ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,852 / 2,518

第1852話 綾乃無双

しおりを挟む
 王国の名前を聞いた覚えがあるが、まったく思い出せない王国の王都の門が吹っ飛んだ。器用にハンマーを振るのではなく、重さを門に伝えるだけのスイングで、門を吹き飛ばしたライガは……門の近くの詰め所の様な場所へ飛び込んでいく。

 門を吹き飛ばしたのはカメラからでも見えるけど、詰め所みたいなところに飛び込んだのは、マップ先生の光点の様子で判断している。あまりにも動きが速くて、人造ゴーレムもS級スケルトンも、その姿を確認できていなかったのだ。カメラの能力の限界を超えた動きなのかもな。

 追いかけた人造ゴーレムが、ライガの再度の通告をひろった。詰所の中でももう一度通告を行っているようだ。邪魔をしないなら武器を置き、広場に集まるように……みたいなことを言っている。

 状況は理解できていないだろうが、街を攻められて現状敵が目の前にいるのだ。戦わないと言う選択肢を取る兵士は、ごくわずかのようだ。むしろ、この状態で戦わない兵士は兵士として失格だと思うが、戦力差を理解して武装解除したのであれば、賢い選択だと思う。

 詰め所の中の兵士が、次々に魔改造されたスタンバトンで気絶させられていく。今回戦闘に使われることは知っていたので、状態異常も光点で把握できるように設定しておいたのだ。気絶は光点が赤くなるようにしてあるのだが、その赤の光点がゴリゴリと増えていく。

 兵士以外にも冒険者や傭兵が行く手を阻んでいるが、敵にならずすぐに気絶させられ拘束されている。拘束に使われているのは、クリエイトゴーレムで強化された手錠なので、向こうにいる人間で綾乃以外は鍵で開ける必要がある物だ。

 綾乃は無駄に待機していたわけではなく、かなりの数の人間を気絶させ縛る必要があると考えていたようで、待機時間中ずっとクリエイトゴーレムで手錠を強化してたのだ。

 出発前に聞いてみたが、1万個あたりから数えるのを止めたって言ってたな。むしろ良く、1万個まで数えたもんだ。

 綾乃は自分に戦闘センスが無いことを理解しているから、自分から前に出るようなことはあまりしない。今回も前線まで来ているが、お目付け役のブラウニーに頼んでダンジョンを作成し、その中から指揮をとっている。

 その中で、今回の最終兵器と言っていいのか……綾乃専用機が調整されている。以前乗り込むタイプの強化外骨格を作ったときは、前後左右上下に激しく揺れるため、人が乗り込むのは不可能だと判断していた。だけど綾乃は、それを克服してしまったのだ。

 克服した方法は分かりやすく、乗り込んで戦うのには向かないと言うなら、コントローラーでゲームのように操れるようにすればいいじゃん! という発想でクリエイトゴーレムを使い機体を作成して、離れた場所にコックピットを作り、そこからゲームのように操るシステムを構築したのだ。

 このシステムは、魔核が魔核へ情報を書き込む能力を流用して、コックピットから受信用魔核へ操縦情報を送り、受信用魔核が行動制御用の魔核に情報を流すことで、動かせるようになったとか言っていた。

 俺やバザールだと、生身というか実際に戦った方が強いのだが、綾乃はこの方法で戦闘訓練用奴隷のシングル冒険者3人を、一方的にボコボコにしていたな。

 どうしたらコントローラーを使ったコックピットから操縦して、あの動きを再現できるのか不明だが、戦闘センスの皆無な綾乃でも、ゲーム感覚にすることによって戦うことができてしまうのだ。

 綾乃の操る機体の魔核がどうなっているか理解できないが、コントローラーのボタンの組み合わせや、コックピットの足元にあるペダルやスイッチなどを組み合わせることで、細かい動きを再現しているのだとか。

 後は、ガードと言っても、魔核が判断してその時に最適な防御を選択するように、魔核に書き込んであるのだとか。攻撃に関しても、1つの行動に魔核が判断できる余白があり、最も効果的な動きを選択するんだってさ。

 男のロマン的な考えが好きな奴なので、人型サイズを操るだけじゃ満足しなかった綾乃は、専用機を作ってしまったからな……見た目は、重量級逆関節に汎用型腕部、出力をカバーする胸部、情報を管理する頭部、バックパックに様々な武器をしまえる収納のカバンが設置されている。

 どういう訳か、人造ゴーレムでも魔核を介することによって、収納のカバンの機能を利用することができたのだ。その収容のカバンの中に、様々な武器を準備して次々に入れ替えて戦うスタイルを確立してしまったのだ。

