上 下
74 / 123
第6章 太陽の聖女と星の聖女

第246話 国境の街トローセ

しおりを挟む
 オリアンヌさんから話を聞いて貸切馬車に乗り込むと、南西にあるイスパナとの国境の街、トローセへやって来た。
 この街は、建物がどれも赤茶色のレンガで統一されていて、とても綺麗だ。
 時間があれば、この街でもゆっくり観光したいんだけど……仕方ないわね。

「じゃあ、まずは目撃情報があった、冒険者ギルドへ行ってみましょう」
「はーい!」
「私もそれで良いと思います」

 コリンとロレッタさんが同意し、イナリも念話で構わないと言ってくれたので、道を尋ねながら辿り着く。
 いつもは、青色の屋根とか、緑色の壁の建物……って分かりやすいんだけど、建物の壁や屋根の色が統一されていると、綺麗な反面、道を尋ねるのは不向きかもね。
 少しだけ道に迷ったけど、無事に到着し、早速受付に居た女性に聞いてみる。

「あの、この街で昨日トリスタン王子を見かけたって話を聞いたのですが」
「え? 失礼ですが、貴女は?」
「あ、すみません。私はアニエスと言いまして、とある事情でトリスタン王子の行方を探しているんです」

 慌てて冒険者カードを提示すると、女性がまじまじと見つめ、何かを思い出したように手を叩く。

「あぁ! あの、トリスタン王子の被害者の方ですね! そういう事でしたら、こちらの部屋でお待ちください」

 女性に案内されて奥の小部屋に入ると、少しして男性職員が入って来た。

「お待たせしました。トリスタン王子の事を探されているとか」
「はい。オリアンヌさん……王都の冒険者ギルドで、こちらに目撃情報があると伺いまして」
「そうですね。昨日の夕方くらいに、街の南の方で見かけました。ただ、街の南側はイスパナの国境があり、人が多くて見失ってしまったんです」
「なるほど。トリスタン王子のはイスパナへ向かったのでしょうか?」
「うーん、それは無いと思いますよ。冒険者カードや王族である事を示す紋章などでは、国境で止められるはずですので」

 職員さんによると、トリスタン王子は冒険者ギルドから敵対していると見做されて、冒険者カードが無効にされているらしい。
 ギルドから王家に対して、正式に抗議も行っているので、国外へ逃げようとしたら、間違いなく捕まるという話だ。

「ですので、まだこの街の何処かに居るのかもしれませんが……今のところ、他の者から見たという話は聞いていませんね」
「そうですか。ありがとうございます」
「一応、補足しておきますと、この街を通らずに……例えば山の中から国境を越える事も可能ですが、国の移動は全て記録されているので、記録に無い者が別の国で冒険者カードなどを使用すると即拘束されます。それくらい王子も知っていると思うので、流石にしないと思います」

 すみません。ここにそれをした事がある私たちが居るんです。
 いやまぁ、あの時は本当に緊急事態というか、時間が無かったからなんだけど。
 とりあえず、あの時に冒険者カードを使う事がなくて良かった。
 ひとまず、これ以上聞ける話が無さそうなので、冒険者ギルドを後にした所で、ロレッタさんが首を傾げる。

「ロレッタさん? どうかしたんですか?」
「あ……今の職員さんの話なんですが、私とトリスタン王子は少しだけ一緒に行動していたんですよ」
「そうですね。何度か、会いましたよね」
「えぇ。このフランセーズだけでなく、ゲーマ、タリアナと、幾つかの国を跨いで移動しているのですが……いずれも普通に国境を通っていたんです」
「えっ!? どういう事……?」
「わかりません。ただ、時々トリスタンとは違う名前を言っていたような気もして……まさか、身分証を偽造していたのかも」

 身分証を偽造って、かなり罪が重そうだけど、いくらトリスタン王子でも、そこまでは……しないと言えないところが悲しいわね。
しおりを挟む
感想 529

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!

向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。 話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。 シャルロット……よくやってくれたわ! 貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。 これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。 聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ! ……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。