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第1章 追放された土の聖女
第3話 予期せぬ出会い
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「ん……朝? ……流石に身体が痛いかな」
石で家を作り、雨風を凌げるようにしたのは良かったんだけど、布団や毛布といった寝具の類は一つも持って来れなかった。
そのため、持ってきていたカバンを枕にして、石の床の上で直接眠っていたので、とにかく身体が痛い。
ご飯を確保したら、何とかして毛布代わりになりそうな物を探さないとね。
「ふわぁー! この足跡……やっぱり魔物かな? 石の壁だけだと不安だったから、結界魔法を使っておいて良かったー」
扉代わりにしている石を消して外へ出ると、沢山残っている大きな何かの足跡を見て、思わず両腕で自身の身体を抱きしめる。
魔物が現れたとしても、私が起きていれば土魔法で追い払う事が出来るけど、寝ている間に来られたらお手上げだからね。
とりあえず、顔を洗う為に川へ行こうとして、家の周りに張っていた結界魔法を解除する。
魔物は夜にしか出ないからと、何の警戒もせずにパジャマ姿で家の裏側に回り……茶色い何かが動いているのに気付く。
その茶色い何かは、私が昨日植えたリンゴの木から、ムシャムシャと赤い実を食べ続けていて……目が合ってしまった。茶色い……大きな熊と。
「く、熊っ!? し、死んだフリ!? いやいや、あれは迷信だって聞いた事があるから、えっと……ぼ、防御魔法!?」
土の聖女と呼ばれているだけあって、外出時は常に護衛の人たちが居たからか、それとも平和な日本の記憶が混じってしまっているからか……魔物ですらない熊に遭遇した私は、半ばパニックになりながら必死で土の壁を作り出す。
冷静に考えれば、攻撃魔法で倒した方が良い気がするんだけど、今回に限っては混乱して、防御魔法を使ったのが良かったと思う。
というのも、
「待った! 僕の言葉はわかるかい? 僕の名前はヴォーロス。見ての通りの熊で、決して魔物じゃないんだ」
壁越しに熊が話し掛けてきたから。
「しゃ……喋った!?」
「良かった。僕の言葉がわかるんだね」
「わ、わかるけど……どうして人の言葉が話せるの?」
「きっと、この木の実を食べたからだと思うよ。この知恵の木の実を」
土の壁で見えないけど、木の実って言うくらいだから、私が植えたリンゴの事……よね?
でも、昨日私も食べたけど、普通のリンゴだったわよ?
知恵の木の実だなんて呼び方をしていたけど、スーパーとかで売っていそうな普通の……って、待って。
今、私が思い描いた普通のリンゴって、日本のリンゴだよね。
この世界からすると、日本は異世界にあたる。
その異世界のリンゴを食べて、熊さん――もといヴォーロスが賢くなったっていう事!?
おそるおそる土の壁を、地面から一メートルくらい残して消してみると、壁があった場所のすぐ傍にヴォーロスが居て、
「やぁ。やっと顔を見せてくれたね。自己紹介の続きといきたいんだけど、良いかな?」
私に危害を加える気が無いという事を示そうとするかのように、その場から動かず、ゆっくりと話しかけてくる。
無言でコクコク頷くと、
「良かった。僕が朝の散歩をしていたら、見慣れない木の実があって食べてしまったんだけど、貴女のだったのかな? だとしたら、非常に申し訳ない」
再び紳士っぽく落ち着いて話し掛けてきた。
ひとまず、私も喋る熊という現実を受け入れる事が出来たので、応えてみる事に。
「えっと、あの木は私が魔法で育てた木だけど、別にここは私の土地とかじゃないし、木はまた育てられるから、気にしなくて大丈夫よ」
「魔法でそんな事が出来るんだ! それは素晴らしいね。もしかして、他の野菜や果物も作る事が出来るのかな?」
「えぇ。植物なら可能よ。何か食べたい物があったりするの? 私もこれから朝食だし……えっと、一緒に食べる?」
「良いのかい? だったら是非! えっと、貰う側の立場から図々しいんだけど、じゃあブドウなんかも出せたりするのかな?」
