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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第282話 盗まれた武器

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「……という訳で、フランセーズのトリスタン王子と、その仲間である黒ずくめの人たちを止めないと、ポートガやその周辺国が大変な事になってしまうんです」
「アニエスさんの話については、信じて良いと思う。先程、こちらで信じるに値する根拠を見せてもらった」

 魔の力についてポートガの騎士さんたちに説明した後、セルジオさんがフォローしてくださり、同じ取調室に居た騎士さんたちも大きく頷く。
 これにより、「俄かには信じられないが……」という呟きや騒めきが聞こえてくるものの、ひとまず騎士の皆さんは協力してくれるようだ。

「それで、神殿という場所に盗賊が入ったと言うお話だと伺っているのですが」
「えぇ。我が国で建国時から伝わる武器が幾つか盗まれました」
「幾つか……どういった物なのでしょうか」
「報告によると、剣が二本、槍が一本と弓が一つです。いずれも強大な力を秘めている為、使用禁止とされているものです」

 詳しく話を聞くと、二本の剣はどちらも魔法が封じられており、振るだけで炎や風が出たりするらしい。
 槍は、穂先から石突まで真っ黒な素材で出来ているそうで、とにかく硬いのだとか。
 弓も真っ黒だけど、硬すぎるので武器として使う事は出来ず、歴史的価値としての側面が大きいらしい。

「という事は、魔の力を持つ武器は槍……でしょうか」
「我々も、それぞれの武器に関する逸話を全て知っている訳ではないため、国内に居る学者へ調査を依頼しておきます」
「お願い致します」

 もちろん、魔剣が二種類あるという事も考えられるけど、炎と風というのが魔剣に結びつかない気がする。
 あれは、そう言った普通の魔法の力ではなく、もっと昏く異質な何かだと思う。
 とはいえ、剣だろうと槍だろうと、止めなければならないのは同じだ。
 そう思ったところで、一つ疑問が湧いたので、こっそり隣に座るイナリに聞いてみる。

「……イナリ。魔剣は魔物を凶悪にしたり、土壌を汚染したりしていたけど、槍……魔槍でも同じなの?」
「流石に我もそこまではわからぬ。だが、槍ならば剣よりも射程が長い。そこは気を付けるように。もう直接手で触れたりしないようにな」
「は、はーい」

 ゲーマで魔剣の力に侵された魔物に触れ、意識を失った私に薬を飲ませる為に、イナリが口移し……げふんげふん。
 へ、変な事を思い出してしまった。
 今はそんな事を考えている場合じゃない。

「お姉ちゃん。大丈夫? 顔が赤いよー?」
「だ、大丈夫よ! な、何でもないから」
「そ、そう?」
「う、うん。ちょっと部屋が暑いなっておもっただけだから」

 コリンが心配して顔を覗き込んできたけど、どうやら思いっきり顔に出てしまっていたみたい。

「あぁ、気候的に仕方が無いんですよ。海が近いですし、太陽が海水に反射するので。辛ければ、風魔法が使える者を呼んできますが」
「あ、す……すみません。大丈夫です」

 いや、あの、本当に申し訳ない。
 私が変な事を思い出して一人で暑くなってしまっただけなんだけど……何とか意識を魔槍に戻し、打ち合わせを再開する。
 ……へ、変な事を思い出さないように気を付けなきゃ。
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