ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1807話 続 製塩所

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 シンラの将来を若干心配しながら俺は、娘たちの様子を見ている。

 簡単な説明が終わったので、娘たちは作り方のレクチャーを受けている。そのまま海水から作るのがここのスタンダードだが、日本では砂浜……塩田に海水をまいて作る製法もある。

 塩田に海水をまいて、乾燥させながら砂を均していく。時間をかけて乾燥させた後に、塩田の砂を中心に集めて垂舟たれふねと呼ばれる、木の枠組みを組み立てる。この際に集めた、砂に海水が乾燥しくっ付いている物を、カン砂と呼ぶそうだ。

 垂舟の中にカン砂を詰めたら、下部から砂に付いた乾燥した海水……塩の結晶を流すための通路を作り、垂舟の上から海水を流し込み、カン水を取り出す。そのカン水を窯に入れ、窯焚きの行程に入るのだとか。

 これは先人の知恵なのだろう。薪で海水から塩を作るより、上記の行程を入れることで、海水をカン水……塩分濃度の高くした海水のようなものを作り、燃料代を減らしているのだ。どのくらい変わるかは分からないが、濃度を倍にするだけでも相当な燃料が必要になってくる。

 そんな知恵はここでは使われず、万能の魔道具頼りである。俺たちの作る魔道具には、燃料代がかからないので、メンテナンスをたまにするくらいだろう。クリエイトゴーレムでメンテナンスできるので、大したお金もかかっていない。

 妻たちのアリスやライムは最近、研鑽の賜物かクリエイトゴーレムで魔核を作ることに成功しているが、それでも魔力精製装置としてしか機能させられないので、電池みたいな形で魔道具に使われている。

 それはさておき、娘たちはスチームサウナのような製塩所の中で、付き添いのブラウニーたちに説明を受けながら、製塩の最終工程に近い、塩の結晶の取り出しを行っている。カス揚げのような道具を使い、塩に付いたにがりを切りながらざるへ移している。

 釜揚げと呼ばれる工程で、トンボを使って塩を集めるのは、ここで働いているおばちゃんたちがやってくれており、集めた塩の結晶を娘たちが一生懸命掬い取っている。

 更に塩に付いたにがりを取るために、ここでは脱水機の原理を使った遠心力で、にがりを切っている。

 それを天日干し出来るように作った、砂浜のビニールハウスのような所へ持っていき、綺麗にならして乾燥させていく。ビニールハウスには、何段にも積み重ねられた塩があり、その塩もしっかりと乾燥させるために、動かしている。

 ここまでの体験時間はおよそ30分だが、大人でも多少キツイ時間であるため、子どもからすればかなりの負担があっただろう。

 おばちゃんたちが休憩所に娘たちを誘導してくれる。

 ここの休憩所は、無理に冷やしていない。理由はいろいろあるのだが、冷房で冷やしすぎると温度差で体に良くないからだ。

 だけど、ここが休憩所として使えるのは、休憩所の中は製塩所からくればそれなりに涼しいが、体が冷えるほど涼しくはない。体を冷やす方法として用いられているのが、冷たい水に足をつける……古典的な涼がとれるようになっている。

 その水も清潔を保つために、ダンジョンの湧水を川のように流して、その川の縁に座って休憩できるようになっている。近くには、足を吹くためのタオルが沢山準備されていた。

 ここら辺までは俺の指示なので知っていたが、俺がお願いしていた以上の飲み物が用意されていた。

 冷たい飲み物を中心に5~6種類あれば十分かな? とか思ったいたのだが、この場所を準備したブラウニーたちが気合を入れたのか、常時20種類ほどの飲み物が準備されていた。

 あの暑い中で仕事をする人たちへの、ご褒美みたいなものだろう。お菓子や軽食なども準備されている。他にも、今日は娘たちが来ると言うことで、氷菓も準備されていた。おばちゃんたちにコッソリ耳打ちして、これからは常時準備しておくようにしたから、同僚に伝えておいてくれと伝言を頼む。

 おばちゃんたちは喜んでいた。子どもが手伝いに来た時は、仕事に応じてオヤツなどを食べさせて良いことになっており、子を持つ親だけでなく、子どもにも人気の職場だそうだ。

 ただ、氷菓は食べ過ぎるとお腹を壊すので、ブラウニーからの手渡しとなっている。

 娘たちは氷菓を食べるかなと思ったが、ジュースだけを貰い、3人で並んで川に足をつけている。今日は、娘たちのために用意したんだけど……何故だ?

 答えを持ってきたのは、ウルだった。

 ミーシャたち曰く。今日は罰だから、お菓子は食べないと言っていたそうだ。本当ならジュースも飲まないつもりだったのだが、汗をかいているのでしっかりと水分を取るように、御付きのブラウニーに注意されてジュースを飲んでいるそうだ。

 水にしようとしていたらしいが、頑張ったのにそれは良くないと思ったウルが、強引にジュースを渡した感じだ。汗もかいているから、多少は味のついた物の方が良いよな。

 休憩が終わり、先ほどのビニールハウスに戻ってきた。

 今度は完成した塩を運んで、作業場のような小屋へ入る。小屋と言っても、数十人が中で活動できるくらいには広い小屋だ……大屋か? そんな言葉あったっけ?

 そこでは、塩の選別みたいなことがされていた。元の世界では、商品にできるかできないか……といった感じだが、ここの選別は、粒の大きさをそろえる感じだな。

 何種類も篩が準備されていて、まずは中間程の網目の篩を使い、塩を別けていく。今選別しているのは、粒の大きい沸騰させないタイプの塩だ。

 トンボでかき集めたり、カス揚げですくい上げたり、脱水したりと工程を経ることで、どうしても塩の結晶同士が擦れて、細かくなってしまうものが出てくる。そういうのを別けるのがこの工程である。

 細かくなってしまったのは、沸騰させて作るタイプのに混ぜてもいいと思うのだが、この選別された塩で大粒の商品にならないものは、加工品に回されるそうだ。ディストピアの家庭ならどこにでもある調味料! 塩コショウとなって、商店で販売されている。

 最近は、ゴーストタウンにも出荷しており、奥様方に重宝されているのだとか。

 午後の4時間ほどを、休憩をはさみながら製塩所の手伝いをした娘たちが、俺の元へ駆け寄ってきた。いっぱい汗かいているから、お風呂に入りに行こうか!

 そこで気付く……ここは、シャワーはあるけど、お風呂ってないな。ここで働いている人は、シャワーがあるだけでも助かっているそうだが……妻たちよ、どう思う?

 スーパー銭湯のようなものは準備しないが、普通の銭湯を準備することにした。すまないが、この時間は、俺たちの貸し切りだから、終わった後に入ってくれ。
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