ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2163話 訓練Part5

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 人数と魔力のゴリ押しで進んでいる俺たち。

 掘って進んでいるのは、塹壕としての役目だけではなく、道中の地雷などトラップにより影響を減らす物だった。ただ、攻撃から逃れるための方法かと思っていたら、前と後ろで土魔法の使い方が違ったのだ。

 前方では、土魔法で左右に押し広げる方法で魔法が使われており、後方では押し広げた土をほとんど使わずに、周りから土を集め盛っていた。多少周囲の地盤が緩くなるが、それは後で何とでもなるので問題は無い。

 だけど、何でこんな回りくどい事をしているかというと、どかす時に地雷が不発で戻した際に爆発するリスクを下げるためだった。

 初めは気付かなかったけど、よくよく観察している内に気付いた事実だ。防衛部隊が動いていた付近には、トラップなどは無かったが、所々に似たようなトラップがあり、結構時間を稼がれてしまっている。この時間で駐屯地にいる一般人の避難を進めているのだろう。

 欲張らずに確実に足止めをしている。無理をせず欲張らずに、安全に時間を稼いでいるのだ。

 この状況に仕事の少ない妻たちは、やきもきしている。ピーチにこの方法で進むのではなく、一気に魔法で地面の危険物を取り払ってから、走って進むことを提案したりしているが、採用されることは無かった。

 自分たちには可能な方法だが、普通なら出来ない方法で進むのは良くない、と言っていたが……塹壕を掘りながら進むのも一般的ではないのだが……

 ピーチにはピーチの基準があるようで、塹壕堀の場合は安全で時間がかかるから、走る方法よりは問題ないと判断しているらしい。良く分からん。俺たちじゃなければ、チマチマ地上を歩くか、大きく迂回してトラップの無い所を進むくらいなんだけどな……

 まぁ、今回の指揮はピーチに任せているので、口をはさむのもおかしな話だ。なので俺は、レイリーたちからの情報を聞いて、頭の中を整理することにした。

『なるほど、ではそちらに支障のない範囲で分かっていることをお話しします。現在、駐屯地の避難状況は約50パーセントほどでしょうか。ここで調理をしてくださっている方たちは、一般人ですので移動速度にも限界があり、少し離れた所で作業していた人たちが、まだ橋に到着していないですね』

 あ~逃げやすいように、調理関係は橋の近くにしていたけど、それ以外の作業をしてくれている人たちは、少し遠い位置で仕事をしていたから、逃げるまでに時間がかかっているのか。そう考えると、逃げ込む場所から遠いところに馬車を置いておくのがいいかもしれないな。

 どうせ駐屯地内に馬車を置いておいても、使う事なんて無いのだから、上級士官たち用の馬以外と一緒に外側に置いておくのはありかもな。

 駐屯地内を馬で走るなんてアホな事されて、一般人にケガ人が出ても困るので、本当に緊急時以外は乗らないだろうしな。乗るにしても、先に通路に入らないように対策をしないといけないだろう。

 レベルの上がった軍馬で一般人にぶつかれば、怪我で済まない可能性だって高いから、そこらへんも決めておかないといけないかもしれない。

 俺の考えている事に賛成してくれたのは、ゼニスだった。ってか、お前もいたんだな。レイリーはあまりピンと来ていないようだが、グリエル・ガリア・ゼニスは一般人の感覚に近いので、馬の恐ろしさを理解しているってことだな。

 ただ、問題があるとすれば、馬たちの飼葉の心配だな。駐屯地の近くまで敵を寄せ付けるつもりは無いが、飼葉はちょっとした火で燃え上がってしまうので、まとめて置いておくのは危険なのだ。だけど、分散して置いておいておくと、1ヶ所でもつけられてしまったら、飛び火で他にも燃え移ってしまう可能性が高い。

 だから、外側に配置するとなると、必然的に餌も近くに置くため、火をつけやすくなってしまう事が問題だな。

 飼葉は全部収納系に納めておくべきだろうか? 収納のカバンならまだ出し入れは簡単なのだが、収納の箱になると、出し入れが手作業になるので、かなり面倒なんだよな。それでもたくさん入るから、行商には向いている。

 後は、倉庫代わりに使うことも、管理しやすいという点で向いている。スペースが小さくて済むので守りやすいのも評価が高いだろう。広いとある程度数が必要になるが、箱なら数より質を求められるのもいい点だろう。

 ただな~使用者固定をしていない腕輪とカバンは増やしたくないんだよな。鹵獲された時に困るからな。鹵獲されても、俺たちや暗部の人間で取り返せばいいんだけど……あまりしたくないというか、それをするとレイリーが困るからな。

 現場は出し入れが大変かもしれないけど、箱で対応するか。飼葉専用の馬車でも作って、餌を与える兵士たちがみんなで頑張れば、いざって時に助かるよな。それに、急な出撃があった場合にも、飼葉専用の馬車があれば、距離の制限がなくなるから便利だしな。

 変化のない戦場なので、雑談代わりにレイリーに聞いてみた。周りに聞こえないように、小休止の間に遮音結界を張って聞いている。

『軍馬の数は、他の街の比率に比べれば少ないですが、それでもかなりの数がいますから、飼葉の問題は大きいですね。それにうちの軍馬は、荷馬も兼ねていますから、そういう意味ではかなり抑えています。それでもかなりの数ですからね。

 飼葉専用の馬車を作るのは、ありかもしれませんね。ゼニス、商会が持って来てくれている飼葉は、収納の箱を使っているんだったな? 専用の馬車をいくつか用意して、それを交換する方法もありかもしれないですな。

 箱の積み替えは困難ですし、箱から出した物を箱へ入れるのも労力の無駄。馬車ごと交換なら、手間も省けますね。後で検討してみましょう』

 レイリーは、飼葉に火をつけられることより、飼葉の運搬や管理の方に視点が言っているな。近付かせるつもりは無いからなのかな?

 およそ2キロメートルほど進んだところで、ピーチがいったん上に出る指示を出す。煙幕を張らずに、敵の位置を確認するつもりらしい。

 すぐに守れるように人を配置して、煙幕を吹き飛ばした。

『防衛部隊はいないようです。もうすでに視認範囲外に引いています。遊撃部隊は、こちらを視認できたからか、魔法や矢の攻撃が正確になっています』

 斥候担当から報告が入る。

 しっかりと休憩を入れてこちらを牽制してきているので、自分たちの技量を理解した攻撃だな。ここまで一貫して、時間稼ぎのための行動なのは理解できるが、ここで押さえられていないのも事実。俺たちを近付かせても問題ないと考えているのかね?

 ピーチはどういった判断を下すのだろうか?
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