ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
2,063 / 2,518

第2063話 本当は大変だった

しおりを挟む
 ふむ……どうするべきか。

 水堀は、俺たちの住む場所……拠点を中心にコの字に配置される。いや、壁からも離すってことで、ロの字だったか? マップ先生を開いて水堀の形を確認する。

 うむ、やっぱりロの字が正しいな。壁との間には5メートルほどの隙間しかないが、兵士たちの野営地となる場所からは、20メートルは離れているな。もうちょっと広げようかとも考えたが、水堀をつっている理由が、リバイアサンの2匹の能力を使った監視のためだったことを思い出す。

 壁から敷地までは5メートルほどしかないので、ある程度鍛えた人間なら簡単に跳びこせてしまうが、それでいいのだろうか? 壁との間の水堀を確認しに行って、苦笑することとなる。

 俺的には、壁と水堀の間に少しくらいはスペースがあるのかと思っていたのだが、壁が水堀のそこまで届いていたのだ。まてまて、言っている意味が分からんとかそう言う話じゃないんだ! 俺は見た儘を説明しているんだってば!

 どういうことかと言えば、水堀の底から壁が生えている感じで壁側は作られているのだ。はいそこ、意味が分からないとか言わないの! そして、同じことを言うんじゃないとかツッコむんじゃありません!

 俺は心の中にいる第二、第三の自分を何故か相手にして、ツッコミを入れていた。

 水堀で本来なら石垣がある部分が壁と一体化しており、それが上まで続いているのだ。日本のお城の場合は石垣の上に塀というか壁があるものも多いのだが、全てが壁で作られていると言った感じなのだ。

 俺たちが常識外れの身体の能力を持っているからと言って、世界最強の生物である父親を倒すために鍛えている息子が主人公の漫画に出てくる、死刑囚の1人じゃあるまいし少しの取っ掛かりがあるからと言って、垂直に壁を登ること話できない。

 そう思わせるようなレベルの壁が目の前にあるのだ。とはいえ、高さが水堀の下から壁の上まで30メートルは無いので、勢いをつけて壁を走って登れば、余裕で登り切れる高さではあるな。他にも、アダマンタイトの爪でも使えば、壁に刺しながら登ることもできるけどね。

 って、何に対向しているんだ俺は!

 そもそもこの世界の壁は、魔物の対策で建てられている。俺たちの様な規格外を想定してはいないのだ。街に壁があるのは、魔物に生活の場を荒らされないためであり、身を守るための壁である。

 壁の副次効果として、多少強いくらいの盗賊であれば、侵入が難しいのが街の壁だ。土魔法使いでも壁を壊すことは出来るだろうが、今まで見向きもされなかった土属性の使い手は、自分が使えることを隠している節があった。

 使えない魔法使いだとバレれば、街の中では無能のレッテルを、荒くれ物の盗賊の中では暴力や性欲の捌け口に、冒険者たちからすればお荷物と言った感じで見られるため、使えることを隠していた感じなのだ。

 少し考えれば分かることなのに、国も盗賊も土属性の魔法使いの有用性を理解していなかったのは、かなり謎に包まれている気がする。城壁を作るのにも役に立つが、力のある人間に石を運ばせても何とかなるので、そっちが主流になったのかもな。

 魔法使いの数も少ない世界で1つの国が、土属性の魔法使いを集めても大した数ではなかったのだろう。魔力が無くなれば、一般人より少し身体能力の高い人間ってだけなら、犯罪奴隷を馬馬車のごとく働かせた方が、効率的だったのかもな。

 どうでもいい事を考えて水堀と壁を眺めていると、足元に気配を感じて視線を下げた。

 シンラがスライムに乗って、口をポカーンと開け鼻を垂らしていた……どこぞのアホガキみたいだぞ。両隣にいるプラムとシオンも、シンラと同じように口をポカーンと開けているが、鼻は垂らしていないな。

 それよりも、何でこの子たちがここにいるのだろうか? 過剰な護衛が周りにはいるのだが、この子たちがこんなところに来るとは思っていなかった。

 シンラたちは、近くにいた母親たちに抱っこされながらも、壁を見続けている。

 壁だけならディストピアの街の壁の方がすごいと思うけど、シンラたちには何か思うところがあるのだろうか? 母親たちが聞いてみるが、すごいとしか言わないので、何がどう凄いのか良く分かっていない。

 話を変えるために、何をしにきたのか聞いてみると、大きな穴ができたからお願いして見に来た! と3人声を揃えて話してくれた。シンラって、やっぱり普通にしゃべれるよな……俺が仕事から帰って来て、玄関で物申している時は、何言っているか分からんのに不思議だ。

 水堀を見て、大きな穴という君たちの感性に少し笑ってしまった。堀という言葉を知らないだろうから、この子たちからすれば凹んだ場所を全部『穴』と表現してしまうのかもな。母親たちが堀という言葉を教えているが、いまいち理解できていない顔だな。

 っと、コの字であれば一番端に、水の湧き出すダンジョンと吸収するダンジョンを造ればよかったのだが、1週ぐるっと囲ってしまった場合は、どうするのがベターなのだろうか?

 コの字だったとしても、端と端に配置すればいいというものではないが、そこらへんは理解していないシュウだったので、むしろこの形は淀みを少なくするために、考える必要ができて良かったのかもしれない。

 こういうのって流体力学とかで考えるんだっけ?

 バカな俺が必死になって学問の事を思い出そうとしたが、専門家でもない俺が本を読んだからと言って、すぐに理解できるものではない。

 流れに淀みができるのは、底の起伏や流れの側面の起伏が原因になる場合が多いんだっけ? 川に大きな石があると、水の流れが無くなる部分があったりするとかしないとか……うん、分からん。

 要は流れが無くならなければいい訳だな。

 俺は考える。1ヶ所からのみ水を出して吸収するのだから淀みが生まれる……ならば、水を出す場所を増やせばいいのではないか?

 外側の四隅と内側の四隅に水の湧き出るダンジョンを作っておけば、多分大丈夫じゃないか? 吸収する方のダンジョンは、適当に散らばされて配置する。

 水量を調整しなければならないので、何日か様子を見る必要があるな。

 水堀に人がいなくなったことを確認して、ダンジョンマスターの能力で水堀いっぱいに水を召喚する。一瞬で水堀に水が溜まった。ダンジョンも稼働させており、水量の変化は……しばらく経たんと分からんな。

 一応湧き出る量と吸収する量は同じにしてあるが、俺の予想では少しずつ水量が減っていくのではないかと予想している。

 外的要因で水は減るので、晴れが続けば水堀の水位が下がっていくだろう。雨が降れば水位が上がるので、長期的に見ていかなければいけなそうだな。

 昔、水源が近くに無いと栄えないと習ったことはあるが、今回の事で強く実感することとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

転生したら倉庫キャラ♀でした。

ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。 ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。 どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。 死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。   「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」 鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。 加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。 ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。 道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。 今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。

処理中です...