上 下
178 / 343
第6章 漆黒の召喚士

第178話 睡眠姦!?

しおりを挟む
「じゃあ、これから石化を解除するから、少し待っててー」

 そう言って、マーガレットが十日掛けて作成した自信の魔力の塊――魔石を手にして詠唱を始める。
 詠唱を終えた後も精神を集中させているのか、かなり長い間を取って、

「マリグナント・エラディケーション」

 聞いた事の無い魔法を使用する。
 その直後、黒い石と化していた騎士たちの色が、若干薄くなったが……それだけだった。
 だが、すぐさまマーガレットが別の呪文を詠唱しており、

「リヴァイブストーン」

 次の魔法を発動させると、灰色の石像が明るい色を取り戻していく。
 成功かと思った所で、マーガレットが崩れ落ちた。

「マーガレット! 大丈夫か!?」
「はい。ただ、大がかりな魔法を連続使用したので、流石にクラクラしますね」

 慌てて駆け寄り、マーガレットを抱きかかえていると、その間にも石像だった人たちの肌や服が本来の色に戻っていく。

「ふぅ。どうやら成功したみたいで……す」
「マーガレット! マーガレット!」
「大丈夫ですよ。ちょっと疲れただけです。だから、お兄さん……どさくさに紛れて、胸を触るのはやめてください」
「いや、これは手が当たってしまっただけだって」
「だから、そういう事は二人切……」
「マーガレットーっ!」

 話している途中で、突然マーガレットの身体がから力が抜ける。
 何度も呼びかけ、嫌がっていた胸を触ったりしても何も反応が無い。
 これは……嘘だろ!? ほら、マーガレット! 早く目を覚まさないと、いつまでも俺におっぱいを揉まれ続けるぞ! 早く目を覚ませよっ!

『あの……ヘンリーさん。マーガレットさんは、強力な魔法を連続使用した事による、魔力枯渇現象が起きているだけですよ?』
(何だよ、それ。どうなるんだ!? 死んでしまうのか!? 俺の魔力を分け与えれば目が覚めるのか!?)
『ヘンリーさんの魔力を分ける事が出来るなら即時解決しそうですけど、ですがマーガレットさんは眠っているだけなんですが』
(はい? 寝てるだと?)
『ヘンリーさんは経験ありませんか? 強力な魔法を使い過ぎて、急に強烈な眠気が襲って来るとか……って、今まで凄い魔法を相当使って来ましたけど、無かったですね』

 何故かアオイが呆れている。
 けど、そんな事で呆れられても、どうしろと言うんだ。

『人は体力が無くなったら寝て回復するのと同じで、魔力が無くなっても寝て回復するんです。ヘンリーさんは冗談抜きで魔力量がおかしいですからね』
(……まぁ俺の事はともかく、マーガレットも聖女と呼ばれる程なんだから、そんなに魔力が少ない訳じゃないんだろ? さっきの二つの魔法は何だったんだ?)
『詠唱内容と魔力の動きを見る限りでは、どちらも神聖魔法で、一つ目は悪魔の力を消す退魔系の魔法で、二つ目は石化から元に戻す魔法ですね。おそらく、一つ目の魔法の効果が有る内に、二つ目の魔法を使う必要があったのでしょう。おそらく高度な魔法に加えて、この人数を一度に治癒したので、さらに多くの魔力を要したのだと思います』

 改めて見渡すと、十数人の騎士や宮廷魔術士、それと男子生徒がキョロキョロと周囲を窺っている。
 一人ずつ石化を解く事も出来たのだろうが、マーガレットは公平にするためか、全員を一度に治癒する事を選んだみたいだ。

『で、ヘンリーさん。いつまでマーガレットさんの胸を触っているんですか? ……まさか睡眠姦ですかっ!?』
(す、睡眠姦っ!?)
『病室に誰も居ない事を良い事に、ベッドで眠る女の子の胸を露出させて、賢者になるんですねっ!? 外道ですっ!』
(すまん。何の事かさっぱりなんだが。ここは病院でもないし、すぐ隣にはユーリヤが居て、周囲には人が大勢居るんだが)

 強めに胸を揉んでも、何の反応も示さないマーガレットを抱きかかえながらアオイと話をしていると、

「クレアッ! クレアーッ! 良かった……良かったですのっ!」
「お姉ちゃんっ!? どうなっているの? 私は魔族の攻撃で死んだんじゃ……」
「違いますのっ! 貴方は魔族の魔法で石にされていましたの。それを、こちらのマーガレットさんが助けてくださったんですの」
「こちらの方が私の命の恩人……って、待って! お姉ちゃん! マーガレットさんが眠っているのを良い事に、男の子に胸を揉まれているんだけどっ! そこの貴方、その女性から離れ、抱きかかえた女の子を解放しなさいっ!」

 コートニーの妹らしき女性から、思いっきり睨まれてしまった。
 さらに他の騎士や宮廷魔術士たちにも囲まれているし、俺はマーガレットとユーリヤを抱えているし……これはテレポートで逃げるべきか?
 何にも悪い事はしてないはずなのに。

「私は宮廷魔術士クレア。命の恩人には全力で恩義を返す家訓に従い、その女性を救出させていただきます」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「問答無用っ!」

 騎士たちが剣を抜き、クレアを含む宮廷魔術士たちが詠唱を始めた所で、小さな影が俺の前に踊り出る。

「全員ストップですのっ! 皆、この少年の顔に見覚えはありませんのっ!? この少年こそがフローレンス様を助け、あの魔族を倒した英雄にして、ここに居る全員の命の恩人であるヘンリー=フォーサイスですのっ!」
「え? お姉ちゃん。それ、本当なの!? ……あ、でもこの男の子は、確か魔法大会の決勝戦に居た……召喚士?」
「本当ですのっ! 皆を石化から解いたマーガレットさんを召喚した方であり、今はフローレンス様の直属特別隊の隊長ですのっ!」
「嘘でしょぉぉぉっ! 誰か嘘だと言ってぇぇぇっ!」

 躍り出たコートニーのおかげで一先ず武器が降ろされ、詠唱も中断されたのだが、クレアが何故か姉と殆ど同じリアクションを取っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...