ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2183話 できた子たちだ

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 一緒に遊んだ子たちにチケットをあげたとなると……今、ウルたちと勉強をしている子どもたちは羨ましがるだろうな。ここに兄弟がいる子もいるだろうが、そうでない子たちもいる。さすがに不公平すぎるから、兄弟のいない子たちにも上げるか。

 少し作戦を考えないと、拙い事になりそうなので、妻たちに相談してみようか。

 この時間なら食堂にいる妻もいるだろうから、子どもたちに挨拶してから分かれた。しっかり水分補給するんだぞ~。ブラウニーたちに後を任せて、足早に食堂へ向かった。

「なるほどね。贔屓にならないように、兄弟のいない子たちにチケットを渡したいのね。だったら、今勉強している部屋に行って、そのままいえば問題ないと思うわよ。ここにきている子たちは、そのくらいの判断をできる子たちだけだから、理由を説明すれば納得するわ」

 と、リンドにぶった切られた。

 ここに来る条件として、トラブルを起こさない子どもというのも含まれていたらしく、年相応でわがままを言う子どもたちの治療師たちには、事情を説明して理解を得ているらしい。小部屋があるとはいえ、集団生活をすることになるので、問題が起きにくい人選をしていたんだとさ。

 そう言われてみれば、ここにきて子どもたちが大きな問題を起こしたことは無いな。かなりの人数がいるんだから、問題の1つや2つ起きてもおかしくないのに、それがないのは不自然だ。その理由が、子どもたちの物わかりの良さにあったということか。

 驚いたが納得した面もある。もし子供がトラブルを起こせば、親はここで仕事がしにくくなる。それを分かったいるから、参加を希望した治療師たちも、こちらの説得に応じたのだろう。

 それに、年相応である子どもたちの親は、隣街で待機しているようなので、何かあったときのための備えはできているんだとさ。それでも、人数には限界があるので、20人ほどの治療師しか待機していない。

 勉強をしている部屋に行くと……おや? ウルが前でみんなに勉強を教えている。算数の四則演算みたいだな。

 教えることで、その事柄をどれだけ深く知っているかが分かり、多くの人に理解してもらえるように説明できるのは、どれだけ理解ができているのかを知ることができる。

 大学の授業で、一方的に講義する教科もあるそうだが、誰でも理解できるように説明する教授たちは少ない。学校に合わせて授業をしているといえばそれまでなのだが、実際は教わった事や聞いた事柄をそのまま話しているに過ぎない教授も多い。

 そうでない教授もたくさんいるが、専門家の教授たちに自分の分野を子どもたちにも分かりやすく、説明できる者はそう多くない。難しい言葉を知っていても、きちんと理解できていない事が多いからだ。

 何かのテレビでやっていたが、料理人や研究家の人に、コクを説明できる人が少なかったという実験番組があった。料理を評価するときに使われている、コクという言葉を知っていても理解している人間が少なかったということだ。

 そういう風に、知っていても理解できていない言葉が多くあれば、子どもたちに説明することは出来ないだろう。

 こんなことを何故考えたのかと言えば、ウルがしっかりと考え方について、説明しているからだ。

 日本ではありえない光景だろう。

 日本の四則演算の勉強は、基本的な足し算引き算を覚え、掛け算割り算は九九の応用で教えるが、ウルがしているのは、九九を分かりやすくどんなふうに考えるのかを教え、結果的に表通りの数字になるという感じで教えていた。

 過程を教えていたのだ。

 5×5は、5が5つで全部足すと25になるといったものではなく、似た感じなのだが見た目で理解できるような方法だった。

 確か、この数の数え方って、どこかの国で教えている授業の動画が動画サイトに上がってなかったっけ? テレビのCMだか、動画サイトの広告だか、何かで見た覚えがあるんだよな。インド式ナンチャラとか言ったっけ?

 あれを自分で考えたのかね? それとも、ダンジョンマスターの能力で拾ってきた動画を見て学んだのかね? 2桁同士の計算位なら、この方法でも手間はかからないけど、毎回線を引いて……となると面倒だよな。

 まぁ、この方法は考える過程を教える為で、実際にずっと使う物ではない。どういう過程で計算が行われているかを、覚えてもらうための方法なので、これを学んでから筆算に入ると理解しやすくなるのではないだろうか?

 俺は、既に結果を知っているので、過程の考え方を見て、こういう風に考える方法もあるのか! と思っただけで、理解速度が上がるか迄は分からない。

 この世界では、足し算引き算ができれば、ダマされる可能性はかなり低くなる。物の価値が分かれば更に低くなるが、そこまで学べる人間はこの世界には多くない。学べる人間の中には、ダマす奴らも含まれるのでかなり難しい話になる。

 そこらへんは、街の事情にもなるのであれだけどな。

 俺の街では、詐欺行為は一切禁止している。物の価値を偽ることも禁止だ。本来銀貨1枚の価値しかないのに、大げさに金貨1枚の価値がある物だ! みたいにして売る行為は、犯罪となる形だ。

 ここにきている子たちは、俺の街ではなく、商会が店舗を出しているだけの街からも来ているのだ。最低限計算位はできないとな。買い物は商会を使えば詐欺をされることも無いので、そこで一般的な価値を学んでもらえれば、今後のためになるだろう。

 子どもたちが、一生懸命学んでいる姿は、なんだかほっこりするな。

 勉強を教えている姿を見られたウルは、若干照れくさそうにしている。立派だし、可愛いぞ!

 そんなことを思っていたら、近くに来たミリーに頭を叩かれる。

 食堂でリンドたちに話したことを伝えると、ミリーたちも同じような考えで、そのまま話しても問題ないといってくれた。

 勉強を教えているウルに今度、ご褒美をあげようかと思い、妻たちに相談する。

 もう欲しいものがあるらしく、シルキーたちにお願いしているんだとさ……お父さんとして、教えてもらえなかったことがショックだったが、娘の成長を実感できるいい機会だったな。

 ウルの授業も終わり先ほどの話をすると、兄弟のいない子たちは、自分たちももらっていいのか迷っている。もらえるならもらっておけと思うが、何もしていないのにもらってもいいのかと悩んでいる。

 こういう子たちがから、ここに来ることができたんだろうな。

 お母さんたちも喜ぶだろうから、貰っておくようにとミリーたちが説得した。
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