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第8章 ヴァロン王国遠征

第249話 忘れた頃にやってくるアレ

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 赤いトカゲの姿を形取る程に強く具現化している火の精霊サラマンダーが、数十匹湧いている。
 ただ、サラマンダーは勝手気ままに溶岩の中で動いているだけで、こちらに攻撃してくる気配はなさそうだが、どうしたものか。

「とりあえず、溶岩の中から出てくる様子は無いし、迂回して通ろうか」
「しかし、これが本当にサラマンダーだとしたら、由々しき事態だ。すぐ傍にクレアモントの街があり、そこに住む民たちに危険が及んでしまう」
「……ヴィクトリーヌ。そう言うけど、そもそもここは火山で、大昔からその火山のすぐ傍に街を造っているんだろ? 今更じゃないのか?」
「だが、目の前に危険と思われる存在があるのだ。第五騎士隊副隊長として、それを放っておくわけにはいかない。どうだろう、ヘンリー殿。責任は我が持つ。どうか、先程の魔法でこのサラマンダーを活動不能、もしくは弱化する事は出来ないだろうか」

 ヴィクトリーヌが大量に湧くサラマンダーを倒してくれと言ってきている。
 おそらく先程アオイの魔法を使えば出来ると思うのだが、そんな事をして大丈夫なのだろうか。

『先程の魔法でなくても、要は火の精霊力を弱めれば良いんですよね? 目の前のサラマンダーたちを倒すのではなくて』
(ん? 精霊は倒せないのか?)
『もちろん倒せますよ。ですが、ここに居る精霊たちは何か悪い事をした訳でもなく、ただここに居るだけですし、倒してしまうのもどうかと思いまして』
(なるほど、一理あるな。ちなみに、倒す場合はどういう手段があるんだ?)
『水の攻撃魔法でも良いですし、普段具現化魔法で鉱物――土を剣に変えていますけど、その代わりに氷――水を剣にしてしまえば良いのですよ』
(おぉ、アイスソードって感じだな。格好良いな)
『あ、でも気を付けてくださいね。過去、アイスソードは強力故に争いの種になる事が多く、持ち主を殺してでも奪い取る人が居たと聞いた事があります』

 殺してでも奪い取る……って、氷で作った剣なんてすぐに溶けるんじゃないのか?
 強度だって鉄や鋼とかの方が強いだろうし。
 まぁどっちしにしても、サラマンダーを倒すつもりはないから、具現化しないけどさ。

「とりあえず、何も悪い事をしていないサラマンダーを活動不能にするのはやり過ぎだから、弱化――この火山の火の精霊力を弱める事なら出来るが……」
「おぉ、ヘンリー殿は流石だな。では、早速頼めないか」
「まぁやるのは構わないんだが……本当に良いのか?」
「もちろんだ。先程も言った通り、責任は我にある。やってくれ」
「じゃあ、そこまで言うなら……デリュージ!」

 アオイに教えてもらった、水の精霊力を高める魔法を使用した。
 これにより、水に弱い火の精霊力が下がる事になる。

「ふふふ……これで、このダンジョンが暑くなくなるな」

 ……って、おい。サラマンダーをどうにかして欲しかったのは、ただヴィクトリーヌが暑いからかよっ!
 というか既にアオイの魔法で涼しくなっているのだから、我慢して欲しい所なのだが。

「お……ヘンリー殿のおかげか、赤いトカゲが赤い光に変わったな」
「火の精霊力が弱まって、精霊の具現化する力が弱まったんだ。とはいえ、サラマンダーが死んだりした訳じゃないから、一先ずはこれで良いんじゃないか?」
「そうだな。先程よりも、更に涼しくなった気がするし、これで快適にダンジョンを進めるだろう」
「じゃあ、とりあえず先へ進もうか」

 サラマンダーの群れが居た場所を通り過ぎ、更に奥へ。
 再び溶岩の川に囲まれたのだが、サラマンダーの力を弱めたからか、溶岩の流れが遅い気がする。
 とりあえず、先程と同じ様に橋を造って突破し、暫く進むと再び周囲が岩に囲まれた通路になった。
 そこからは、溶岩の階層に入る前と同様に、モンスターが現れたり、落とし穴があったり、壁が迫ってくるという物理的な罠が続く。
 そして物理的な罠は楽勝だと気を抜いて居たら、忘れた頃に出て来たのが幻覚系の罠だ。
 ニーナの胸に顔を埋めて涙目になられ、ドロシーが全裸になって自ら肌を見せつけてくる幻覚を見て、ユーリヤのお腹にスリスリして皆がドン引きされる。
 流石に罠だという事を分かってもらえて良かったのだが、プリシラとクレアが「どうして私には何もしないのです!」「ヘンリー様……やっぱり胸が大きくないとダメなのですか?」と怒る幻聴を聞いたり、一瞬意識を無くした後から、ヴィクトリーヌが俺の腕に自らの腕を絡ませてきたり。
 美味しい――こほん。酷い目にあった。
 ……ヴィクトリーヌは本当に何があったのだろうか。
 冗談抜きに記憶が無いので怖いのだが、そんな苦労の末、

「着いた……ここがドワーフの国か!」

 周囲に生える光る苔によって淡く照らされた、背が低く横に大きな髭のオッサン――ドワーフを見つけた。
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