ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2257話 道のりは近いようで遠い

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 下から見上げるだけだとよくわからないので、少し離れた位置からも観察できるように、スタート地点の台を広げてみた。

 高さ50メートル、幅も50メートルほどある壁とにらめっこをする。

 スタートに使えそうなラインが7本ほどあるかな?

 離れた位置から見ることで、ごつごつした場所が良く分かる。左側のラインは、始めは登りやすそうに見えるのだが、壁の傾斜がマイナスに踏み込んでいるので、登る場所が反り返ってるんだよね。こんなところどうやって登るんだ?

 しっかり掴まる部分でもないと、途中で力尽きそうだ。

 俺が初めに選んだのは右側にあるラインの一つで、反り返っている方は無理だと思って、早々に右側を選んだんだったよな。

 ちょっと参考に、クライミングの映像を取り寄せて見た。

 反り返っていても、何故かしっかりと張り付いている感じで移動しているクライマーたちは……何か特殊能力でも持っているのだろうか? 映像の中盤には、もっとおかしな光景があった。

 反り返りが激しくて天井みたいになっているところに、張り付いているような状態で移動をしていたのだ。蜘蛛男みたいにどこでも移動できるんじゃないか? と疑うような光景だった。

 実際には、指を入れる隙間があったり突起を利用しているのだが、どれだけの力を使っているのか疑問に思う状況だな。

 隙間に指を入れても、重力に引っ張られて地面へ向かう体を支えられるのか?

 本当に意味が分からない光景だ。

 1つ言えることは、あの天井に張り付いているような光景は、参考にならないということだな。

 壁の亀裂に手を突っ込んでいるのは、中に引っかかるところが無くても、指の力等を利用してハーケンと同じような事を再現しているらしい。かなり疲れる力技なので、掴まる以上に疲れるそうだ。

 これがクライマーの一般的なスキルなのか、特殊なスキルなのか俺には分からないが、縦の割れ目でも上手く利用すれば登るのに役立つってことだな。

 何度か軽く目を通しただけだが、本当に意味の分からない技術がいくつもあるように見えた。

 改めて壁に向かって視線をやり、移動できそうなラインを探すことにした。

 先ほど通ったラインは見る感じ、突起の所で道が途切れているように見える。結構無理していったのに、ごつごつしていたように見えた壁も、取っ掛かりとして使うには難しい印象ばかりの場所だった。

 隣のルートなら多少力技になる部分はあるが、移動は可能そうな印象だな。多分だが移動範囲内と思われる場所に、取っ掛かりや割れ目が見えるから移動できるのではないだろうか?

 ただ反り返っている部分なので、足を置く場所がない。腕の力だけで移動することになるということだ。

 腕の力だけで移動するということは、移動可能範囲が狭くなるんだよな。それだとギリギリ届かない可能性がありそうなところがあるな。となるとこのラインはアウトなのかもな。

 全体をながめていて分かった事があった。

 これって、始めは登りやすい右のラインを使って登ってから、中腹度過ぎたあたりで左側へ一気に移動して、そのまま登る形のラインしか存在していないのではないだろうか。

 俺が力技になっているといったラインの上側に、右から来るラインが存在している気がするのだ。その左側なら上まで行けそうなラインがある。右側の上のラインは、かなり厳しい感じがする。

 失敗したところで死ぬわけでもないので、気にせずに頑張っていこう。

 一番わかりやすい右から2番目のラインで登って見よう。俺が利用しようとしているのは、さっき使ったラインで、途中で方向を左へ分岐するラインを選んでみる。

 分岐するところまでは特に難所もないので、すいすいと進める。それでも、体に色々と負担がかかっているので、普通の人ならかなりの疲れが溜まりそうだ。

 分岐するところまで来たので、そこからラインを思い出して左へと進んでいく。手足を順番通りに動かせればいいのだが、なかなかそういうわけにはいかないのがクライミングだ。

 実際に考えていた通りに行かないので、少しずつ修正しながら予定のラインを進んでいく。

 経験が少ないためか、思っている以上に遠かったり近かったりする箇所があった。それでも届かないということは無いので、何とか移動ができている感じだ。

 壁に張り付いてから移動した距離で言えば、最初より長い距離を進んでいるが、疲れはさっきよりもはるかに少なく感じる。体勢に無理があったのか、かなり体に負担をかけていたのかもしれない。

 クライミング自体が、体に負担をかけるスポーツではあるが、達成感や過程を楽しんで自分の意思でやっていることが良く分かる気がする。

 スポーツをゲームに例えるのは間違っているかもしれないが、トライアンドエラーを繰り返して行動を最適化するのは、RTA(リアルタイムアタック)と呼ばれる、どれだけ早くクリアできるかというゲームの手法に似通ったものがある気がする。

 自分の肉体を使うかキャラクターを操作するかの違いだけで、目指している方向性は同じなようなものではないだろうか?

 いけないな。休憩しながら違うことを考え始めている。もっと集中しろよ俺!

 もう少し進むと、反り返った壁の所まで到着する。傾斜にするとマイナス10度とかくらいだろうか? そこにたどり着けば、今よりはるかに肉体にかかる負担が増える。適度に疲れを抜きながら進まないと、途中で限界に達する可能性だってあるぞ。

 壁を登り始めて10分。移動した距離にしておよそ30メートル。登った高さは15メートルもないので、まだ3分の1にも到達していない。

 手を伸ばして反り返り始めている壁の突起につかまる。この後のラインを思い出しながら、見える範囲の手足場をチェックしていく。

 ボルダリングと違い突起などが見難い。突起に見えていたものが違ったりもする。

 クライミングとボルダリングは、同じように見えて全く違うスポーツなのだと感じた。自然を相手にするものと、人工物を相手にするものの違いがあり、どちらが難しいかは考え方次第だろう。

 ボルダリングは、ゴールを前提に考えられているが、限界に近い体の駆使をしてやっとゴールできるコースもあるそうだ。

 それに対してクライミングは、ゴールが前提となっておらず、試行錯誤を繰り返しながら進んでいくスポーツだ。速さを競う物ではなく、自分と戦いながら壁を登っていく物だと思う。

 中途半端ではあるが、両方とも経験している俺はそんな風に感じている。
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