ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1961話 気が抜けている

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 昼食を食べ終わり、食休みをした後に外の確認にいくが、スコールのような雨は止んでいなかった。台風が直撃して、停滞してもこんなに降ることは無いと思う。そんな雨が降り続いている。

 地面の確認をしに一時的に外に出ただけで、シャワーを浴びたようにずぶ濡れになった。

「どうだったでござるか?」

「聞かなくても、お前は状況を分かってるだろ? これだけ雨が降っているのに、水溜まりのようなところはできてなかったな。どうなっているんだかな」

「いくら水を吸いやすい土壌だったとしても、流石にこれはおかしいでござるな。半日はこの勢いで降っているでござるのに、水溜まりがほとんどないでござる」

 そうなのだ。これだけ降れば、水溜まりができないのはおかしい。神共の遊戯盤の一つと考えれば、この状態でもおかしくないのだが、常識で考えてしまうので頭が追い付かない。

 水溜まりができない理由を考えるのは放棄して、俺は午後の予定をたてることにした。

 食事前に汗を流したのだが、雨でずぶ濡れになった俺は、もう一度シャワーをかるく浴びた。大気汚染がほとんどない雨であれば、汚いわけではないだろうが、気持ちの問題で濡れていると不快なので浴びたのだ。

 この世界の事を考えても元の世界に戻るので、正直時間の無駄だから、何度も考えそうになる頭を振って、今しなければならないことを考えていく。

 優先順位の一番は、50人殺して元の世界に帰ることだ。二番なんてないことにすぐに気付いた。この世界ではすることが無いので、時間が余ってしまうのは仕方がないのかもしれない。

 ライガがいなければ、俺は自分で食事をゲットするために、食べれる山菜やキノコ類、動物を探しに行かなければならないのだ。それを考えれば、かなり時間に余裕が出来ているはずだ。食事にも困らないしな。

 特に動物の解体は、大仕事だと聞いている。魔物であればドロップ品として各部位の肉を落とすが、普通の動物は自力で解体しないといけないのだ。自分で一頭のシカを捌こうというのであれば、おそらく一日がかりになると思う。

 シカを例にあげると、死んだ後に体が熱を持ち肉が焼けてしまうので、解体前に血を抜いてしっかりと冷やす必要があると聞いた覚えがある。

 知識のないままに解体すれば、まともな食事にはありつけないだろう。それこそ、食事ではなく餌とでも呼ぶべきだろうか? ただの栄養補給とわりきって食べることになるだろう。内臓全般も食べれるのだが、適切な処理方法が分からなければ、食中毒になるだろう。

 そう考えると、ブラウニーたちって本当に凄い奴らなんだな……帰ったら何かお願いがないか聞いてみよう。

 午後もライガとの模擬試合で体を動かそう。今度は武器を使った試合だ。武器と言っても、そこら辺の木の枝から作った木刀だ。バザールのクリエイトゴーレムで、木の密度を限界まで上げて、形を整えた逸品なので、下手な鉄製の武器より頑丈だ。

 金属ほど重いわけではないが、木の密度が高くなっているので、見た目の3~4倍は重く感じる。

 木刀の重心は……さすがに文句をつけるわけにはいかないので、自分の体の動きで調整しよう。

 10分ほど、型や素振りをしてズレを調整していく。これだけで調整できるわけもないが、しないよりはましなので、真剣に行う。

「ライガ、お待たせ。バザールが強化した木刀と言っても、ライガの体に傷をつけられるほど頑丈ではないから、少しルールを変えよう。ダメージの有無にかかわらず、クリーンヒットと判断できる攻撃が当たったら、負けにしよう」

 間合いの広い俺の方が有利に見えるが、刀の届く位置ということは、1歩踏み込めば無手の間合いになる。一概に有利とはいえない。刀の間合いの内側に入り込まれたら、俺の攻撃はクリーンヒットと判断できないだろう。

 反対に手のライガは、ガード無しに攻撃を受ければクリーンヒットの判定になる。後ろに飛んでダメージを減らしたところで、クリーンヒットには変わりがないので判定負けだ。

 バザールが開始の合図を告げる。

 午前中の無手同士の時は、ライガから攻めてくるパターンがほとんどだったが、間合いの長い今回の先手は俺がもらう。

 刀術の究極技……無拍子による袈裟切り。予備動作が分からないので、防ぎにくく躱しにくい攻撃だ。

 集中してたこともあり、60パーセント以上の力を使っての、無拍子による袈裟切り。戦いの中で使えるのはまれだが、そのわずかな確率を今引いたのだ。

 だけど、俺の考えは甘かった。順々にギアをあげていこうと考えていた俺に対して、ライガは対峙した時点ですでにトップギアに入っていたのだ。

 その状態のライガに、俺の6割程度の力で攻撃が当てられるわけがなかった。

 ライガは驚いた表情をしたが、一瞬で立て直し、木刀の腹に左手の甲を当て攻撃を逸らして、無防備になった鳩尾に拳が付きつけられる。

 午前中は振り抜いていたのに、今回は完璧なまでに隙をついているので、寸止めをされたのだった。

 手加減してでも打ち取れるということを、無言で伝えてきたのだ。午前中の8回の負けより、この1回の負けの方が悔しかった。

「何してるでござるか。いい一撃だと思うでござるが、油断しすぎでござるよ。武器を持ったからと言って、手を抜きすぎじゃないでござるか? これなら無手での訓練の方が、ためになるでござるよ」

「油断をしてたわけじゃない。でも、手を抜いていたのはわしかだ……ライガ、付き合ってくれているのにすまない。俺の考えが間違っていた。木刀に体を慣れさせるために、順々にギアをあげるつもりだったのが良くなかった。次は、最初から全力で行く」

 油断はしてなかったよ。でも、手を抜いていたのは事実だ。謝るところは謝って、次の試合をお願いする。

 自分の意思を押し付けて深く潜ると、チビ神の言うところの魔王化が進んでしまう可能性があるので、自分の力でだせる精一杯をライガにぶつけよう。

 もし振り抜いたとしても、木刀が壊れるだけで、ライガの体は平気なはずだ。痣くらいはできるかもしれないけどな。

 再び向かい合い、戦闘を意識して、ギアをトップまで引き上げた。
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