俺は完璧な君の唯一の欠点

白兪

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「今日の教養は同じ教室だから一緒に行こうよ。」

海斗と歩いていると、痛いほどの視線を沢山感じた。彼は学年1、いや、大学1のイケメンなのだから仕方がない。だが、平凡な俺には慣れない事で緊張してしまう。

「隣の男の子だーれ?仲良くしてるの初めて見た~」

講義室に入るや否や女の子が話しかけてきた。

「新川愛美さんだよね。初めまして、俺は田中恵。」
「恵君って言うんだ~!私のこと知ってるの?もしかして私って有名人??」
彼女はころころと笑う。彼女の笑顔に釣られて自然と笑顔になる。
「新川さんは男子の間でマドンナだよ。」
「口説くなよ。」
海斗が不機嫌そうな顔で言う。その言葉に新川さんは頬を染め、嬉しそうにしている。
なるほど、海斗は新川さんのことが好きなのか。

「恵くん聞いてよ~、海斗って最近付き合い悪いの。いつもいつも、用事ある用事あるって!」

そう言えば、海斗はいつも家にいるな。

「海斗、俺は猫でも赤ちゃんでもないんだから放っておけばいいって言ってるだろ。」
「俺がそうしたいだけだから。」
彼はにこっと爽やかな笑みを浮かべた。

「恵くん今度一緒に遊びに行こうよ。」
「え!いいの?行きたい!」
「待って、俺も行く。」
「え~、いままで誘っても全然来てくれなかったくせに海斗も来てくれるの?嬉しい~!!」
新川さんはきゃっとはしゃぐ。可愛い。
「じゃあ他にも女子とか誘うね~!」


「「乾杯~!」」
新川さんの呼んだ女子2人はとても可愛い。そして、男子メンバーとしてもう1人、橋本くんだ。橋本君はサラサラの茶髪の明るそうな男子だ。

海斗は俺の隣に座ってきた。新川さんは海斗の片隣にさっと座る。

新川さんはやっぱり海斗のことが好きなんだろうな。

眉目秀麗、成績優秀、好青年の海斗を好きにならないわけがない。

だが、新川さんにこのことだけは知られてはならない。
俺たちの毎晩の関係のことだ。
体を許してしまったあの晩から毎日抱かれているのだ。完璧な彼に俺という欠点ができてしまったようで心苦しい。

一度、断ろうとしたが、あからさまに悲しい顔をされ、
「俺のこと気持ち悪い?」
などと聞いてくるのだ。そんなのNOと答える他ない。NOと答えたら最後、やはり抱かれてしまうのだ。

彼の横顔を見つめる。長いまつ毛、くっきりとした二重、薄い唇ーー。

男で、しかもこれと言って長所もない平凡な俺とは不釣り合いだ。

「どうかした?」
海斗にふわりと微笑まれ、また胸がジクジクと傷んだ。

「そういえばさー、2人ってルームシェアしてんだよな。」
橋本君が思い出したように言う。
「ええ!そうなの?知らなかった。どんな感じなの?」
新川さんが目を丸くする。
「どんな感じって…」
昨晩の彼の姿を思い出す。端正な顔に汗が滴り落ち、耳元で名前を囁かれー。

「た、楽しいよ!
いつも朝ごはん作ってくれるし、洗濯もしてくれるし!」
俺は慌てて被りを振った。
「ふふっ。海斗のこと家政婦さんか何かかと思ってる?」
「恵、俺のことそんなふうに思ってたのか?」
「ち、違うよ!」
「でもさー、良かったな、海斗。」
橋本君がにこにこと人の良い笑みを浮かべる。
「ずっとルームシェアしたいって言ってたもんな。ルームシェアできるって分かった途端、前に住んでた部屋解約してさー。あの家、1ヶ月くらいしか住んでなかっただろ?」

その言葉に何かが引っ掛かった。
しかし、もやもやと気付けないまま食事会は終わった。

「また遊ぼうね~!」
「またなー。」
「うん!ありがとね。」
「またな。」

皆と別れて、海斗と2人で家に帰る。
その間もぼうっと考え事をしていた。

「どうしたの?」
「いや、なんか気になることがあって…。でもよくわかんないというか…。」
「何が気になってるの?」
「なんか、橋本君の発言で気になったことがあって…。」

“あの家、1ヶ月くらいしか住んでなかっただろ?”

「あ!!」
「ん?」
「1ヶ月!1ヶ月だよ!
海斗、なんで5月で前の家解約したんだ?
俺が住む場所ないって言って助けを求めたのって、7月になってからだよな?
なんで、俺とルームシェアできるって前々からわかってた?」

そう聞いた途端、海斗の雰囲気が変わった。いつもの穏やかな雰囲気から一変、圧のようなものを感じる。

「あーあ、バレちゃった。」
海斗は悪びれる様子もなく言った。
「どういうことだよ!」
「海斗の家のポストを開けたら、手紙が入ってたんだ。転居願いの手紙がね。だから、隠してしまえば、恵はギリギリまで気づかなくて住む場所も決まってないまま家がなくなるでしょ?そうしたら、一緒に住めると思った。」
「は?意味がわからないんだけど?どうして俺の家のポストなんて開けてるんだよ。
っていうか、そもそも住所なんて教えたことあった?」

海斗が知らないやつに見える。

「勝手に調べて本当に悪かったって思ってるよ。」
「目的は何だよ!」
俺はキッと海斗を睨みつける。

「好きだから。」

「はぁ?」

「恵のことが好きだから。
住所なんて、恵のおばさんに聞けばすぐ分かったし。
好きな子と同棲って男の夢だろ?」
「は?そんな理由で?」
「そんな理由じゃない!」
海斗が珍しく声を荒げた。

「本当に恵のことが好きなんだ。
出て行かないでくれ。料理も洗濯も掃除も全部やるから。
俺のそばにいてよ。」

海斗の見たこともない弱った声。
俺は海斗をまっすぐ見つめた。

「海斗が家に遊びにきたいって言ったらいつでも住所なんて教えた。
海斗がルームシェアしたいって言ったら受け入れた。
お前ってバカだな。
ずっと海斗のこと完璧だと思ってたけど、こんなところに欠点があったなんて。」

海斗は目を逸らし、ごめん、と小さく呟いた。

「ルームシェアはやめよう。」

俺がそういうと海斗は唇をかみしめて、分かった、と呟いた。

「これからは、同棲だな。」

「え?」
海斗が目を見開く。
「恋人同士が家を共有したら、同棲だろ?」
「恵…!」

海斗は今までに見たことないほど、大きな笑みを浮かべ抱きついてきた。

「ちょっと!重いって! 

おい!ここ外だぞ!キスすんな!」

「恵、受け入れてくれてありがとう。」

「俺、海斗には弱いから。海斗なら何でも許しちゃう。
海斗は俺の弱点だよ。」


2人で手を繋いで家に帰った。
月が明るく輝いていた。
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