上 下
41 / 67

高笑いする美少女ってなんかいいよね①

しおりを挟む

 唐突だが高笑いする美少女についてどう思うだろうか。

 俺はもちろん好きだね。
 陰キャ的には恨めしいものだが美少女は何をしても絵になる。どんなありふれた事でも、はたまたどれだけ倫理に触れるような行為だとしてもだ。美少女というだけでプラスの付加価値が付与されるわけだ。

 何それズルい。神様、遺伝子で差を与え過ぎじゃない?神様仕事しろ仕事。

 まぁ何故こんなことを急に言い出したかといえば、

「アハハ!!!! 遂に! 遂に!!!! 手に入れたわ!!!! 力を!!! これでやっと! やっと!!!! アハハハハッ!!!!!」

 彼女アリスが原因である。

『マスターいつまで現実逃避しているんですか』

 あ、はい。止めます。

 魔角猪の死体がキャンプファイヤーの如くゴウゴウと燃え盛る中、ハイになって高笑いする一ノ瀬アリスさま。なんでか高笑いして、弓の曲線のごとく反ってる。どこぞの貴族かな?

 いやぁ、なんでこうなったのやら。そればっかりを考えるが特に何も浮かばない。

 ほんとどうしちゃったんだろね。


 ◆


 ――だいたい一〇分程度前。


「ていうかこのいきなり出現した魔導本らしき物はなんなのさ? 聖剣ちゃんと魔剣ちゃんは知り合いみたいだけど」

『喋る魔導本ですね』

『そんなことも理解できないマスターってほんと無知♡無知♡』

「いやいやいや、説明が雑過ぎじゃない?」

 俺の問いに聖剣ちゃんは雑に返し、魔剣ちゃんはいつも通りに煽り散らかした。
 なんというかもう少しあるだろう。さてはコイツ等まるで説明する気がないな?

『おいおいこの俺様を知らないとかどんだけ田舎もんだよ。王国にその名を轟かせた伝説の魔導本グリモワールとは俺のことさ!』

『いや全然轟いていないですね。むしろマイナーな部類です』

 ずこー。
 これだけ大見得おおみえを切ってマイナーなのかよ。もうなんかいっそ哀れである。

『え、マジで?』

 魔導本も魔導本であまりにも厳しい現実にそれはもう狼狽した。

『マジマジです。まぁ超絶優秀美少女聖剣の私は当然として、まだ魔剣ちゃんのほうが王国民にとって名が知れ渡っていますね』

『ていうか魔導本マドちゃん三〇〇年ぐらい姿すら現さなかったじゃん』

『マジかーちょっと凹むわー。流石に惰眠を貪り過ぎたかねぇ。ほんと凹むわー』

 魔剣ちゃんの発言を信じるならコイツ等は武器なのに言語を扱うことも含めて、つくづく規格外な存在だなと思う。一体全体コイツ等と似たような存在はどれだけいるのだろうか。勘でしかないがまだまだ存在する気がしてならない件について。

「ねぇ」

『お、なんだい嬢ちゃん。この偉大な魔導本様に何か御用かい?』

「一ノ瀬アリスよ。先ほど言っていた面白い素材とはどういうことかしら?」

 アリスは先程の魔導本の発言が気になっている模様。しかしそれは俺も同じところだ。

『あぁん? ははーん、さてはお前等色々と説明するのをサボりやがったな?』

『む、別にサボっていたわけじゃないですよーだ。物事には順序というものがあるだけです』

『別に~魔剣ちゃんはそもそもそういう担当じゃないし~』

 あ、コイツ等まだ俺達に説明していない要素があるな。いい加減にせえよと問い詰めたいところだが、まずはアリスのほうだ。

『よし相分かった! アリス嬢、俺様を手に取りな』

「?」

『言葉より実践ってな。とにかく悪いようにはしねぇから言われたとおりにしてくんな。あぁ利き手とは逆にしておいた方がいいぞ』

「分かったわ。これでいいかしら?」

 言われるがままにアリスは魔導本を左手で取った。その姿は中々に様になっているもので、一流の魔術士と言われても信じてしまいそうなほどだった。美少女補正マジずるい。

『よし。ちょうどアリス嬢から見て右後方の木陰から魔獣がこっちを伺っているから、そのまま魔術を放ってみな』

「ブモッ!?」

 まさか気づかれると思っていなかった魔獣は盛大に悲鳴を上げた。コイツ等の気配察知能力は一体全体どうなっているんだか。俺なんか欠片も気がつかなかったぞ。

「本当にいるじゃん……」

 思わず言葉が零れた。
 確かに魔導本が言う指定地点には確かに魔角猪ホーンボアが存在していた。
 先程から偶然というにはちと出来過ぎな気がしなくもないが。
 まぁ大量繁殖していると依頼書には書いてあったし、わりとこの辺りには沢山生息しているということだろう。

「分かった。やってみるわ」

 アリスは魔導本を左手に持ち、右手を魔角猪に突き出した。

「……」

 俺はアリスに気づかれないように問題児聖剣ちゃんを睨みつけた。
 それに気がついた聖剣ちゃんは肩をすくめる表現をするかのように空中で数回上下した。今回は妨害するつもりはないらしい。

 まぁ二度とあんなことをやらせるつもりもないが。
 そんなやるせないやりとりをしているうちに事態は進行していく。アリスに狙いを定めた魔角猪は今に突撃しようと右前足で地面をかき鳴らしていた。

「ブルルルルルッ!!」

『ぶちかましな』

「ええ。下級炎魔術フレイ!」

 ゴウッッッッッ

 先程と同様の魔術とはまるで比べ物にならない。
 彼女の掌に収束するように集まった炎は人頭程度の大きさではない。なんと魔角猪を覆い尽くすことすら可能な程巨大に形成されたのだ。

 そのまま炎魔術は勢い良く直線に放たれ、魔角猪を丸ごと飲み込んだ。

「プギイイイイ!!!?」

 この絶大とも言える一撃に耐えられるわけもない。
 炎魔術に包まれた魔角猪は盛大に悲鳴を上げて絶命した。

「……まじか」

 そして俺は目の前の光景に呆然とするばかりである。

「一ノ瀬……?」

 どうにもアリスの様子がおかしい。今度は魔角猪を無傷で葬ったはずの彼女は何故か俯いて沈黙してしまっていた。

 そして気がついた。
 彼女の肩は少しだけ小刻みに震えていたのだ。まぁ現代の日本社会で生きていれば生き物を直接殺すことなどほとんどない。ましてやアリスのような女の子であれば尚更だ。

「ふふっ」

 えっ。

「ふふっ……あはは……!!」

「あ、あの? い、一ノ瀬さん?」

 あれ、おかしいな?
 初めての殺生で震えていると思ったら何故か笑っている件について。

 え、マジでどゆこと?

 しかし困惑する俺などお構いなしに彼女の嗤い声はどんどんと大きくなっていく。

「アハハ!!!! 遂に! 遂に!!!! 手に入れたわ!!!! 力を!!! これでやっと! やっと!!!! アハハハハッ!!!!!」

 彼女の唐突な嗤いを目の当たりにした俺はただただ呆然とするばかりである。

 本当に一体全体どうしちゃったんだろうね。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

処理中です...