11 / 24
誕生日
しおりを挟む
「お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、ガルディエーヌ。」
「申し訳ありませんが、すぐに朝食を召し上がって、お着替えください。その後はバルコニーでスピーチです。」
「うん。」
そそくさと朝食を食べ、何人もの人に手伝ってもらいながら衣装を着る。
フリフリの細かなレースのシャツの上に、豪華な刺繍の入った淡い黄色のジャケットを羽織る。
「この刺繍、綺麗…。」
いつか、自分もこんなに美しい刺繍が施せるような職人になれるだろうか。
「手を。」
父にエスコートされ、バルコニーに出る。
観衆たちの声が一際大きくなる。
処刑台に立った時のことを思い出し、足がすくむ。これほど多くの人たちが今、自分に注目している。上手にスピーチできなくては、嫌われる。税金泥棒だと思われる。偽物だと思われる。石を投げつけられ、殺される…!
そのとき、ぎゅっと強く手を握り締められた。横を見ると、父がかすかに微笑んだような気がした。
大丈夫。今はシュペルブ帝国皇子だ。自信を持って。
頭の中がすっきりとし、すらすらとスピーチの言葉が出てくる。
スピーチを終えると民衆から大きな歓声と拍手が起こった。
「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」
「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」
ほっとし、安堵の笑みを浮かべる。
「素晴らしかったぞ。」
ヴェリテは目を見張る。父親に褒められたのはいつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。
「ありがとうございます。」
ヴェリテは微笑んだ。
まるで本当の親子のようだ、ヴェリテは俯いた。
夕方からは生誕パーティーだ。全ての貴族、各国の使者たちが集まり、ヴェリテの誕生を祝う。
「おめでとうございます。」
「お誕生日おめでとうございます。」
「先ほどは素晴らしいスピーチでした。」
次から次へと現れる客人たちを相手して、ヴェリテはヘトヘトだった。
「お誕生日おめでとうございます。私、レベス王国王太子、ロジエ・プルミエム・レベスです。」
「ありがとうございます。実は最近レベス王国に興味があって…。レベス王国についてお話をたくさん聞きたいです。」
「本当ですか?興味を持っていただいて嬉しいですね。」
2人はバルコニーへと移動する。
「レベスは食事がとても美味しいのですよ。大きな鮭が取れて、バターで焼くと本当に美味しいのです。」
「そうなんですか!お腹が空いてきました。」
「レベスには“鮭を食わずして何を食う”っていう言葉があるくらいなのですよ。私の父は鮭を食べすぎて、アレルギーになってしまったんです。」
ヴェリテはクスクス笑う。
ロジエは王太子であるにも関わらず、とても明るく接しやすい。
「ぜひ、レベス王国に来てください。貴方のような可愛らしい人はレベスにはいないので大歓迎ですよ。」
お世辞だと分かっていても褒められると嬉しい。
「ありがとうございます。ぜひ訪問させていただきますね。」
ヴェリテは頬を赤く染めた。
「ヴェリテ様、こちらにいらしたのですか。」
そこにジュスティスが現れた。
「ロジエ王太子殿下、お話の邪魔をしてしまい申し訳ありませんが、ヴェリテ様をお借りしてもよろしいですか?」
「どうしたのですか?」
ヴェリテは尋ねる。
「僕とダンスを踊って欲しいのです。」
そういえばダンスを踊っていなかったなと思い出す。
「あぁ、義務ですもんね。行きましょう。」
「ヴェリテ様、お話とても楽しかったです。またお会いしましょう。」
去り際、ロジエが話しかける。
「はい。」
ヴェリテは微笑み返す。
ジュスティスはロジエを睨んだ。
華麗な音楽に合わせて、2人はステップを踏む。
「あっ!ごめんなさい。」
何度もジュスティスの足を踏んでしまう。ヴェリテはダンスが苦手だった。
「とても軽いのですね。足をお踏みになったことに気づきませんでした。」
ジュスティスは微笑む。
ヴェリテは恥ずかしくなって俯いた。
「ダンスは苦手なんです。」
「上手に踊ろうと考えなくてもいいんですよ。ただ音楽を聴いて楽しめばいいんです。」
「楽しむ…。」
「今流れている曲素敵だと思いませんか?」
「はい、優雅で気品があって…とても好きです。」
「その調子です。音楽を聴いて楽しみましょう。」
「ありがとうございます。」
ヴェリテは満面の笑みを浮かべる。
音楽に身を任せ、ジュスティスのリードに乗る。先程までカチコチだった体は軽やかに動く。
音楽が終了し、ダンスが終わった。
「こんなに楽しく踊れたのは初めてです。」
「僕も、今までで1番楽しかったです。」
ジュスティスがまた笑みをこぼし、ヴェリテは胸が高鳴った。
ダメだ、ダメだ。この人はファクティスのことを好きになるのだから。僕はこの国から出ていくのだから。こんな思い消してしまわなくては。
それでも頬の赤みは消えてくれなかった。
「ありがとう、ガルディエーヌ。」
「申し訳ありませんが、すぐに朝食を召し上がって、お着替えください。その後はバルコニーでスピーチです。」
「うん。」
そそくさと朝食を食べ、何人もの人に手伝ってもらいながら衣装を着る。
フリフリの細かなレースのシャツの上に、豪華な刺繍の入った淡い黄色のジャケットを羽織る。
「この刺繍、綺麗…。」
いつか、自分もこんなに美しい刺繍が施せるような職人になれるだろうか。
「手を。」
父にエスコートされ、バルコニーに出る。
観衆たちの声が一際大きくなる。
処刑台に立った時のことを思い出し、足がすくむ。これほど多くの人たちが今、自分に注目している。上手にスピーチできなくては、嫌われる。税金泥棒だと思われる。偽物だと思われる。石を投げつけられ、殺される…!
