ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1542話 偶然の勝利

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 距離をとった俺は、改めて人造ゴーレムの様子を観察する。

 今までなら関節が壊れてプラプラしているのだが、今回も同じようにプラプラしているように見えるが、しばらくすると腕が不自然に動き、ガキンという音が聞こえた。

 そして人造ゴーレムは、手の動きを確認するようにグーパーグーパーしている。やっぱり壊せてなかった。関節が外れただけということか? 関節のつくりを変えて、筋肉や体表にも工夫をしたってことか?

「シュウ、見ての通り関節壊しはあまり有効ではなくなったから、違う方法を考えないと勝てなくなるわよ」

 あまり有効ではなくなった。多少有効ではあるってことだよな? 壊す関節の部位によるってことかな? よく壊していた手首、肘、肩、足首、膝、股関節はあまり有効じゃないと考えるべきだな。後、首もか?

 じゃあどうしろっていうんだ? 打撃で壊すにしても、魔核から供給される魔力で、治り続けるんだぞこいつら……となれば、今あげた以外の関節を狙うか、狙いやすい関節を無理やり壊すか。

 多分だけど、今までの壊し方。殴るとか関節を決めて折るみたいなのは、有効的じゃないと思う。もぎ取るくらいのレベルでやらないとおそらく壊せない。

 伸縮性のあるマッスルメタル、壊れないアダマンタイトで作った関節、どういう原理かわからないが皮膚にあたる部分が、多少伸びでも壊れなくなったからな。

 今までの関節壊しをした後に、ねじ切る動作を加えれば関節をもぎ取ることはできるだろうけど、それを許してくれるかは不明だよな。警戒しながら試してみるしかないよな。

 人造ゴーレムとの戦闘は基本的に打撃戦になりがちである。服を着ていないので、投げるのにも苦労をするんだよね。一本背負いなんてしようものなら、無防備な脇腹とか殴りつけられたうえで、ネコみたいに体を反転させて着地するから、ダメージすら与えられない。

 だからと言って投げ技が無意味かと言えばそうではない。要は、自由になっている部位が少なく、防ぐ方法が少なければ成功することもあるということだ。

 小手調べに素早い攻撃を繰り出してみるが、やはり有効打にならない。しかも、今までの人造ゴーレムと、攻撃パターンが変わっていることに気付いた。

 人間に近い動きで攻撃を受けずに、かわすそらすが基本戦術なのだが、自分たちの耐久力を前面に押し出して、攻撃を受けながら反撃する。捨て身カウンターのような攻撃手段をとってくるようになっていたのだ。

 これは本当にやばいと思った。人造ゴーレムでは限界があると思っていたが、自分たちの強みを前面に押し出したこの反撃は、マジでヤバイ。攻撃がかすっただけなのに、距離が離れてしまったくらいだ。

 打撃戦は、マジでないな。魔法や武器を使えるなら話は別だが、今回のルールでは絶対に勝てない。

 ならば、どうにかして関節を壊すか、逃げられない返し技のできない投げ技で壊すしかないってことだな。

 こいつら、反射神経がいいというか、見て判断できて動けるから、フェイントが面白いほど通用しないっていうのも厄介なんだよね。

 ただ、攻撃や反撃にはパターンがあるからそれをつかんで、こちらに引きずり込めば……

「って、おい!」

 思わず声をあげてしまった。俺の攻撃に対する反撃で、手首をつかんで空気投げの要領で投げ飛ばそうとしたのだが、今までと反撃パターンが変わったのだ。

 ただ、俺の思考を読んだとかそういう話ではなさそうだ。おそらく反撃が何種類かあり、俺の行動を見て攻撃が変化した感じだったのだ。

 今までなら殴り返すところを、もう1歩距離を詰めて肘を叩き込もうとしてきたのだ。

 目の前にいるのが人造ゴーレムとは思えなくなってきている。だけど、勝つためには壊す必要があるんだよな。俺が参ったと言うか戦闘不能になるか、人造ゴーレムを壊すまで試合は終わらんからな。

 さっきから足技が多くなってきて、防御をしても体の芯に攻撃が響く。マッスルメタル、金属というだけあってやはり重い。その衝撃が、受け止めているつもりでも、体の芯に響いてくる。

 このまま守りに入ったら、そう時間はかからずに負けるな。

 多少ダメージをくらっても、人造ゴーレムの足を巻き込んで壊すか?

 右・右・左・右足。

 人造ゴーレムの攻撃の回転が心なしか上がっている気がする。こんな賭けみたいな先方はとりたくなかったんだけどな。

 次の右足を狙って……

 防御し損ねたように見せて、ギリギリで左脇腹に右手を差し込む。衝撃は殺しきれずに、体の中を突き抜けるが、まだ動ける。

 すぐに左脇をしめ人造ゴーレムの右足を捕らえた。

「つーかまえた」

 俺は今、すげえいい笑顔だと思う。

 人造ゴーレムが逃げ出すために、殴りつけてくるが距離があり有効打には程遠い。足をつかまれて立っている状態で、人間が殴りつけたところで大して力は入らないからな。

 次の行動に移るために人造ゴーレムの左足を払おうとした瞬間、人造ゴーレムの左腕が不自然な動きをした。正確に言うと、肘から先に違和感があったのだ。

 すでに足を払おうと行動を起こしていたが、この左腕の違和感が無性に俺に危険信号を発している。違和感の正体を突き止めろと、本能が叫んでいた。

 左腕が少し長くなってねえか? それに関節も外れているように見えるぞ。

 それでもお構いなしに人造ゴーレムが左腕を振るってきた! 鞭のようにしなりながら……鞭!?

 綾乃の野郎! 体を武器に見立てた攻撃を学習させやがったな! 一撃なら痛みに耐えれるよな? 大丈夫だよな?

 そう自分に言い聞かせて、右腕にせまる人造ゴーレムの左腕を無視して、右足をつかんだまま前進する。

 人造ゴーレムは、転ばないようにするために左足で跳ねた。そこにローキックを放ち人造ゴーレムの体制を崩した。

 次の瞬間、バチン! と右腕が鳴った。予想してたよりマシだったが、かなりの衝撃だった。

 これなら問題ない! 姿勢制御のできなくなった人造ゴーレムを地面にたたきつけ、右足を軸に関節を外しさらに力を加えてもぎ取った。

 さすがに体表はそこまで頑丈ではなかったので、壊すことに成功した。

「あ~しんどい!」
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