ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,991 / 2,518

第1991話 ドワーフの習性なのだろうか?

しおりを挟む
「風呂に入っただけで、どれだけ疲れてんだよ……爺様方よう」

「仕方ないじゃろ。ブラウニーたちの指導で毎日入ってはいるが、あそこまでキレイに体を洗うなんてことはしないんだからのう」

 ……? 俺には爺さんたちが何を言っているのか良く分からなかった。

 ブラウニーの情報によると、この爺さんたちは、キレイに体を洗う=シャワーで体を流す、風呂に浸かるだけ……という認識らしい。さすがにそれは無い。自宅のお風呂ならどうぞご勝手にというところだが、爺さんたちの入っている風呂は、工房エリアの銭湯のはずだ。

 ブラウニーに確認を取ると、その通りと頷いている。何度言っても治らないので、お風呂については最悪それでもいいと、ブラウニーたちが諦めているくらい酷いそうだ。

 家事好きのブラウニーたちも、無駄に汚すドワーフたちのお風呂の後片付けは嫌なようで、工房の人間に持ち回りで清掃をさせているのだとか。

 自由意志で掃除をしようものなら、汚れたままになってしまうので、掃除するときはブラウニーたちの監視付きなんだってさ。自分たちではしないけど、きちんとキレイにするように指導するあたり、ブラウニーたちらしい行動と言えるな。

 監視してキレイにさせようとするのには、しっかりとした理由もあったのだ。簡単な理由だった。

 掃除するのが大変な理由は、ドワーフたちが清潔にしていないからだ。そこを排除すれば、掃除は簡単になると考えたブラウニーたちが、ドワーフたちに掃除をする大変さを伝え、清潔にする意義を教え込んだのだそうだ。

 だけど、結果は……掃除する工房の奴らが苦労するだけ、月に2~3回我慢すればいいんだからと言って、ドワーフたち全員がシャワーと風呂に浸かるだけでいいと、判断してしまったのだ。

 その話を聞いて、俺はありもしない頭の痛みを感じて、こめかみを押さえてしまったのだ。

 工房エリアでは、ドワーフ以外も働いているが、その者たちはこのエリア以外で銭湯を利用しているらしい。この人たちはお風呂を汚さないので、掃除するメンバーには入っていない。文句を言っていたドワーフもいたが、左遷のせが言葉になる前に土下座したようだ。

 ドワーフたちにとって左遷とは、酒が飲めなくなるうえに物作りは禁止で、書類作業(ドワーフにとっての重労働)が待っているので、最終手段として用いられる兵器級の言葉である。

 2ヶ月ほど左遷されていたドワーフが戻ってきた時には、体が半分くらいに萎んでいた……という逸話が語り継がれており、全ドワーフが震撼するほどの苦行でもあるのだそうだ。

 俺は逸話の元になった人物を知っているから、苦笑いしかできないが……帰ってきた時は、本当に別人だったからな。食事はとっていたそうなのだが、見る見るうちに痩せこけていったとか言ってたっけな?

 ドワーフの体を動かしているエネルギーは、アルコールなのではないか? と疑った事件でもあったな。

 そんなドワーフの爺さんたちが疲れている理由は、スライムたちの指導により、体を垢すりでキレイにさせられていたからだ。

 スライムたちは、俺の健康状態などは大して気にしないのだが、俺の子どもたちに対するモノとなると、苛烈極まる対処をするのだ。

 その対処も、常識的なので苛烈と言われると首を傾げるだろうが、その常識の範囲内に収まらないドワーフたちは……体中に痣を作っている。この痣は、スライムたちの触手による鞭攻撃の痕だ。スライムたちに合格を貰えなければ、お酒も飲めないので仕方がないと体を洗うのが老ドワーフなのだ。

 初めから丁寧に洗えばいいのに、洗っているふりをするからスライムたちの触手鞭をくらうはめになるのにな……学習能力がないのだろうか?

