメだ。仏の顔も三度までなんて言うが、涼夜の場合、3回目から少し不機嫌になる。他の人は気づいていないが。

「運命の番って、やっぱりビビッときて分かっちゃうものなの?」

俺は何とも言えず、黙りこくった。

「まあ、そんなものかな」

涼夜は微笑んでそう言ったが、涼夜の考えが読めなかった。


お昼休み、涼夜とそうちゃんと雪都と食べる。

「これ、幹斗の好きなかぼちゃコロッケだ。
幹斗、口開けて」

俺は大きく口を開けると、涼夜はかぼちゃコロッケを俺の口に運ぶ。

「うまい」
「良かった」

「お前らいつもこんな感じなの?」
「えっ?いや、中学校は給食だったけど」
「でも家とかではいつもこんな感じだよね。俺の両親忙しいから、よく幹斗の家にお邪魔させてもらってるんだ」


雪都がブスッとした表情を見せる。
なにかフォローをいれなくては。

「あっ!雪都の弁当の唐揚げ、涼夜好きだったよな!」
「え、そうなの?えっと、よかったら食べる?」

雪都は途端に目を輝かせる。
大きい瞳がさらに大きくなってとても可愛い。

「いや、大丈夫だよ。幹斗の卵焼きもらうから」
「うわっ!俺の卵焼き!今日のはミョウガが入ってるやつだったのに!」
「美味しい」

涼夜は嬉しそうに微笑む。

ミョウガ入りの卵焼きは絶品なんだぞ!
俺の大好物なのに!

俺はまた雪都の方から鋭い視線を感じて、また反省するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

ベータのクセにこんな可愛いとか、嘘だ! 【オメガバース】

天災
BL
 ベータのクセにこんなに可愛いとか、嘘だ!

恋人が本命の相手と結婚するので自殺したら、いつの間にか異世界にいました。

いちの瀬
BL
「 結婚するんだ。」 残されたのは、その言葉といつの間にか握らせられていた手切れ金の紙だけだった。

実の弟が、運命の番だった。

いちの瀬
BL
「おれ、おっきくなったら、兄様と結婚する!」 ウィルとあの約束をしてから、 もう10年も経ってしまった。 約束は、もう3年も前に時効がきれている。 ウィルは、あの約束を覚えているだろうか? 覚えてるわけないか。 約束に縛られているのは、 僕だけだ。 ひたすら片思いの話です。 ハッピーエンドですが、エロ少なめなのでご注意ください 無理やり、暴力がちょこっとあります。苦手な方はご遠慮下さい 取り敢えず完結しましたが、気が向いたら番外編書きます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする

BL
 赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。  だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。  そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして…… ※オメガバースがある世界  ムーンライトノベルズにも投稿中

【完結】聖人君子で有名な王子に脅されている件

綿貫 ぶろみ
BL
オメガが保護という名目で貴族のオモチャにされる事がいやだった主人公は、オメガである事を隠して生きていた。田舎で悠々自適な生活を送る主人公の元に王子が現れ、いきなり「番になれ」と要求してきて・・・ オメガバース作品となっております。R18にはならないゆるふわ作品です。7時18時更新です。 皆様の反応を見つつ続きを書けたらと思ってます。

処理中です...