上 下
80 / 343
第4章 マルチタスク

第80話 拘束の首輪

しおりを挟む
――GYOAAAAAAA

 な、何だ!? 今までよりも、長い咆哮が返ってきたけど、どうしたんだ?

『ヘンリーさん。どうやらあのドラゴンは、両親の事を思い出して、悲しんでいるみたいです』
(あー、人間換算すると五歳とか六歳くらいだっけ。そりゃ、親が傍に居ないと寂しいよな。……でも、このドラゴンはどうしてこんな所に居るんだ?)
『流石に私もそこまでは分かりかねます。このドラゴンも、「お父さん」とか「お母さん」って言っているだけですし』

 ふむ。もしかして迷子なのだろうか。
 いや、でもこの洞窟の入り口は一つだし、迷い込む事なんて無さそうだ。
 唯一何か知っていそうなルミは、未だに混乱状態でまともに話が出来ないし、どうしようか。

「あのさ。このドラゴンなんだけど、どうやら親とはぐれた迷子みたいなんだ。で、泣いているんだけど、どうしたら良いと思う?」
「えっ!? お兄さん。迷子って、このサイズで子供なの!?」
「というより、貴方……ドラゴンと話が出来るの!? そして、さっきまでの変な言葉は、ドラゴンと話してたの!?」

 残念ながら、マーガレットとアタランテからは、俺と同じリアクションが出ただけで、迷子に対する意見は何も出てこなかった。
 親の事を思い出して悲しんでいる子供に、「親はどこに居るの?」とか「どこではぐれたの?」とかって聞いても良いのだろうか。
 ますます悲しんで、会話が出来なくなっても困るし、暴れだされたら最悪の事態にもなりかねない。

『えーっと、泣いているドラゴンの言葉から判断すると、家の近くに居たはずなのに、突然この洞窟にワープしていたって感じですね』
(という事は、自分の意志で来た訳じゃないって事か?)
『おそらく。単なる推測にしか過ぎませんが、この洞窟を守らせる為にあのバカエルフ――リンネア=リーカネンが何らかの手段を使って、この子供ドラゴンをこの場所へ拘束しているのではないかと』
(何らかの手段って?)
『分からないです。召喚魔法でしたら、術者が亡くなっているので無効だと思えますし……あ! そういえば、ここへ来るまでの扉も、特殊な仕掛けがなされていました。何かしらのマジックアイテムが用いられているのではないでしょうか』

 マジックアイテムか。
 これだけの大きなドラゴンを拘束するのだから、小さい物では無いと思う。
 それなりの大きさで、かつ強い魔力を消費しているはずだ。

「マーガレット。この空間で一番強い魔力を放っているのが、どこか分かるか?」
「え? 分かるも何も、目の前に居るよ?」
「どういう事だ?」
「あのドラゴンだよ」

 あー、子供といえどもドラゴンだもんな。
 魔力も凄いよね。

「じゃあ、ドラゴン以外では?」
「それならルミちゃんじゃない? 今は大変な事になっているけど、エルフだし」
「……えっと、じゃあルミも除いて」
「んー、じゃあお兄さんかな。人間にしては、かなりの魔力量だと思うけど」

 俺かよ! 正しくは俺というより、アオイな気もするけれど。
 しかしこの結果からすると、アオイの言うようなマジックアイテムは設置されていなくて、別の方法で拘束されているという事だろうか。

『ヘンリーさん。マーガレットさんが言っていたじゃないですか。一番魔力を放っているのは、目の前のドラゴンだって』
(ん? あぁ、そうだな。ドラゴンだし。だけど、マジックアイテムは無さそうで……)
『そうではなくて、あのドラゴン自体に付けられているんじゃないですか? そのマジックアイテムが』
(あ、そういう事か。この手の拘束するマジックアイテムの定番と言えば、指輪や首輪だと思うんだけど……よく見えないな。少なくとも手に異物は無さそうだが)

「おーい! もしかしたら、親に会えるかもしれないぞー! だから、話を聞いてくれー!」
『ちょ、ヘンリーさん!? そんな無責任な事を……』

――GYAUUUUU

(アオイ。何て言っているんだ?)
『……本当か? って感じの言葉ですね。というか、そんな事を言ってしまって大丈夫なんですか?』
(大丈夫。何とかなるだろ……たぶん)

「もしかしたら、首に変な異物とか付いてないか? ちょっと見せてくれないかー!」

 今度は返事の代わりに、ドラゴンがその頭をゆっくりと地面に降ろしてきた。
 これは見ても構わないという事だろう。

「二人とも、ちょっとそこで待っていてくれ」
「お、お兄さん!? まさか……」
「貴方、大丈夫なの!?」

 不安そうな二人に大丈夫だと告げ、大きな頭や太い首を見ていく。
 そして、

「……これだな。明らかに自然の物ではない、金属の輪だ」

 俺の腕よりも幅の広い、黒い金属の輪が首に巻かれている。
 アオイの見立てによると、巻かれたドラゴン自身の魔力を消費して、拘束しているそうだ。
 自らの魔力を強制的に奪われ、かつ動きを制限するとは、中々に凶悪なマジックアイテムだ。

(で、これはどうやったら外れるんだ?)
『すみません。魔力構造までは分からないですね。けど、この手のマジックアイテムは、無理矢理外そうとすると、爆発したりするのが常套ですね』
(確かに……性質が悪いな)
『えぇ。マジックアイテムというより、呪いのアイテムですね』

 呪いか……って、待てよ。

「マーガレット。来てくれ」
「えぇっ!? そ、そこに? 大丈夫なの?」
「大丈夫だ。それより、これを見てくれ。何だか、禍々しく無いか?」
「そうだね。闇系統の魔法が組み込まれている気がするよ」

 やはりか。
 リンネア=リーカネン自身がこれを作ったのか、他の誰かが作ったのかは分からないが、少なくとも人々の暮らしが良くなる良いマジックアイテムとは言えないようだ。

「これって、解除出来る?」
「たぶん出来るけど……大丈夫? 解除した瞬間、ドラゴンに襲われたりしない?」
「大丈夫だって。ちょっと、解除してくれよ」
「良いけど……ここだと神聖魔法が使えないよ?」
「あ! そうか。どうしよう。ドラゴンを連れて洞窟から外に出れないしな」

『そもそも、このマジックアイテムのせいで、ここから出られないんだと思います。そうでなければ、洞窟を壊して出れば良いんですから』
(まぁそうだな。ドラゴンなら真銀の洞窟でも壊せそう……って、そうだ! おそらく、このドラゴンが聖銀を守る最後の壁だろ?)
『まぁ、そうでしょうね。ドラゴンなんて大物ですし』
(だったら、すぐそこに聖銀が有るんだから、そこに含まれる光の力で、光系統の魔法――神聖魔法が使えるんじゃないか?)

 疑問に思ったら、即実験。
 未だに俺の腰へしがみついているルミに手を当て、

「キュアコンフューズ」

 混乱を治す神聖魔法を使ってみる。

「あ、あれ? お兄ちゃん? ルミ、どうして抱きついてるの?」
「よし、神聖魔法が発動したな。マーガレット、頼む」
「神聖魔法が使えるんだね? じゃあ、任せて……プリファイ」

 アオイも知らないという、神々しい輝きを放つマーガレットの魔法の光が収まると、ドラゴンに付けられていた首輪が綺麗に無くなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...