俺は完璧な君の唯一の欠点

白兪

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「えぇ!そんな!聞いてないです!!」
「本当に申し訳ないね。でも、ちゃんと通告したはずだよ。7月でこのアパートは建て替えになりますって。ポストに手紙を入れたんだけど、見てなかったの?」
大家さんが困ったように眉を下げる。
「どうしてアパート潰れるんですか!?」
「もともと古いアパートで、免震とか防火の基準も怪しくて、そんな時に一階の103号室で火事が起こっただろ?アパートを建て替えなきゃいけなくなったんだよ。」
「そんな…。」
「あんたには本当に申し訳ないけど、今月いっぱいでこのアパートからは出て行ってもらうから。本当に悪かったね。次の物件、私の方でも探すからさ。」
「はい…。」

そんな時、手を伸ばしてくれたのが進藤海斗だった。

「恵、聞いたよ。住む場所なくなったんだって?
じゃあ、俺の家で一緒に暮らそうよ。」


天は人に二物を与えずと一体どこの誰が言ったのだろうか。俺はそんなのが全くの嘘であることを知っている。

彼は、進藤海斗は、完璧な人間だ。

海斗とは、幼稚園の頃から一緒だった。しかし、かといって家が近かったわけでも、同じ趣味を持っていたわけでもなかったので特段仲がいいわけではなかった。

しかしながら、小中に続いて、高校も一緒になり、ついには大学まで一緒だった。

県で1番偏差値の高い高校に行くことを目指して、中学時代の俺は毎日猛勉強をした。
バドミントン部に所属していたが、得意なわけではなかった。仲のいい友人が入ると言ったから入っただけだった。だから部活で消費するはずの体力も全て勉学に打ち込んだ。
だが、海斗に勝てたことはなかった。彼はブラックで有名なサッカー部のキャプテンをしていた。バドミントン部が6時で終わるのに対し、サッカー部は7時までしていたことに加え、6時半から朝練もあった。そんなこともあって大体のサッカー部は授業中に寝ていた。海斗以外は。

海斗は俺が知る限り、1番の天才だ。テスト勉強は5日前からしか取り組まない。しかし、1位をとっている。俺は2週間前から必死になってしているのに、10位前後だ。
海斗も同じ高校を受験すると聞いた時は、あいつには絶対負けたくないと思った。勉強が辛くなった時、海斗の顔を思い出して努力した。
結果、高校受験に成功した。

しかし、問題は大学受験だった。俺は帰宅部になり、超難関校と呼ばれる大学に合格するため、毎日勉強した。海斗がまた高校のサッカー部でもキャプテンを務め、青春を謳歌している間も、黙々と勉強した。

「はぁ…。」
「どうしたの?ため息なんかついて。」
「うわっ!びっくりした、海斗か。」
「なんだよ、俺じゃ不満か?」
「いや…そういうわけじゃないんだけど…。」
俺は愛想笑いを浮かべた。なぜか海斗と話す時、少し緊張してしまう癖があった。彼の目を見ていると吸い込まれてしまいそうな、そんな気がするのだ。
「なんか悩み?」
「ちょっと物理が苦手で…。塾にも行ってるんだけど。」
「俺が教えようか?」
「え?いいの!?嬉しい!ありがと!」
俺は顔を綻ばせた。

海斗は部活も忙しいはずなのに、週に何回か物理を教えてくれた。

「いつもありがとう。ごめんね、迷惑かけて。」
「いや、こちらこそ感謝してるよ。人に教えることで考えが整理できるっていうかさ。いい勉強になってるから。」

何もかも完璧で、妬みたくなるような海斗を誰も嫌わないのは、彼の性格にあった。彼は真っ直ぐで、優しかった。

海斗が熱心に教えてくれたおかげか、物理はぐんぐんと伸びた。

海斗のおかげで志望校に合格することができた。海斗は最後までサッカー部のキャプテンを務めながら、俺と同じ大学に入学した。

幼小中高大と同じ学校だが、学部が違うこともあって、大学ではあまり話さなかった。だから、シェアハウスしようと言われた時はとても驚いた。

「いいの!?」
「いいよ。でも、まずは恵が俺の家を気にいるかどうかだな。ちょっと部屋見に来てよ。」

彼の部屋は大学から近く、駅からも近い素晴らしい立地にあった。
玄関は狭すぎず、お風呂とトイレは別で、ダイニングの他に部屋が2つあった。そのうちの1つを貸してくれるらしい。

「この部屋、絶対高いだろ…。」
海斗は家も裕福らしい。一体、天はどこまで彼に与えれば気が済むのか。

「どう?気に入った?」
「気に入らないわけない!」

俺は即決した。


ルームシェア初日。
「まだベッド買ってないよね?どうする?」
「布団があるから大丈夫だよ!」
「布団?海斗の前の部屋は畳だったから大丈夫だったかも知れないけど、フローリングに布団はきついよ。体痛めるよ。」

俺の前の家が畳だったってこと何で知ってるんだ?話したっけ?
俺は一抹の疑念を感じながらも、真剣に心配してくれる海斗に好感を持った。

「えー…、じゃあ、ソファ借りていい?」
「ソファで寝たら風邪ひくって!」
「んー、じゃあ今日はビジネスホテルでも泊まろうかな。」
「俺のベッドで一緒に寝よう!」

嫌だ、そう断りたかったが、真剣に俺のことを考えてくれている海斗の好意を無下にするのは躊躇われた。

「じゃあ、今日はお言葉に甘えて…。」

俺は、こうして海斗の大して広くもないベッドに2人で寝ることになったのだが、ちっとも眠れなかった。
あいつの勃起した息子が俺の尻に当たっていたから。

明日、真っ先にベッドを買おう。
俺はそう誓って何とか眠りにつくことができた。

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