愛などもう求めない

白兪

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隠し事

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ヴェリテがいなくなって1週間経った今も、ヴェリテは見つからなかった。
たった15歳のヴェリテの捜索にこんなにも時間がかかっているのは予想外だった。15歳で自立している子供もこの国には多くいるが、ヴェリテはずっと王宮の中で蝶よ花よと育てられてきた。城下町に行った回数すら両手に収まるのではないのだろうか。
何故こんなにも見つからないのか。
誰かが手を引いているのか。
それとも、ずっと前から綿密に計画されてきたことなのかーー。

皇帝はずんと気が重くなった。

いつから逃亡を企てていたのだろう。1年前?2年前?それとももっと前から?

初めこそ良好とはいえない関係だったが、ここ数年はとても仲睦まじく過ごしていたように思う。
それは自分の思い込みだったのだろうか。

コンコンっと政務室の扉が軽くノックされる。
「入れ。」
「失礼します。ファクティスです。
疲れが溜まっているとお聞きしたので、陛下のためにポプリを作ってきました。」
「ポプリ?」
「はい!ぼくが積んできた花とかを集めて作ったんです。えっと、お気に召されなかったら捨ててくれて構わないので…。」
ファクティスはしゅんと項垂れる。
「いや、使わせてもらおう。ありがとう、嬉しいよ。」
「ありがとうございます!では失礼します!」

色んな人に陛下はお変わりになられたと言われる。
昔の自分だったら断っていただろうこの贈り物も、今は感謝して受け取っている。
人に冷たくあたることの罪を身をもって体感したのだ。
結果、前よりも王宮の雰囲気が良くなり、臣下からも活発に意見が届くようになった。
全て、ヴェリテのおかげだ。

「ヴェリテ…どこにいるんだ…?」

ポプリからふわっと甘い香りが漂い、皇帝はいつの間にか深い眠りについてしまっていた。



ヴェリテはレベス王国の街外れの小さな教会にいた。
祖国シュペルブ帝国でも国教となっているデエス教には「来るもの拒まず、去るもの追わず」の教えがある。そのため、教会は様々な人を受け入れる。ヴェリテも神父見習いとしてこの教会に住まわせてもらっている。

ここで暮らし始めてから1週間が経った。
家事炊事はまだまだ不慣れではあるが、だんだんと馴染んできた。

空は快晴、絶好の洗濯物日和だ。
ヴェリテは洗濯物を干しながら鼻歌を歌う。
眠れない日にガルディエーヌがよく歌ってくれた歌だ。

「まあ!ベルはシュペルブ語を話せるの?」
マザーが驚きの声をあげる。
ベルはヴェリテの偽名だ。
「えっと、いや、…その、」
ヴェリテは口籠る。うまく弁明の言葉が出て来ない。

「私の妹もね、シュペルブ帝国に嫁いで行ったのよ。でも、ベルほど綺麗な発音ではないわ。ベルはすごいわね。」
マザーに微笑まれ、ヴェリテはなんと返していいのか分からなくなる。

「ベルー!あそぼー!」
「怪獣ごっこしよ!」
「私隠れん坊がいい!」
「えー、鬼ごっこだよ!」

その時子供達が教会から走ってヴェリテの元へやってきた。
この教会では孤児の面倒も見ている。

「もう、みんな。ベルが困っているでしょう?何で遊ぶか決まってからベルのこと誘うのよ。ベルは今お仕事中だから。」
「「はーい!」」

子供達の元気な様子を見ていると不思議と力が湧いてくる。この慣れない環境の心の支えはあの幸せな日々の思い出と、子供達の笑顔だった。

「ベル、ここには色んな人が集まってくるわ。無理に過去のことを話そうとしなくてもいい。でも、困ったことがあったら迷わず相談するのよ?
あなたには私がついているんだから。」

ヴェリテはその微笑みにガルディエーヌを思い出した。



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