ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2321話 ウルの様子観察

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 俺は資料に目を通しながら、ウルの様子をうかがっていた。

 どんなことに興味を持つのか、どんなことを学びたがっているのか、自分の意思で勉強しているのか、などなど。

 俺たち家族は誰も気にしていないのだが、ふとした時に血のつながった子どもじゃないから……みたいな雰囲気を感じることがある。領主の勉強を始めだす少し前位から、時々……1ヶ月に1度くらいだろうか? そう感じることが続いている。

 たぶん、自分で考えての事ではないと思う。この子の性格なら、そんなことを考えること自体が悪い事をしている、といった風に感じるからだ。

 それでもそういう雰囲気を感じるのは、おそらく心に負った傷の所為だろう。意図した事ではなく、無意識のうちに思い出しているのだろう。

 正直、あの光景を見てしまったウルの心が壊れていないか心配だった。初めは遠慮をしている様子だったが、次第に甘えられるようになっていたので、良い傾向だと思っていたんだよな。

 それなのに、こんな雰囲気を感じさせるのは、俺たちが間違っているのではないか? とか考えてしまう。

 妻たちにも相談はしているし受けてもいるけど、明確な解決策など思いつくわけもなく、様子を見る事しかできない状況だ。

「ウル、仕事している姿を見ているだけだけど、何かためになることでもありそうか?」

 俺は少し顔を向けて、ウルに声をかけてみた。

「ん~、ためになるのかは分からないけど、お父さんが仕事をしている姿を見るのは楽しいよ」

「楽しいのか? ただ数字とにらめっこしているだけだぞ」

 ウルも何が楽しいのかは良く分かっていない様子だったけど、見ているだけでも満足らしい。俺は、久しぶりにゆっくりと一緒にいられるから、それだけでも嬉しいんだけどね。

 ウルに、勉強や仕事以外でしてみたいことがないか聞いてみた。

「いろんな人を助けるようなことをしたい!」

 簡潔に答えてくれたのはいいけど、漠然とし過ぎていてどういう風にしたいのかが全く分からなかった。

 領主……俺の仕事を覚えているのも、俺が色々な人を助けているから、俺がしていることを学んで自分でも多くの人を助けたいそうだ。

 ウルみたいなしっかりものなら、俺の後を継いで領主になるのも賛成だと言ってみたが、前にも話していたように、領主になる人の補佐をする方がいいみたいだ。

 俺は自由気ままにやっているが、それができるのは俺だからであって、私には絶対できない、とウルが話してくれた。

 ダンジョンマスターの能力はどうにもならないけど、補佐にブラウニーや四大精霊でもつければ、大体は解決出来るから、問題は無いと思うんだけどな。

 ポジション的には、俺とグリエルとガリアを足して3で割った感じの役割を目指していそうだ。縁の下の力持ちになりたいのだろうか。性格的にはあっているのかもしれないけど、前に出てもいいんだぞ?

 グリエルとガリアの2人を足しているのは、自分には俺のようなことは出来ないけど、色々みんなのためにしたいということで、グリエルたちよりは力を持っているが、俺のような決定権は後継者の人間に持たせるためだろう。

 まぁ、グリエルとガリアの仕事をウル1人で出来るようになることは無いと思うので、同じような立場の人間が複数人いて支えていく形になりそうだ。

 例えば、シンラを俺の後継者にした場合、ウルがその下について、その下にグリエルとガリアの息子たちが来る感じかね? ウル、モーリス、テオの3人でグリエルとガリアの仕事をする感じか?

 そうすると、シンラのすることが無くなる気がするが、俺みたいに決定権だけもって色々判断するだけになるか?

 待てよ……シンラが領主になった場合、プラムとシオンも一緒についてきそうだな。そうなったら、一緒にいるだけというのは許されないから、色々仕事を覚えるとなれば、先の3人にシンラ、プラム、シオンの6人で、俺、グリエル、ガリアの3人分の仕事をする感じか?

 あ~、妻たちがやっている仕事を、プラムとシオンが引き継げば4人ですることになるか。

 妻たちの半分程の処理能力だったとしても、昼を少し過ぎるくらいで仕事が終わるはずだから、そこまで大変というわけではないな。

 ありえそうで、ありえなそうで、ありえそうな未来を思い浮かべた。

 おっと、確かに違和感があるな。何がどうというわけではないのだが、言われてみれば少し変に感じる程度のものだろう。もしかしたら、普段なら気付かなかったかもしれないような、本当に小さな違和感だ。

「ウル、見学しているところ悪いけど、グリエルたちを呼びに行ってもらっていいかな? 俺が呼んでるって言ってくれ」

 先ほど俺から資料を受け取った2人は、自分の執務室へ戻っているので読んできてもらうことに。普段なら秘書に頼むのだが、ここはウルに仕事を頼んでみよう。簡単なお使いだな。

 すぐにグリエルたちが来たので、違和感を感じた時に調べた資料も一緒に出してもらうことにした。

 空間投影ディスプレイにある程度分類化した書類をまとめ、自分の周囲に展開した。

 コの光景だけ見たら、地球のどんな場所よりもハイテクだな。近未来のSF映画のワンシーンに出てきたような光景だもんな。

 違和感については、色々見比べて違いを探すしかないんだよな。

 別に細工をされたような感じでもないし、いくら見返してもたまたま同じ数字になった資料はあったが、数年前の資料だからわざわざ数字を揃える必要もない。

 ん~、何が違和感を感じる原因になっているんだろうな?

 30分程格闘して、やっとその答えが見つかった。思い込みって、ここまで人の認識を捻じ曲げる力があるんだな……改めて、人間の不完全さを思い知ることになった。チェックした人間全員が同じ思い込みをしていたことに、若干戦慄を覚えるレベルだ。

 グリエルたちをもう1度読んで、違和感の正体を説明した。

 なんてことは無いヒューマンエラーだった。だけど、思い込みによって起ったそれは、資料の中にある数字だけの問題で、実際には正確な数字で資料が保管されていたため、収支報告などには問題がなかったのだ。

 今回の違和感は、作成者が資料を作る際に、ある一部分の数字を打ち間違えて入れ替えていたことが原因だった。

 誰も気付けなかったのは、ダブルチェックなどをして提出された資料なので、数字自体はあっていたのだ。だけど、打ち間違えによる場所が入れ替わっていたとは誰も思わず、違和感だけを感じていたというのが今回の真相だった。

 今までそういったミスは現場で気付かれていたため、俺たちの所にあがってくるのは正確な情報だけだったのも、今回のプチ騒動の原因の1つだろう。少しは疑う目も養わないといけないかもな。
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