 そうやって完成したのが、ちょっと小奇麗になったドワーフの爺さんたちである。

 ブラウニーたちの準備していた、食事と酒に走り出しそうになったので、全員に拳骨を落としている。

「順番が違うよな? 俺に教えてからじゃないと、酒は飲ませないし、もしごねるようなら……ゴーストタウンの領主の下に配属するぞ?」

 それを聞いたドワーフの爺様方は、体が萎んだと錯覚するように身を縮こまらせ、土下座をしてきた。

 文官で考えれば、領主の下となると……かなりの出世なのだが、ドワーフたちにすれば、領主は鍛冶を自由にしているのに、自分だけ重労働、お酒も無し……絶望と言える環境なのだとか。人とドワーフってここまで感覚が違うんだな。

 ウッドデッキを作りたいからアドバイスが欲しいと相談すると、ずんぐりむっくりなドワーフたちが、ミーシャたちみたいに頭を突き合わせて相談を始めた。爺さんがやっても可愛くないぞ!

「ウッドデッキ自体は大して難しいモノではない。しっかりと土台を作って、基礎をしっかり作れば板を打ち付けるだけだ。本来なら、掘って土台が沈まないようにして、土台を作る手順を踏むのだが……お前さんなら、魔法で土台を作ることができるじゃろ? 指示を出すから、やってみせい」

 そう言って、ドワーフの爺さんたちは散開して、ウッドデッキの範囲を考えた場所に立つ。

「わしらの内側を魔法で石にするなり、クリエイトゴーレムで固定するなりしてくれ」

 少し考えて、家の土台のコンクリート造りをイメージして、掘り込む感じで固める。

「これじゃと、面倒じゃないか? ここに砂利でも敷き詰めるのかのう?」

「そそ、ウッドデッキの下は、白い小石で埋めたいと思ったから、こんな感じにしてみた」

「……お主がしたいというのだから、すればいいじゃろう。これだと水はけが悪いから、どこかに外へ流れる穴を作った方がいいぞ。後は、石を敷き詰める前に、このくらいの高さまでの石柱を立てた方が安定するじゃろうな」

 砂利の上に土台になる石を置いても、振動とかで沈んでしまう可能性が高いから、固めたそこから石柱を立てた方がいいってことか。なるほど!

 ドワーフの爺様たちの指示に従って、土台と基礎をサクサクと作っていく。スライムたちも指示に従って動いてくれているので、2時間もしないうちに基礎まで完成した。後は板を張り付ける作業だな。

 切って塗装もしようかと考えたのだが、確かテレビで見た感じ、かなり時間がかかるとか言ってた気がする。手で塗るのにも時間はかかるし、乾かすのにも時間がかかるんだったな……色だけを考えて、全部召喚してしまおう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ
ファンタジー
 魔導師のヴァージニアは転移魔法に失敗して見知らぬ島に来てしまった。  地図にも載っていないその島には何やら怪しげな遺跡がポツンと建っていた。ヴァージニアはただでさえ転移魔法の失敗で落ち込んでいるのに、うっかりその遺跡に閉じ込められてしまう。彼女が出口を探すために仕方なく遺跡の奥に進んで行くと、なんとそこには一人の幼い少年がいた。何故こんな所に少年が? 彼は一体何者なのだろうか?  ヴァージニアは少年の正体が世界を揺るがす出来事に発展するとは露程も思っていなかったのだった……。 ※台詞が多めです。現在(2021年11月)投稿している辺りだと地の文が増えてきています。 ※最終話の後に登場人物紹介がありますので、少しのネタバレならOKという方はどうぞご覧下さい。 ネタバレ ※ヴァージニア(主人公)が抱く疑問は地竜とキャサリンが登場すると解けていきます。(伏線回収) さらにネタバレ ※何度もループしている世界の話ですが、主人公達は前の世界の記憶を持っていません。しかし違和感などは覚えています。(あんまりループ要素はないです) さらにさらにネタバレ? ※少年の正体は早い段階で出てるじゃないかと思っている方……、それじゃないんです。別にあるんです。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...