 こいつのヤバいところは、そのサイズだろう。人造ゴーレムは大きくても2メートルを超えないのだが、綾乃の専用機は、4メートルを優に超えるのだ。街の大通りなら平気だろうが、路地に入ってしまえば……ゲームで起こるような住宅破壊を行ってしまうだろう。

 綾乃も城下町では暴れないだろうが、王城に着けば全力で暴れるだろうな……おそらく、王城の半壊は決定事項だと思っていいだろう。王城がどんなに大きく作られていても、身長4メートルを超えるモノを想定していないので、暴れるなら王城を壊す前提で動くはずだしな。

 そんなこんなしている間に、人造ゴーレムとS級スケルトン部隊が王都を進攻している。一般市民で気絶している人間は少ない。自分の街だから守りたい住人もいるだろうが、大半は戦闘力が無いので静観しているのだが、一部の住人は我慢できなかったのだろう……気絶させられている。

 冒険者や傭兵は……多分半数位は静観しているな。

 そして気になるのがライガが壊した門の反対側に、そこそこ偉い人間が複数集まって行動している。通告前にはこんな集団はいなかったので、通告を聞き危険を感じたお偉方が逃げているのだろう。

 綾乃も理解しているようで、専用機の準備が終わると、全速力で反対側の門の外に陣取った。

 王都の門ということもあって、専用機が2台並んで動けるくらいは大きな門だ。だけど、その門すぐ外に綾乃が待機しており、この世界の人間から見れば、大型の魔獣みたいなものに見えるだろう。その中身は、Sランクの魔物もビックリの戦闘力がある……

 そんなものが現れれば門を封鎖して、出入りをできなくするのだが……頭の悪い逃げようとしているお偉方は、門を開けるように兵士たちに迫っているらしい。

 専用機が入ってしまえば、王都の被害は甚大なものになると判断され、開けろと騒いでいる人間がどれほど偉くても、門を開けるようなことは無かった。反対に、王都を危険にさらす存在として、そいつらを拘束していたのが印象的だ。

 個人的な意見だけど、聖国の言いなりになっているような国だから、兵士の質も大したことが無いと思っていた。ところがどっこい、今まで見てきた兵士の中では一番兵士っぽい気がするぞ。

 綾乃もその働きには感心している様子だ。

 門の中が落ち着いた頃合いをみて、綾乃は門を開けろと言っていたお偉方を引き渡すなら、こちらの門は壊さないことを約束すると言って、取引を持ち掛けている。怒髪天を貫く勢いで怒っていた綾乃だが、しっかりと自分の役割を果たしているようだな。

 さて、兵士たちはどうするのだろうか?

 自分たちの手元にいても邪魔になるだけと判断した門番のトップが、引き渡しに応じてくれた。お偉方はギャーギャー言っているが、今まで碌なことをしていなかったから、門番にもかばってもらえなかったことを理解するがいい。

 後半の解釈は俺が勝手に考えたんだけどね。

 50人ほどのお偉方グループを引き渡された綾乃は、御付きで来ていた人造ゴーレムに手錠と鎖を着けさせて、鎖の端を専用機の腰にある金具に装着する。自陣まで引っぱって戻ってくるようだな。自分の足で歩かないと、地面に擦り付けられることになるぞ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ
ファンタジー
 魔導師のヴァージニアは転移魔法に失敗して見知らぬ島に来てしまった。  地図にも載っていないその島には何やら怪しげな遺跡がポツンと建っていた。ヴァージニアはただでさえ転移魔法の失敗で落ち込んでいるのに、うっかりその遺跡に閉じ込められてしまう。彼女が出口を探すために仕方なく遺跡の奥に進んで行くと、なんとそこには一人の幼い少年がいた。何故こんな所に少年が? 彼は一体何者なのだろうか?  ヴァージニアは少年の正体が世界を揺るがす出来事に発展するとは露程も思っていなかったのだった……。 ※台詞が多めです。現在(2021年11月)投稿している辺りだと地の文が増えてきています。 ※最終話の後に登場人物紹介がありますので、少しのネタバレならOKという方はどうぞご覧下さい。 ネタバレ ※ヴァージニア(主人公)が抱く疑問は地竜とキャサリンが登場すると解けていきます。(伏線回収) さらにネタバレ ※何度もループしている世界の話ですが、主人公達は前の世界の記憶を持っていません。しかし違和感などは覚えています。(あんまりループ要素はないです) さらにさらにネタバレ? ※少年の正体は早い段階で出てるじゃないかと思っている方……、それじゃないんです。別にあるんです。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...