そのとき、ぎゅっと強く手を握り締められた。横を見ると、父がかすかに微笑んだような気がした。
大丈夫。今はシュペルブ帝国皇子だ。自信を持って。
頭の中がすっきりとし、すらすらとスピーチの言葉が出てくる。
スピーチを終えると民衆から大きな歓声と拍手が起こった。
「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」
「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」
ほっとし、安堵の笑みを浮かべる。
「素晴らしかったぞ。」
ヴェリテは目を見張る。父親に褒められたのはいつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。
「ありがとうございます。」
ヴェリテは微笑んだ。
まるで本当の親子のようだ、ヴェリテは俯いた。
夕方からは生誕パーティーだ。全ての貴族、各国の使者たちが集まり、ヴェリテの誕生を祝う。
「おめでとうございます。」
「お誕生日おめでとうございます。」
「先ほどは素晴らしいスピーチでした。」
次から次へと現れる客人たちを相手して、ヴェリテはヘトヘトだった。
「お誕生日おめでとうございます。私、レベス王国王太子、ロジエ・プルミエム・レベスです。」
「ありがとうございます。実は最近レベス王国に興味があって…。レベス王国についてお話をたくさん聞きたいです。」
「本当ですか?興味を持っていただいて嬉しいですね。」
2人はバルコニーへと移動する。
「レベスは食事がとても美味しいのですよ。大きな鮭が取れて、バターで焼くと本当に美味しいのです。」
「そうなんですか!お腹が空いてきました。」
「レベスには“鮭を食わずして何を食う”っていう言葉があるくらいなのですよ。私の父は鮭を食べすぎて、アレルギーになってしまったんです。」
ヴェリテはクスクス笑う。
ロジエは王太子であるにも関わらず、とても明るく接しやすい。
「ぜひ、レベス王国に来てください。貴方のような可愛らしい人はレベスにはいないので大歓迎ですよ。」
お世辞だと分かっていても褒められると嬉しい。
「ありがとうございます。ぜひ訪問させていただきますね。」
ヴェリテは頬を赤く染めた。
「ヴェリテ様、こちらにいらしたのですか。」
そこにジュスティスが現れた。
「ロジエ王太子殿下、お話の邪魔をしてしまい申し訳ありませんが、ヴェリテ様をお借りしてもよろしいですか?」
「どうしたのですか?」
ヴェリテは尋ねる。
「僕とダンスを踊って欲しいのです。」
そういえばダンスを踊っていなかったなと思い出す。
「あぁ、義務ですもんね。行きましょう。」
「ヴェリテ様、お話とても楽しかったです。またお会いしましょう。」
去り際、ロジエが話しかける。
「はい。」
ヴェリテは微笑み返す。
ジュスティスはロジエを睨んだ。
華麗な音楽に合わせて、2人はステップを踏む。
「あっ!ごめんなさい。」
何度もジュスティスの足を踏んでしまう。ヴェリテはダンスが苦手だった。
「とても軽いのですね。足をお踏みになったことに気づきませんでした。」
ジュスティスは微笑む。
ヴェリテは恥ずかしくなって俯いた。
「ダンスは苦手なんです。」
「上手に踊ろうと考えなくてもいいんですよ。ただ音楽を聴いて楽しめばいいんです。」
「楽しむ…。」
「今流れている曲素敵だと思いませんか?」
「はい、優雅で気品があって…とても好きです。」
「その調子です。音楽を聴いて楽しみましょう。」
「ありがとうございます。」
ヴェリテは満面の笑みを浮かべる。
音楽に身を任せ、ジュスティスのリードに乗る。先程までカチコチだった体は軽やかに動く。
音楽が終了し、ダンスが終わった。
「こんなに楽しく踊れたのは初めてです。」
「僕も、今までで1番楽しかったです。」
ジュスティスがまた笑みをこぼし、ヴェリテは胸が高鳴った。
ダメだ、ダメだ。この人はファクティスのことを好きになるのだから。僕はこの国から出ていくのだから。こんな思い消してしまわなくては。
それでも頬の赤みは消えてくれなかった。
254
お気に入りに追加
2,936
あなたにおすすめの小説
絶対にイタしません!
Nixe(ニクセ)
ファンタジー
気付いた時には、王様の側室になっていた!?
表紙が擦り切れるほどに読み込んだ大好きな小説の世界。不慮の事故により前世で命を落とした主人公は、気付いた時にはその小説の世界で王様の側室に転生していた。しかし、この世界での配役は懐妊直後に正妃に毒殺されるだけのモブの側室だった。
――このままもう一度死ぬなんて、絶対に嫌!
死を回避するために彼女が思いついた作戦が、懐妊を避けるために王様とイタさないこと。でも、目の前に居るのは、大好きな大好きな王様。その彼に愛されない努力をするという、苦悩の日々が幕を開ける――!
※こちらの作品はpixiv・小説家になろうにも投稿しています。表現としてはとても温いと思うのですが、そういう展開も書かれておりますので、ご注意ください。
記憶喪失の君と…
R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。
ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。
順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…!
ハッピーエンド保証
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる