ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,680 / 2,518

第1680話 胸糞悪い事実

しおりを挟む
 自分の役割を終えた俺は、弓を放った地面より5メートル程高い所から、戦争の動きを見守っていた。

 気付いたのは偶然だった。

 帝国の騎士たちが敵軍を怒涛の勢いで攻撃しているのに、敵の戦意が落ちることもなく攻撃を仕掛けてくることに、疑問を思っていた時だった。

 ふと、倒されて敵の兵士が後方に連れていかれるのを見ていた。戦場の後方まで連れていかれるのは不思議な事では無いが、戻ってくる兵士の数に違和感があったのだ。

 負傷した兵士は丘の向こう側に連れていかれるため、何が行われているかは分からないが、なんとなくおかしい、マップ先生で確認すると、野戦病院みたいになっているが、負傷兵の数が明らかに少ない。

 別に死んでいるわけでは無い。全体の数はさほど変わっていないのだ。

 しばらくマップ先生を見ながら考える。丘の上が見えるくらい高い櫓に作り変えてもいいのだが、いきなり作ると明らかにおかしいよな。

 ただ向こうの様子を知りたいだけだ。なら、見に行ける人間に見て来てもらえばいいよな。俺たちに報告へ来た帝国の騎士にお願いして、野戦病院と思われる場所を偵察してきてもらう。

 10分後。

 どうやら野戦病院には、回復魔法が使える人間がいるようだ。空から見たのになんでわかるかと思ったら、野戦病院の外で治療できる人とできない人の区別をしており、その場で治療してたらしい。

 んなバカな! とか思ったが、くだらない理由で戦争を始めたのだから、それもあり得るのだろう。マップ先生で確認すると、回復魔法が使える人間は野戦病院の外にいて、野戦病院の中には魔法を使わない治療をする人間、医者のような人がいるみたいだな。

 さて、どうしたものか? 予想以上に回復魔法の使える人間が多く、戦線が均衡している状態だ。帝国の騎士にはリーダーへ状況を説明するように伝えた。

 そうすると、予想外の返答が帰ってきた。

 本来、野戦病院は攻撃しないのがマナーではあるが、治療した敵が戻ってくるのであれば、その野戦病院は後方支援ではなく前線とみなしたようで、魔法で回復に当たっている人間を襲撃するとの事だ。

 俺たちは、戦列に回復魔法師を組み込んでその場で治療して、対応できないのなら後方へという風に、この世界のルールにのっとっているので、相手を攻めることに問題はないのだとか。

 夜になって戦争が終わった後に後方で魔法を受けて、次の日に復帰するのは問題ないらしい……よくわからんルールだと思いながら、帝国騎士たちの様子を見守る。

 どうやら、襲うと言っても殺すとかではなく、攫ってくるかたちだった。それがいいのか悪いのかは、よくわからないが閉じ込めるための牢を用意しておく必要があるな。

 土木組に連絡を取り、野営地の近くに人を収容できる施設を作るようにお願いする。

 しばらくすると、土木組から連絡が入る。どうやら、地上に作るより地下に作ったほうが楽なので、先日呪いの治療のために作った空間を少し広げてもらえないかというお願いが入った。

 一応、排水に関してしっかりと作っているので、少し手を加えれば衛生の問題も大丈夫だろうと、レイリーも判断している。

 ダンジョンの拡張だけは行い、後はすべてを任せることにした。

 牢が完成すると、捕らえられた回復魔法師たちが連れていかれる、ちょっと待て!

「ストップ。その回復魔法師たちの上着を脱がせろ! 急にどうしたとかじゃない! 早くしろ! 確認したい事がある」

 俺は回復魔法師たちの統一された装備に違和感を覚えていたのだが、その違和感に今気付いたのだ。後方で回復魔法を使っているだけなのに、首回りにまできっちりと守られた上着を着ていたのだ。どう考えても動きにくいレベルの上着だ。

 そして、こちらの尋問に対して誰一人として応える様子がない。

 となると、可能性の1つとしてあげられるのは、奴隷だ。

 奴隷自体が戦争で使いつぶされることがある、この世界では珍しい事では無い。だけど、これだけの数の回復魔法師が都合よく、奴隷として存在しているわけがない。となれば、国が強制的に奴隷に落とし、この戦場に連れてきた可能性だろう。

 牢へ連れていこうとしていた冒険者たちが、俺の指示に従って上着を脱がそうとすると、今まで反応の乏しかった回復魔法師たちが全力で抵抗してきた。

 個々ではうちの冒険者たちの方が強いので、上着を脱がされていく。

「やっぱり、奴隷の首輪か。問題は、この人が本当に奴隷になる理由があったかだな。そのまま、動きを止めておいてくれ」

 奴隷の首輪によって強制的に命令されているのか、見られた後も力の限り抵抗を続けている。

「所々、改良した形跡があるけど、オリジナルの奴隷の首輪と大して変わらなそうだな。これなら、解除コードを打ち込めば解けるか?」

 前にツィード君に教えてもらった、奴隷の首輪の解除方法を試してみる。

「やっぱり無理か。改良した時にその部分も少しいじったのかもしれないな。ツィード君がいれば解析してもらえるだろうけど、俺だとこれの解析はさすがにできないな。となれば、もう1つの解除方法を試すか」

 魔導具は必ず壊れる。クリエイトゴーレムを使って自動修復機能があっても、魔道具が壊れることはある。どういう理由で壊れるかと言えば、魔力の過剰供給だ。

 通常の魔導具でも、クリエイトゴーレムを使った魔導具でも、魔力を使っているのには変わりがない。魔力の通り道や機能を発動する機関部などが壊れることによって、使い物にならなくなるのだ。

 なら奴隷の首輪をつけられている人間も解除できるのでは? と思うが、この過剰供給を行うための魔力を持っている人はそう多くない。それに奴隷の首輪の機能で、着けられると過剰供給することができないのだ。なのに、解除コードみたいなものがあるんだから、作った奴はよく考えたよな。

 っと、過剰供給できる人間は多くないのだが、その多くない人間がここには多くいる、という矛盾。

 土木組にも協力してもらい、連れてこられた50人程の回復魔法師たちの奴隷の首輪を外していく。

 解放された回復魔法師たちは、全員が全員涙を流して喜んでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ
ファンタジー
 魔導師のヴァージニアは転移魔法に失敗して見知らぬ島に来てしまった。  地図にも載っていないその島には何やら怪しげな遺跡がポツンと建っていた。ヴァージニアはただでさえ転移魔法の失敗で落ち込んでいるのに、うっかりその遺跡に閉じ込められてしまう。彼女が出口を探すために仕方なく遺跡の奥に進んで行くと、なんとそこには一人の幼い少年がいた。何故こんな所に少年が? 彼は一体何者なのだろうか?  ヴァージニアは少年の正体が世界を揺るがす出来事に発展するとは露程も思っていなかったのだった……。 ※台詞が多めです。現在(2021年11月)投稿している辺りだと地の文が増えてきています。 ※最終話の後に登場人物紹介がありますので、少しのネタバレならOKという方はどうぞご覧下さい。 ネタバレ ※ヴァージニア(主人公)が抱く疑問は地竜とキャサリンが登場すると解けていきます。(伏線回収) さらにネタバレ ※何度もループしている世界の話ですが、主人公達は前の世界の記憶を持っていません。しかし違和感などは覚えています。(あんまりループ要素はないです) さらにさらにネタバレ? ※少年の正体は早い段階で出てるじゃないかと思っている方……、それじゃないんです。別にあるんです。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...