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第5章 新たな試練

第145話 召喚魔法

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「少年、やるではないか。あのタイミングで攻撃してくるとは思わなかったぞ。ただ、その程度の魔法であれば、発動した所でワシに傷を与える事は出来んがな」

 サムソンは片手でファイアーボールを防いだらしく、平然と立って居る。

「な、なんだって。まさか俺の……ファイアーボール……が効かないなんて! そんな……ファイアーボール……が。……ライトニング……なら、どうだ?」

 再び会話とみせかけて炎の弾を二発と、風の精霊魔法に属する電撃の魔法も放ってみた。

(アオイ。効果範囲が狭くて、威力の高い精霊魔法って何がある?)
『残念ながら、上位の精霊魔法は効果範囲が広い物が多いので、街中では不向きなんですが……それより、容赦ないですね』
(当然だ。無関係で、戦闘要員ですらない街の人々に危害を加えるような奴に、情状酌量の余地はない!)

 アオイと会話しつつも、煙から目を逸らさずに注視していると、中から人影――サムソンが飛び出してきた。

「少年、見そこなったぞ! 男なら男らしく、魔法などとくだらない物を使わず、直接ぶつかってこい!」

 流石に先程の無詠唱魔法三連続は防げなかったのか、上半身が裸になっている。
 相変わらずダメージを負っているようには見えないが、かなり頭にきているようだ。
 しかし、自分自身を神聖魔法で強化しているというのに、魔法をくだらないって……矛盾しまくりなんだが。
 まぁ確かに、こいつ自身が魔法を使って攻撃はしてこないけどさ。

『待ってください。あの怒りで顔を真っ赤にした状態での、魔法がくだらないという発言……もしかして、あの男は本気で言っているんじゃないですか? 魔法なんて要らないと』
(いや、でも思いっきり身体強化してるだろ。神聖魔法で)
『えぇ。ですが、それが自分で使ったものではなく、誰かが掛けたものだとしたら……少し調べますので、時間を稼いでもらえますか?』

 アオイの依頼に従い、精霊魔法で男を氷漬けにしては、数秒で氷を破られ、土の壁で固めて同様に突破される。
 その度に距離を取って、周囲に被害が出無さそうな大通りで鬼ごっこを続けていくと、

『わかりました! サムソンと名乗る男は、どうやら本当に神様から選ばれた男らしく、伝説級の人物みたいです』

 アオイが想定外の言葉を告げる。

(おいおい。伝説級の人物って、要はジェーンみたいな過去の英雄だって言うのか!?)
『残念ながら、そういう事です』
(だけど、それっておかしくないか!? ジェーンだって、エリーのホムンクルスが無いと実体が……って、待てよ。じゃあ、ホムンクルスみたいな物があって、俺と同じように過去の英霊を召喚する奴が現れたら……)
『えぇ、そういう事です。ですが、それを考えるのは後です。このサムソンは身体を傷付ける事が出来ない代わりに、弱点があります。あの男性にしては長すぎる髪――あれを切れば、神様から与えられた力を失うようです』

 アオイがどうやって調べているのかは知らないが、弱点まで分かるのか。

「ウインドカッター!」

 以前、ソフィアが俺に向けて放った風の刃を放つと、

「……むぅ」

 俺との鬼ごっこで怒り狂っていたサムソンが、一転して真顔になり、初めて自ら後ろへ下がった。
 どうやらアオイの言う通り、髪の毛が弱点というのは正解らしい。

「ジェーン! そいつの髪の毛を狙え! 髪の毛を切られると、こいつは弱体化する!」
「……くっ!」
「逃がすかっ!」

 身をひるがえし、先程までの戦いが嘘のように攻守逆転する。
 だが背を向けて逃げる相手だろうと、俺がやる事は変わらず、風の刃をその背に向けて十連続で放つ。
 元々パワーだけで敏捷性に欠けるサムソンは、四つ目までは避けたものの、五つ目の風の刃で髪が切られ、残り五つの風の刃をもろにくらって、身体に大きな傷を受けて倒れる。

「とどめだ!」

 それから俺は大きく跳び、倒れたサムソンの心臓へ剣を突き刺して……流石に動かなくなった。

(アオイ。先程の英霊の話が真実だとすると、こいつをどうするのが正解だと思う?)
『私が言うのも何ですが、ちゃんと成仏させてあげるのが良いかと。マーガレットさんに来てもらいましょう』

 上手い事を言って一人で戻って来て欲しいとメッセージ魔法で伝え、現れたマーガレットに事情を説明すると、

「ターンアンデッド」

 聖女らしく、サムソンの魂を成仏してくれた。
 だがその直後、サムソンの身体が急激に縮み、人型の小さな何かに変わっていく。
 いや、俺はこれに見覚えがある。

「ホムンクルスか……」

 そこには、少し形は違うものの、エリーと一緒に作ったホムンクルスがあった。

『ヘンリーさん。先程のマーガレットさんの魔法で、このホムンクルスの亡骸から、暗黒魔法の魔力が消えました。あの男の髪を切った時点で神聖魔法の魔力は消失していたので、おそらく暗黒魔法によって魂が召喚されていたのではないかと』
(え? 俺が使う召喚魔法も、暗黒魔法の一種なの!?)
『いいえ。そうではありませんが……待ってください。この亡骸から、僅かながらエルフの魔力が感じられます』
(という事は、このホムンクルスを作ったのはエルフなのか?)
『わかりません。エルフが作ったのだとしたら、もっと強い魔力を感じると思うのですが』

 アオイが亡骸に対して魔力の調査を行っていると、突然そのホムンクルスが黒い炎で燃え上がり、灰すらも残らずに消えてしまった。

「何が起こったんだ!?」
「すみません、わかりませんでした」
「お兄さん、ごめん。私にも何が起こったのか、さっぱり」

 ジェーンとマーガレットが驚き、

『魔法を感知する事が出来ませんでした。かなり強力な魔力で隠蔽されていると思われます』

 アオイすらもお手上げ状態となっていた。
 そんな中で、

「にーに。そこに、へんなのがいるよー」

 唯一ユーリヤが何かに気付いた。
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