ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,724 / 2,518

第1724話 進展がない

しおりを挟む
 俺たちは、亀が頭と手足を甲羅に隠して身を守るように、密集した状態で防御を固めている。

 2~3分ほど待ってみたが、敵のリアクションはない。かといって、それなりに広いこの部屋を調べるのは骨が折れる。どうしたもんだかな……ちらりとキリエの方を見るが、俺と同じように悩んでいるようだ。

 他の妻たちも考えているとは思うが、誰もいい案が思いついていないようだ。

 敵が見えずに雪が吹き荒れる現状で、どうするのが正解なのか。ふと振り返ってみると、俺たちが降りてきた階段に繋がる扉がまで閉まっていた。っさっきの様子からすれば、こうなって当然だよな。はいはい、ここも34階と同じってことね。

 物資は腐る程ある。持久戦もできなくはないが、ダンジョンのボスを相手に、にらめっこにもならない状態は、確実に向こうが有利だ。敵がどこにいるか分からない。なら、焙り出すなりするしかないんじゃないかな?

 もう少しして、動かなかったら提案してみるか。

 防御を固めてから6分ほど経った時、キリエが動いた。

「注目! 防御を固めているメンバー以外は、魔法でとにかく広い範囲に威力の高い魔法をばらまいてください。広範囲の火魔法も解禁しますが、火魔法だけは遠くを狙って撃ってください。1分後に始めます。準備をしてください」

 おぉ、俺と同じ考えだ。それ以外だと、防御を固めながら移動してボスを探す、という形しか思いつかない。それはさすがに無理があるだろ。

 ということで、俺は爆裂魔法と言ってもいいであろう魔法を準備する。圧縮した炎の塊の中にさらに圧縮した空気の塊を押し込めた、一種の爆弾みたいな魔法を発動する。解放条件は、障害物に触れた際。吹雪で爆発したらたまらないので、そういう条件にした。

 合図があるまで、複数の火の塊を作り出す。

「時間です。では、タンクは上方向へのフォートレスの解除を! 解除を確認したら、魔法を使ってください」

 タンクから解除したと報告が上がる。

 それと同時に周囲に様々な種類の魔法が放たれる。俺はもう少ししたらな。同時に発動して、妻たちの魔法に接触したら大参事だからな!

 一呼吸おいて周りに声をかけてから、自分の周囲に準備した10個の火の塊を扇状に撃ち出す。

 弧を描いて飛んでいった火の塊が見えなくなって、10秒ほど経った時轟音が鳴り響く。

 自分で使っておいてなんだが、少し威力が高すぎたか? 吹雪の勢いが、爆風に煽られて激しくなっている気がする。

 何度か魔法を使ってみたが、敵のリアクションはない。マジでどうすんべ?

 ボスが動きを見せないなんてありなのか? って自分に聞いてみたが、ダンジョンマスターのルールブックみたいな物の禁止事項に、そんな項目はなかったのを思い出す。

 そもそも、まともなボスじゃない気がするんだよな。でも、そんな魔物なんていたか? 俺の知識の中にそんな魔物はいない。

 仮定を立てて虱潰しにしていくか?

 そういえば、雪の上に立っているのにその感覚があまりないな。圧縮された雪なら、氷みたいになって結構滑ると思うんだけど。硬いは硬いけど、床のような硬さな気がする。つま先で蹴ってみるが削れた感じはしない。これ、雪じゃないのか?

 だから何だと言うのか……ダンジョンの中では、常識なんて通用しないからな。

 相手のリアクションがないので、魔法は一時中断されている。

 これだけ魔法を使えば、何かしらの反応があってもいいと思うんだけどな。本当にこの部屋の中に魔物がいるのか?

 もしここがボス部屋なら、絶対にボスがいるはずなのだ。後ろの扉が閉まっているということは、倒したら開くということだ。ルール上、ボスのいないボス部屋は作れない。だってボスがいないからな!

 少しでも情報がほしい。そう考えた俺は、ウィスプを大量に召喚して吹雪の中を進ませる。前回召喚したウィスプたちのおかげで、部屋の大きさは分かっているし、この部屋にウィスプにダメージを与える何かがあるのは分かっている。魔物の反応だけがないのだ。

 しばらくすると、ウィスプたちの反応がほぼ同時に消滅した。

「はぁ?」

 俺は意味が分からなくなった。攻撃を受けたような様子は無い。周囲に散ったウィスプたちを同時に倒せるような魔法が使われたなら、俺たちが気付けないはずはない。

 しばらく思考の渦に沈んだ。

 ・・・
 ・・
 ・

 俺は、ある可能性にたどり着いた。

 この吹雪自体が攻撃の一種なのではないか? というものだ。寒さも普通の人間であれば生命力を削るが、魔物で実態を持たないウィスプたちを倒すためには、溶岩のような圧倒的な熱量や魔力のこもった攻撃が必要になってくる。

 ただの吹雪では、ウィスプたちは死なない。この部屋がマイナス100度以下になるのであれば話は別だが、この程度マイナス20~30度の吹雪では、ウィスプたちが消滅する事はない。

 体感温度にすればもっと寒く感じるのだろうが、レッドドラゴンの素材を使った装備って、ある程度快適な温度を保ってくれているみたいだったのだ。原理は全く不明だが、問題なく耐えられている。それにドッペルの体でもあるので、生身よりは寒さに強い気がする。

 この吹雪自体が攻撃なのであれば、ウィスプたちがほぼ同時に消滅した原因になる。

 ただこの場合、この吹雪を作っている奴が、どうやってこの状態を維持し続けているかという問題がある。いくら魔法に特化した魔物だったとしても、維持し続けるには限界がある。

 複数匹魔物がいて維持しているとしたら、先ほどの無差別攻撃でリアクションが無いのは、不自然じゃないだろうか? 隙間はあるだろうけど、ほぼこの部屋全域を爆撃したようなものだからな。

 そこから導き出される仮説は、2つ。

 2つとも、ボス部屋だと思っているこの部屋が、実はボス部屋では無いのではと言う、とんでもない仮説だ。正確には、2つ目はボス部屋と言っても支障はないのだろうが、やはり現実的ではない発想だな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...