王子様から逃げられない!

白兪

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勉強していても、友達と話していても、ご飯を食べていても、ルシファーの傷ついた表情が頭から離れない。胸がズキズキと痛み、気付けばため息ばかりついている。

そんな時だった。
またあの電子音が聞こえたのは。

“ミッション:ルシファーと仲直りしよう!
ルシファーは大の甘党。手作りのお菓子をあげて喜んでもらおう!”

「ミッション?そんなもんもあるのか。しかし何を作ろうか…」

恭弥はお菓子作りなんてほとんどしたことがない。しかし、何故だか、クッキーやガトーショコラのレシピが頭に浮かんできた。

(これはリリスの記憶…?)

リリスは孤児院の子供達のためによくお菓子を作っていた。ちびっ子たちの喜ぶ顔はリリスにとっての生きがいだった。

(元気にやってるかな…)

ちびっ子たちの笑顔を思い浮かべると心がポカポカしてきた。

「よし、頑張るぞ!」

恭弥は小さくえいえいおーと拳を掲げた。


素人にしては上出来と言えるだろう、ガトーショコラを手にリリスはルシファーに声をかけようとする。
しかし、急にこんなものいらないんじゃないか、という気持ちが湧き上がってきた。
ルシファーは王太子だ。プロのパティシエの本格スイーツを毎日食べているに違いない。
こんな素人のものなんて…

「それどうしたの?誰にもらった?エディス?ダニエル?それとも…」

こちらに気づいたルシファーが少し機嫌が悪そうに尋ねてくる。

「いや…これは、僕がルシファー様のために作ったものです。昨日酷いこと言っちゃったから…。でもいらないですよね」

はは、と渇いた笑みを漏らすと、ルシファーは驚きに目を見開いた。

「これ、リリスが作ったの?すごい。プロと変わらない見た目だね。是非とももらいたいな」

おずおずと手渡すとルシファーは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう!大切に食べるよ」

“ミッションクリア!
おめでとう。ミッションに成功したよ。この調子で好感度を上げていこう!”

俺は嬉しくて今すぐにでもスキップしたい気持ちだった。


「リリス、良かったらもらってくれないかな」

次の日、ルシファーから小包を貰った。

「これって…?
開けてみてもいいですか?」

「どうぞ」

小包を開けるとレザーのベルトの腕時計が入っていた。

「わぁ…!素敵…!」

「喜んでもらえて嬉しいよ。是非使って」

「こんなに高そうなものいいんですか?僕なんて手作りのお菓子だけなのに…」

「真心がこもってるから何よりも嬉しかったよ。手作りのものなんて貰った事なかったから」

「じゃあまた渡しますね!」

もらった腕時計をじっと見つめる。
金色の針が正確に時を打つ。
時計の刻む音に合わせて鼓動もドクドクと波打った。
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