ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2080話 世界は思っている以上に広かった

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「何が起きた!?」

 俺は突然吹っ飛んだ兵士の今の状況が理解できなくて、立ち上がって叫んでしまった。

 その後に兵士たちを押しのけて、シュリが前に出ていた。

 その場でシャドーをやっているのかと思うような動きをしており、何かしらと戦っているような動きを始めたのだ。こんな場所でシャドーを始める理由も良く分からないし、周りの兵士の指揮官は近付かないように指示しているような形だ。

「シュウ殿、これは本当に誰かと戦っているのではないかでござる。シャドーにしては、シュリ殿の武器が不自然に止まるでござるし、シュリ殿の盾が若干振動しているように見えるでござる」

「バカ骨! それより、本当に敵がいるとして、シュリさんと打ち合っていることに危機感を持ちなさいよ! あの人は、素手でミスリル合金の装甲を持つ、旧型の人造ゴーレムを破壊できるのに、そんな人と正面から打ち合っているのよ!」

 俺は綾乃の言葉にはっとして、慌てて移動の準備を始める。

 シュリが抑えられるような相手であれば、シュリに危険はなくとも周りに甚大な被害が出かねない。シュリの攻撃を受けても問題ないような相手であれば、兵士レベルでは太刀打ちできない。実際に、吹き飛ばされた兵士は、死んではいないが重傷を負っている。

 同僚の兵士に連れられて宿の外へ運び出され、外で待機していた妻たちによって治療されていく。死ぬことは無いが、しばらくは違和感が残るくらいには危険な状況だった。

 装備を身に着け始めると、グリエルによってそれが止められる。何するんだ? と思っていたら、

「シュリ様が全力で戦っているのであれば、あの宿は既に半壊状態になっているのではないですか。それが未だに原形をとどめているのは、シュリ様が建物に配慮している状況だと思います。それでも高レベルの人間同士の戦闘に、レベルの低い人間が近付くのは危険なので、指揮官の人間が離れるように指示しているのだと思います」

 ……そう言われれば。俺たちの全力で踏み込みをすれば、少なくともあの程度の建物であれば、床に穴が開いてもおかしくないな。強く踏み込まなくても攻撃は可能だが、それでもあのシュリが苦戦するような相手がいるとして、相手は遠慮などする必要が無いので、宿が壊れていない状況はおかしい。

 多少冷静になった俺は、どうするべきかグリエルに相談する。こういう時は、歳の甲というか俺よりも長く生きていて、街の仕事を一手に任せているので頼りになる存在なのだ。

「シュリ様が全力で動けないのであれば、全力で動いても問題ない環境を用意できればいいのではないでしょうか。確か、建物を掌握してダンジョンの一部と認識させることが可能ですよね。それをあの建物に施してはいかがでしょうか?」

 なるほど! シュリが全力で動けないのであれば、それをサポートすればいい訳だな。

 ダンジョンマスターの能力で建物をダンジョンの一部として認識させ、激的に建物の強度をあげる。もちろんダンジョンの一部になるので、自動修復もかのうだし、DPを消費することですぐに修復することも可能である。

 俺がダンジョンマスターの力を使った瞬間に、シュリの動きが一瞬止まり、その口元が少し笑っているように見えた。次の瞬間、ダンジョンの監視機能では追いきれない動きで移動していた。

 シュリの移動した先では、壁が陥没しており足元には少量の血がしたたり落ちていた。

 シュリの血かと思い少し焦ったが、シュリが怪我をするような状況が思いつかなかったので、問題は無いだろうと思い出し、今の状況を確認するために行動を開始する。

 現地にいる妻の1人であるアリスに状況説明をしてもらった。

 どうやら、ダンジョンマスターの能力であるマップ先生や監視能力で見つけることのできない相手がいたらしい。しかもその相手は、攻撃してくる直前までそこにいることが分からなかったと、シュリが言っていたと教えてくれた。

 そうか、そこまで強くない相手なら、シュリが間に入って攻撃を防げたけど、それが無かったということは見えていなかったってことか。

 と考えていたら、どうやら違うようで、奇襲を仕掛けてきた相手は認識できない状態にいたのだそうだ。戦闘中にも認識し辛くなり、見失いそうになっていたようだ。認識阻害や認識を逸らすような能力を持っているらしい。それに気を付ければ、大した相手ではなかったとのことだ。

 それでもさ、治療の終わった兵士の側で、そのセリフを言うのは止めた方がいいと思うのだが……

「ダンジョンマスターの能力を回避できていたのは、あの例のマントのおかげみたいだったようだけど、あのマントはたまたま入手して気に入ったから身に着けていただけで、そんな効果があるとは思っていなかったようね。偶然って怖いわね」

「そうでござるな。たまたまあのマントを持っていた相手がユニークスキルの持ち主で、奇襲による一撃必殺が得意な相手だったとは、奇襲された兵士が不憫でござるな」

「勇者ではないみたいだけど、転生者でもないんだな。そんな人間でもユニークスキルを持っているやつがいるんだな。俺が召喚できるようになるユニークスキルにもあるのかな」

「えっと、落ち着いていらっしゃいますが、兵士たちはシュリ様と戦っている間の相手を認識できなかったと言っていますが、大丈夫なのですか?」

「ん~、そこなんだけど、冷静になって考えてみれば、完璧な奇襲で無防備の兵士を一撃で殺しきれないような人間なら、警戒するに値しないかなって。それに、レベル差で認識がある程度向こうになることを考えれば、色々対策は考えられるしな」

 グリエルとガリアは、俺たちが落ち着いている理由を聞いて、驚いている表情をしている。

 確かに直前まで認識できなかった相手は警戒に値するけど、一度動き始めてしまえば任市議阻害の効果は一気に低下することが分かっている。動かなければ認識できなくなるらしいが、そこにいることが分かっているのであれば、取れる行動は沢山あるからな。

 日本に住んでいるある程度のオタクや妄想の得意な人間であれば、この程度の事は朝飯前のレベルで思いつくことだろう。俺にはとれる手段が沢山あるからな。

 とはいえ、どういう状況だと認識できなくなるのか、しっかりと検証してから処分することになるだろう。

「やることが増えたでござるな。シュウ殿は、難民対策をしているようでござるが、こっちのスキルはどうするでござるか?」

 バザールもスキルに興味があるようだな。

「俺は、子どもたちも向こうにいるから、バザールと綾乃に検証を任せてもいいかな? 後で情報だけ共有してくれればいいや。お前たちの実験で死ななかったら、もう一度検証として俺に見せてくれればいい。死ぬ前に出来るだけ情報を抜き取っておいてくれ」

 綾乃は邪悪な笑みを浮かべ、バザールは骨の顎をカタカタさせて笑っているようだな。この2人が組むと凶悪な感じがするよな……

 そんなことを考えていると、俺が混ざればもっと凶悪になりますよ、とグリエルに突っ込まれてしまった。
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