ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2043話 企みは事前に阻止される

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 いつも通りに庁舎へ向かう。グリエルたちを強制的に休みにさせていなければ、午後はお茶の飲み比べをしていただろうが、仕事が沢山ある今、そんなことをしている暇はないだろう。落ち着いたときにやりたいと思っているからな。

 昨日に引き続き、半数ほどの妻たちが仕事を手伝ってくれている。この世界の基準で考えれば、妻たちの知識はそこら辺の街の文官を軽く凌駕する。だからといって、文官の仕事がすぐに務まるかと言えば、普通はそうではないはずだ。

 では、何故問題なく仕事をできているのかと言えば、妻たちは俺の知らない所で、ブラウニーたちやグリエルたちから、俺に何かがあったときのために、仕事を代行できるように教えてもらっていたらしい。

 昨日気付いていても良かったのだが、予想していたより仕事の量が多かったことや、思っていた以上に余裕がなくなっていたため、気付くことができなかった。

 昨日は数でごり押ししていたと思っていた仕事も気付いてみると、しっかりと仕事を教えてもらっていたからだろうか、2~3人で1組を作って仕事をしているのに、仕事の効率が高くなっている事に驚くばかりだ。

 俺たちが今している仕事は、複数で相談して行うより、1人でこなした方がいいタイプの仕事が多いのだ。それなのに仕事の効率がいいのだから、驚かずにはいられない。

 1人でもできる仕事を、あえて複数人で行う。1つの仕事を2~3人バラバラに行って、後で答え合わせのように持ち寄ってから話し合いでもいいのに、あえて初めから相談しながら仕事を進めている。

 効率が悪いように思えたので、一息ついたときに聞いてみた。

「仕事効率も大切かもしれませんが、複数人でやってもしっかりと仕事が終わるのであれば、意見の知り合わせや意思統一のためにも、考えた内容を討論しながら進めた方が、後々のためになると思うので」

 と、今の事だけではなく、これから先の事も考えて仕事をしているようだ。

 しっかりと、討論の内容も含めて記録として残っているので、後で他の妻たちにも意見を貰い更に討論をするそうだ。それなら自分の考えをまとめて、後でみんなで持ち寄るのでもいいのでは? とも思ったが、妻たちからすると違うらしい。

 最初の段階で話し合うことで、グループ内で先入観を無くすことが目的の1つなんだとさ。他にもマニュアル化ではないが、タイプごとに分類して、どの部分に注目する必要があるのかを明確にする目的もあるのだとか。

 俺が確認や決裁する書類は、俺の前に必ず書いた人以外にも2人以上の人間が確認して回ってくるので、読まなくても問題ない書類も多い。それでも人間なので、エラーは起こってしまう。

 地球でも度々問題になっていたが、ニューマンエラーは何をどう頑張っても、100パーセント無くすことは出来ない。企業では、限りなくゼロにするための方法を独自に構築しているものだ。

 その中でも多く取り入れられているのが、ダブルチェック。複数で確認することで、ヒューマンエラー……間違いを減らす方法だ。これは書類関係や、物品関係に多い確認方法だろう。

 それ以外にも、機械化しても必ず人間の手が必要になる場所が存在する。その部分に対しては、マニュアル化をして順序通りに手順を進めることで、ミスを少なくする方法もあるだろう。

 工場関係は疎くて良く分からないが、決められた項目をしっかりとチェックするというのは、機械の整備だったり、複雑な機械の起動に必要な方法だろう。

 そう言ったものを減らすためのマニュアル化みたいなことを行っているらしい。

 完成したら、グリエルたちやその部下、各街の上層部などと協力して、問題がないかを探り出すようだ。

 とはいえ、マニュアル化することで生まれてしまうヒューマンエラーもあるので、グリエルたちや領主代行クラスの立場になる人間には、それ相応の判断力身に着けなければなれないということだな。

 俺は……数字は強いけど、他の事になるとめっぽう弱いから、出来る限り代行の人たちは能力が高い人を置いてほしい。

 いや、無様を晒す前に、後釜を準備すればいいんじゃないか? 周りが優秀なら、トップが確認したという体があれば問題ないはずだ。それなら、理由も分かっていないのに、空気を読むのが上手いシンラに領主の座を譲っても問題な……

「問題だらけです! シュウ様は、そんなに領主の仕事が嫌なのですか? 人って偉くなって、人の上に立ちたいみたいな願望があるものだと思うのですが、シュウ様は違うのですか?」

 俺には、そう言った願望は無い。多分満ち足りた生活をしているので、そう思わないのかもしれない。支配願望があるわけでも、上に立ちたいわけでもしたいわけじゃない。

 可能なら誰かにこの立場を譲りたいと思っているくらいだ。DPがありえない速度で増えていくので、せこせこ働く気にもなれないのだ。ここで働いているのは、仕事をしないでミーシャたちにお父さんはニートなの? とか言われたら、立ち直れなくなりそうだからな。

「だからといって、赤子のシンちゃんに領主を引き継がせようなどと、バカなことを考えるのは止めてください。小説であるように、ナンバー2の人間が国を支配するために、幼い王の子を形だけの王として、裏から操るわけでもないのに、引き継がせようとしないでください」

「裏から操るなら、シンラに引き継がせてもいいのか?」

 ライラは呆れた顔で、ため息を吐いた後、

「裏から操るのであれば、仕事の量が激増するのですが、それでもいいのですか? おそらくですが、グリエルさんたちが行っている仕事を、シュウ様が全部行うことになりますよ?」

「俺は引退、シンラが形だけの王、グリエルとガリアが裏から操るって話じゃないのか?」

「なんでそう言う発想になるんですか? あの御二方は、領主……シュウ様の代わりをする気はないんですよ。シンちゃんに王を引き継がせようとすれば、全力で阻止するでしょうね。小説のような話であれば、歓迎する立場の人たちが、反対に回るのですから断行するのであれば、シュウ様に仕事を押し付けるでしょうね」

 それを聞いて……シンラに仕事を引き継ぐのは諦めることにした。

「手が止まってしまいましたね。そろそろ仕事へ戻りましょうか」
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