ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第2014話 ネルの覚悟とシンラの奇行

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 子どもたちは、ケットシーたちに連れられて、ウッドデッキへ出ていく。朝一番の水やりをさせるためだろう。俺たちの話を聞かせないために、気をきかせてくれたようだ。

 健司から上がってきた報告書を全員と共有して、昨日の事をざっと説明する。話し終わったところで、

「私たちは、この能力をキリエに引き継いでもらえたらと思っているんだけど、みんなはどうかな?」

 この勇者の神授のスキルは、俺の陣営に無ければ有用だっただろう。鑑定スキルなどで看破できない効果があるので、有用ではあるのだが……俺たちだと、使う必要がないんだよね。どうしても殺したい奴がいるなら、暗殺した方が早いし確実だからな。

 とはいえ、こちらの陣営で有用活用できなくても、神サイドが神授のスキルを回収して、勇者召喚を必要としない形で送り込まれた相手が、このスキルを持っていたらかなり厄介だから回収しておきたいのだ。

 話し合いでキリエに決まりかけたのだが、キリエは少し悩んでいるようだ。

「あの、出来れば私ではなく、他に適任者がいると思います。人を殺させるので、本人が拒否するなら私が引き継ぎますが、確認を取ってもいいですか?」

 キリエに許可を出す。誰が適任者なんだろうな?

 全員で見守っていると、キリエが歩き出しネルの前で止まった。

「ネル。あのスキルはあなたが引き継いだ方がいいと、私は思っています。ネルが嫌でなければ、私の代わりに引き継いでもらいたいと思うのですが、どうですか?」

 ネルは、自分の所に来るとは思っていなかったので、ポカーンとした顔をしている。キリエと同じで、回復スキル高いネルは、効果をあげるために薬学や錬金術も高水準で身に着けている。条件としては、キリエと同じでマッチしているな。

 年齢順ということなのか、すっかりとネルの事は頭から落ちており、キリエが言うまで誰も気付いていなかった。

「えっ!? 私ですか? 私より、キリエさんの方が良くないですか? 私よりキリエさんの方が、スキルも知識も上じゃないですか、私が引き継ぐメリットは無いのでは?」

「だからかな。薬学や錬金術を中心に勉強した私の方が、マルチに色々育てているネルの方が適任だと思うの。嫌な言い方になってしまうけど、私の方が知識は上だと思う。作った物に付与できるのは魅力的ですが、色々検索できる機能は、ネルにとって有用なのではないでしょうか?」

 ……!! 付与の方に目が行っていたが、薬関係なら知識を引き出すことができるんだった! キリエは回復関係や治療に特化しているが、ネルは補助的に使っている。その補助の効果を上げるのに、今回の神授のスキルは持って来いだな。

 付与に関しては、必要になったら頼むわけで、ぶっちゃけて言えば誰が持っていても問題はないのだ。

 しばらく悩んでいたネルは、自分で引き継ぐことを決心する。

 準備が整ったら、負担にならないようにスキルを引き継げるよう、環境を整えますかね。

 話し合いが終わり、いつもの時間の流れに戻った。そろそろ庁舎へ向かおうと席を立つと、ウッドデッキから食堂へ子どもたちが突撃してきた。

 どうやら芽が出た後に、成長した様子が見られたので、興奮しているようだな。でも、その中で育たないプランターがあるのは何でなのか、首を傾げて聞いてきた。

 ん~、これはドリアードに任せるつもりだから、俺が口を出すわけには……丸投げすればいいじゃんか!

「どうしてか気になるなら、午後の世話の時にでもドリアードのみんなに聞いてみたらどうかな? あの人たちなら、俺より的確に答えてくれるから、勉強にもなると思うぞ」

 身代わりという名のパスを、ドリアードたちに出しておく。その内説明すると言っていたし、多分大丈夫だろう。

 今日のお供は、アリスだけっぽいな。ったく、何でチビ神と名前が一緒なんだろうな? チビ神が解明すればいいのに……

『ちょっとアンタ! 何言っちゃってくれてますの! こんな可愛い女神と同じ名前なんて、喜ぶべきことじゃないかしら? それなのに、女神である私に改名白ですって! バカも休み休み言いなさいよね!』

 久々な感じがするな……休んだらバカなこと言っていいのか? そもそも、今回はバカなことを言っているつもりは無いし、マジでお前には改名してもらいたいと思っているよ。妻の名前を使って、女神を名乗るんじゃねえよ!

『順番が違うんだからね! 私の方が先に名乗ってるの! あんたの妻の方でしょうが! 嫌になっちゃ……えっと、そのどす黒い何かを飛ばしてくるのは、止めていただけないでしょうか?』

 おや? 殺気を飛ばしていたみたいだな。どういう原理か分からないけど、神界にいるチビ神に影響を与えられるんだよな……謎だ。

『マジで止めてって。周りにいる子たちが気絶しちゃったじゃない……』

 そういえば、チビ神の周りにも影響があるんだったっけ。周りの神様方申し訳ない。文句はチビ神にお願いします。何か美味しいモノ出してくれると思いますんで! でさ、何でお前さんは倒れないんだ?

『何で私が……あんたの所から、貢物がいっぱい来ているからいいけどさ……私が気絶しないのは、存在値が高いからよ。あなたから送られてくるもののおかげで、気絶しないという訳ね』

 そうか、残念だ。つか、用事も無いのに出てくんなし!

『あんたが変な事思わなければ、私だって突っ込まなかったわよ!』

 しばらく、バカにしあって、試合は引き分けに終わる。勝ち負けのある勝負じゃないんだけど、何となく行ってみたかったんだよ。

 妻たちも、急に俺が黙り込むのはなれている様子で、お供のアリスは華麗にスルーをしてくれていた。同行者の3匹のネコや聖獣たちを撫でながら、道行く人たちに挨拶をしている。

 チビ神と話して疲れたので、大きいモフモフであるストームキャットのランの首に抱き着く。

「ん?」

 思わず声が出てしまった。首の背中側に何やら塊がある。何かと思ってまさぐってみると……シンラだった。

 いつの間にかランの首元に抱き着いて、モフモフに隠れていたようだ。そう言えば、ちょっと離れた位置にケットシーが珍しくいるなと思っていたら、シンラのお目付け役のケットシーだったのか。

 アリスも気付いていなかったようで、慌てて家に連絡を入れた。

 プラムとシオンがガン泣きしており、その対応でシンラがいないことに気付くのが遅れてしまったようだ。シンラの近くで機嫌のいい2人は、ほとんど泣くことがない。それが突然泣き出したので、残っていた妻たちが驚いてしまい、あたふたしている時に、シンラがいないことに気付いたのだとか。

 プラムたちが心配なので、いったん引き返すことにした。

 シンラよ、何で裏切ったな! みたいな顔をしてこっちを見るのだ? お前は、黙って出てきたんだから、少しは反省しなさい。

 玄関ではガン泣きしているプラムたちが待っており、シンラを見つけた瞬間に今までにない速度で俺に突撃してきた。俺が連れてったわけじゃないのに……理不尽に攻撃されるが、気付かなかった俺も悪かった。甘んじて責めは受けよう。
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