「もちろん。じゃあ、私もいただこーっと」
未開の地で初めて会話した相手は、熊さんでした。
石で家を作り、雨風を凌げるようにしたのは良かったんだけど、布団や毛布といった寝具の類は一つも持って来れなかった。
そのため、持ってきていたカバンを枕にして、石の床の上で直接眠っていたので、とにかく身体が痛い。
ご飯を確保したら、何とかして毛布代わりになりそうな物を探さないとね。
「ふわぁー! この足跡……やっぱり魔物かな? 石の壁だけだと不安だったから、結界魔法を使っておいて良かったー」
扉代わりにしている石を消して外へ出ると、沢山残っている大きな何かの足跡を見て、思わず両腕で自身の身体を抱きしめる。
魔物が現れたとしても、私が起きていれば土魔法で追い払う事が出来るけど、寝ている間に来られたらお手上げだからね。
とりあえず、顔を洗う為に川へ行こうとして、家の周りに張っていた結界魔法を解除する。
魔物は夜にしか出ないからと、何の警戒もせずにパジャマ姿で家の裏側に回り……茶色い何かが動いているのに気付く。
その茶色い何かは、私が昨日植えたリンゴの木から、ムシャムシャと赤い実を食べ続けていて……目が合ってしまった。茶色い……大きな熊と。
「く、熊っ!? し、死んだフリ!? いやいや、あれは迷信だって聞いた事があるから、えっと……ぼ、防御魔法!?」
土の聖女と呼ばれているだけあって、外出時は常に護衛の人たちが居たからか、それとも平和な日本の記憶が混じってしまっているからか……魔物ですらない熊に遭遇した私は、半ばパニックになりながら必死で土の壁を作り出す。
冷静に考えれば、攻撃魔法で倒した方が良い気がするんだけど、今回に限っては混乱して、防御魔法を使ったのが良かったと思う。
というのも、
「待った! 僕の言葉はわかるかい? 僕の名前はヴォーロス。見ての通りの熊で、決して魔物じゃないんだ」
壁越しに熊が話し掛けてきたから。
「しゃ……喋った!?」
「良かった。僕の言葉がわかるんだね」
「わ、わかるけど……どうして人の言葉が話せるの?」
「きっと、この木の実を食べたからだと思うよ。この知恵の木の実を」
土の壁で見えないけど、木の実って言うくらいだから、私が植えたリンゴの事……よね?
でも、昨日私も食べたけど、普通のリンゴだったわよ?
知恵の木の実だなんて呼び方をしていたけど、スーパーとかで売っていそうな普通の……って、待って。
今、私が思い描いた普通のリンゴって、日本のリンゴだよね。
この世界からすると、日本は異世界にあたる。
その異世界のリンゴを食べて、熊さん――もといヴォーロスが賢くなったっていう事!?
おそるおそる土の壁を、地面から一メートルくらい残して消してみると、壁があった場所のすぐ傍にヴォーロスが居て、
「やぁ。やっと顔を見せてくれたね。自己紹介の続きといきたいんだけど、良いかな?」
私に危害を加える気が無いという事を示そうとするかのように、その場から動かず、ゆっくりと話しかけてくる。
無言でコクコク頷くと、
「良かった。僕が朝の散歩をしていたら、見慣れない木の実があって食べてしまったんだけど、貴女のだったのかな? だとしたら、非常に申し訳ない」
再び紳士っぽく落ち着いて話し掛けてきた。
ひとまず、私も喋る熊という現実を受け入れる事が出来たので、応えてみる事に。
「えっと、あの木は私が魔法で育てた木だけど、別にここは私の土地とかじゃないし、木はまた育てられるから、気にしなくて大丈夫よ」
「魔法でそんな事が出来るんだ! それは素晴らしいね。もしかして、他の野菜や果物も作る事が出来るのかな?」
「えぇ。植物なら可能よ。何か食べたい物があったりするの? 私もこれから朝食だし……えっと、一緒に食べる?」
「良いのかい? だったら是非! えっと、貰う側の立場から図々しいんだけど、じゃあブドウなんかも出せたりするのかな?」
「もちろん。じゃあ、私もいただこーっと」
未開の地で初めて会話した相手は、熊さんでした。
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