ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2021話 ネルの異変と国王の憂鬱

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 神授のスキルをゲットしたネルは、固まってしまった。

 すぐに声をかけ反応がないため鑑定をするが、精神攻撃などを受けた様子は無い。呼吸もしているし、手足は微かに動いており、瞬きもしている。外からの言葉に反応がない状態だ。20秒ほどすると、ブツブツと話し出した。

 回復魔法をかけ、バザールにシルクちゃんとツィード君を呼ぶようにお願いする。発見したら連絡をするように伝え、連絡が来ると同時にゲートを開通させる。

 まだ反応のないネルを、2人に診てもらう。

「ツィード君、私の診察では、精神系の何かを受けているわけではなさそうだけど、そちらの診察はどう?」

「僕も同じだね。感情の揺らぎがあって、言葉を発している感じからすると、情報過多で混乱しているのが一番近いかもしれないかな」

「そうですね。感情の揺らぎは分かりませんが、混乱しているのは間違いなさそうです。精神に異常をきたすようなことは、現段階ではないと思います」

「情報過多で異常をきたすなら、既に精神が壊れているはずだから、これからも無いと思うよ」

 光と闇の精霊から、現状は問題ないとお墨付きをもらった。情報過多ということは、神授のスキルを得たことによるものだろう。だけど、今までにこんなことになったことは無かったのに、なぜ今回だけ……

 さすがにこのままにしておくわけにはいかないので、指令室にある一番いい椅子に抱きかかえて座らせる。

 5分ほどすると、頭を振り目をぱちぱちと瞬きさせる。椅子に座っていることに驚いているが、すぐに俺が座らせてくれたと判断したようだ。

 飲み物を渡し、少し落ち着いたところで、何が起こっていたのかを説明してもらった。

 どうやら、神授のスキルを得たことで、ネルの知識の中にある製薬関係が、スキルの検索機能に反応したようで、洪水のように情報が頭に流れ込んできたそうだ。頭痛もなく問題も無かったのだが、一気に叩き込まれた情報が多かったため、処理するためにそっちにかかりっきりになってしまっていたようだ。

 外部の情報を遮断して、叩き込まれた情報を整理しないといけないほど、情報量が多かったみたいだ。言語系のスキルを覚える時に似ているかもしれないな。

 ネルの様子を観察するが、本人が言っている通り、もう大丈夫そうだな。しばらく無理をしないように言いつけて家に帰す。家で働いているブラウニーたちにも、様子を見るようにお願いしておく。

「シルクちゃん、ツィード君、ありがとね。念のために、すぐに呼びに行ける場所にいてね。あと、ツィード君」

「ふぁい?」

 帰ろうとしていたツィード君を呼び止めると、少しバカっぽい返事がかえってきた。

「あんまり悪戯ばっかりしないようにね。アクアとメイが怒ってたぞ。どこまですれば、あんなに怒るかは分からないけど、素直に謝っておかないと……本当に大変なことになるから、気を付けるんだぞ」

 度々、四大精霊の2人であるアクアとメイに、ツィード君の悪戯について相談というか、ぶち切れ案件みたいな形で訴えがあるのだ。定期的に起こることなので放置気味なのだが、ちょうどいいタイミングなので釘を刺しておこう。

 軽い気持ちで注意すると、少し暗めの肌の色が真っ青になるのが分かるほどに、色が変わってしまった。精霊の血も人間と一緒で赤いのかね? 顔色が悪いなんてもんじゃないぞ……

 2人に相談されたこと以外にも、色々悪さをしているんだろうな。

「あんまりひどいと、シルキーたちも出てくるから、本当に気をつけないとヤバいからな」

 その場でがくがく震え始めたが、自業自得なのでシルクちゃんも放置して、帰る準備をしている。

 俺たちがいないのに、ツィード君をこの部屋に残しておくのは嫌な予感がするので、首根っこを掴んで連れて行き、ダンジョン農園の入り口に捨てておく。

 予想外の事態に驚いたが、それ以外にはトラブルもなく終わってよかった。

 勇者は薬で眠らされていたので、死ぬ間際の苦しみを味わうことなく死ねてラッキーだろう。眠らされる前に、暗部の人間に少し拷問をされているので、ラッキーとは言い難いかもしれないが……

 無理やり加担させられたとはいえ、俺の街の住人を殺したんだから、当然の報いである。

 ダンジョン農園を出て家に入ろうとしたところで、タブレットに連絡が入る。誰かと思ったら、グリエルからだった。慌てて通信を開くと、

『シュウ様、お休みの所すいません。国王から連絡が入ったのですが、どうなさいますか?』

「ん? もう連絡が来たのか? 少し早すぎな気もするけど……なんだろな? こっちの部屋で受けるから、通信を回しておいてくれ。2分もあれば繋げられるって、国王に言っておいてくれ」

『了解しました」

 少し急ぎ気味になり、趣味部屋へ向かう。そこにある通信機を立ち上げて、国王の通信を表示する。

『おや、予想より早かったの。侯爵の件だが、しらを切られたが迷惑な奴だったので、現当主はその場で処刑、今回関与していた息子は捕らえて尋問中。事態が判明したら、国家反逆罪で処刑予定だ。家族も連帯責任で全員処刑か国外追放になる。

 後継者は、あの一族の血筋と言えば血筋なのだが、こちら側に属する扱いやすい人間を指名することが決まっている。そちらからの要望が無ければ、この決定通りにするのだが、何か希望はあるか?』

「国王のあんたに属するね。権力者なのは変わらんよな……俺から見れば、無実の罪で国家反逆罪にしようとしたあんたの父親も、今回の事件の首謀者もどっちも変わらないんだけどな。権力に物を言わせて、自分の思い通りにしているって部分では、同じだからな」

『……その件は、謝罪したであろう。だが分かってほしい。自分の国に、制御下に無い強力な戦闘集団が現れれば、注目しないわけにはいかないであろう。父上の取った行動は、短絡的で自分勝手だった。あんたたちを取り込むために、少なくない貴重な戦力を消耗したしな。

 自分の手ごまにできないのであれば、殺そうとするとは思わなかったのだ。何かしらで懐柔すると思って放置していたのが間違いだった。あの時に助言をしていればと、いつも思っているよ』

「ダマした時点で懐柔されるつもりは無かったから、助言は意味なかったんじゃないかな。嘘の依頼で出先で問答無用についてこいだからな。あの時はこちらを殺すつもりは無かったとしても、ダマしていたことには変わらんから、結果は一緒だったと思うぞ」

『助言するなら、目を付けた段階でするべきだったということか。とにかくだ、これで邪魔だった侯爵が消えたので、ちょっかいをかける奴は、限りなく少なくなったはずだ』

「まだ、こっちにちょっかいをかけてくる奴がいるのか? 本当に迷惑だな。手を出してくれば遠慮はしないから、そこらへんは周知させておいてくれよな。街を壊すようなことはしないが、手を出してきた奴らには報復するからな」

『理解している。勅命を出しているが、勝手に動き出してしまえば、こちらが後手に回ってしまうのは理解してほしい』

「報復に対して何も言ってこないなら、問題は無いさ。ただ、切り捨てれば問題ないからと言って、使い捨ての駒のようにけしかけるんだったら……覚悟しておけよな?」

『そんなことするわけが無かろう。大臣たちにも言い含めているから、そちらに手を出すのは王家を舐めているか、終わった後に何とでもなると考えているアホ共だけだからな。ふう……処刑が完了したら、詳細をそちらに送るから確認してくれ。これ以上連絡が無い事を祈っておくよ』

 国王はそう言って通信をオフにした。
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