聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。

向原 行人

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第2章 辺境の地で快適に暮らす土の聖女

第53話 腐った水?

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 鬼人族の村へ入り、そのままデュークさんの家へ。
 コンコンとノックをすると、デュークさんの奥さんが出て来た。

「おはようございます。デュークさんは居られますか?」
「聖女様! お、おはようございます。すみません。夫は昨日から買い付けに行っておりまして……」
「あ、獣人族の村ですか?」
「いえ。反対側の賢者の里へ行っております」
「賢者の里!?」

 何それ!? 名前からすると、賢い人たちが集まっている場所とか学校なんかを想像するけど、一体何なの!?
 というか、今まで鬼人族の村までしか電車のレールを伸ばしていなかったけど、当然ながらこの先があるわよね。
 これは是非行ってみなくっちゃ!

「あの、賢者の里って、どうやって行けばよいのでしょうか?」
「そうですね。ちょっと複雑な場所にあるので……もしもお時間があるのでしたら、夫が帰って来るのをお待ちいただければ、ご案内出来るかと思うのですが。ただ……帰宅は今晩辺りになりそうですが」
「うーん。今晩って事は、出発は明日よね? 一日くらいなら待っても良いけど……いやいや、デュークさんもお仕事だとか都合だとかがあるだろうから、場所だけ分かれば歩いて行きますよ?」
「しかし……で、では、少しお待ちください。誰か道案内が出来る者が居ないか、確認してまいります」
「あ、そこまでしなくても……行っちゃった」

 というか、デュークさんが留守で、奥さんもどこかへ行っちゃったから、息子君が一人でお留守番する事になるよね? 大丈夫?
 ……って、そもそも扉に鍵を閉めずに走り去って行ったんだけどっ! 不用心過ぎない!?
 それくらい安心出来る治安の良い村だという事なのかな?
 そんな事を考えながら、デュークさんの玄関は誰も通さない……という気持ちで待っていると、奥さんが走って戻って来た。

「お、お待たせしまし……た。少しお待ちいただければ、村の者にご案内させますので」
「何だか、すみません。かなり無理をさせてしまったみたいで」
「いえ、この村を救ってくださった聖女セシリア様の為です。これくらい何でもありませんから」

 村を救ったって言っても、単にバステトさんの話を聞いてあげただけなんだけどね。

「そうだ! 今日は賢者の里がメインではなくて、ビネガーの事を聞きに来たんです」
「ビネガー……ですか?」
「はい。料理に使ったりするかと思うのですが……使わないですか?」
「えぇ。ですが、ビネガーという言葉は聞いた事がある気がするんです。何だったかしら。確か、夫が何か言っていたような……料理に使う物なんですよね?」
「そうです。調味料……味を調える為に使う液体ですね。酸味があるというか、酸っぱいんですけど」
「酸っぱい液体……思い出しましたっ! 確か、夫と村長が何か話しておりました。村長に聞けば何か分かるかもしれません!」

 そう言って、奥さんが村長さんの所へ案内する……と言ってくれたんだけど、息子君を放っておく訳にはいかないし、何より私が村長さんの家を知っている。
 なので丁重にお断りして、一人で村長さんのお宅へ。
 奥さんから聞いた話を村長さんに説明すると、暫く何か考え……ポンっと手を叩く。

「思い出しました! ビネガーは、賢者の里と初めて交易を始めた時に、向こうが特産品だと言って出してきた物ですね」
「ふむふむ。ビネガーは賢者の里というところで作られているんですね?」
「はい。ですが……あんなもの、どうされるのでしょうか? ワシとデュークで味見した結果、腐った水を渡された! という結論になったのですが」

 腐った水は酷いなぁ。
 でも、お酢っていう存在を知らなければ、そう思ってしまうのも仕方ないのかも。

「ちなみに、そのビネガーは鬼人族の村にありますか?」
「いえ、腐った水と作物を交換は出来ませんので、いつも交易品からは除外しております故、ございません」

 なるほど。つまり、今デュークさんが賢者の里に居るはずだけど、お酢を持って帰って来る事はなさそうね。
 となると、尚更自分で行ってみなきゃ!
 という訳で、暫くして鬼人族の若者が二人同行してくれる事になり、賢者の里っていう所へ向かう事にした。
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