ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1539話 実験終了

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 なんやかんやで、非人道的な実験はどんどん進んでいき、様々ないい結果をもたらしてくれた。

 特にいい結果だったのは、脳内出血による脳細胞が斑に死んでしまう病状に対しては、ポーションやエリクサーの点滴は効果的だったことだろう。

 手足が修復できる、切れた手足をくっつけるのではなく、無くなった手足が生えてくることを考えれば、死んでいたとしても近くに細胞が残っている脳の修復は、Dランクポーションでも問題なくできたのだ。

 一般的に出回っている品質、普通と呼べるものであれば、脳内出血で死んだ脳細胞を治せることが分かったのは、大きな収穫だろう。

 仲良くしている街の領主だけには教えておこう。後、商会のネットワークを通して、いい領主と呼ばれる領主が脳内出血によって倒れてしまった場合には、接触して治療をする許可を与えている。領主の家族が拒否することもあるだろうが、そこは実力行使をしても問題ないと伝えている。

 ゼニスに領主の家族が拒むことがあるから注意した方がいいといわれて、俺は疑問しか浮かばなかった。

 ゼニスだけじゃなく、グリエルもガリアも同じ意見で、領主が死んで喜ぶ人間が家族にいる場合もあるのだ。そのときに、商会に不利になることがあるので、多少強引にでも領主を治療して時間稼ぎをするべきだとのことだ。

 領主が治れば、次期領主の思い通りにはいかない。なので、領主が生きている間に撤退すれば問題ないのだ。

 マイワールドを使えるようになった今となっては、商会や治療院を守るリビングアーマーなどで時間を稼ぎ、迎えに行くという方法も取れるので、全面戦争になりそうであれば実力行使をせずに、守りを固めるようにも言っている。

 どっちにするかは、支店の責任者に委ねている。判断できないというのであれば、魔導無線連絡をすれば誰かと連絡がつくので、そこで相談すれば問題ないだろう。

 そして、脳萎縮型の認知症に関しては、あまり効果がなかった。ポーションもエリクサーも、本来あるべき姿に回復するといった感じだろう。

 本来あるべき姿。簡単に言えば、老衰をポーションやエリクサーでは延命できないのと同じで、脳萎縮に関しては、その人の本来あるべき姿という認識になるようだ。そのため、劇的な改善は見込めないが、多少の改善はあるといった感じだった。

 なので、この世界で認知症の症状を見せる人が少ないのは、ポーションや魔法のおかげではなく、元々の資質によるものだということだろう。トラブルや犯罪に巻き込まれて死んだり、戦争なんかで亡くなったりする人を除いた平均寿命そこそこあるようなので、この世界の特性なのかもしれないな。

 この世界で平均寿命が短いと思っていたが、老衰で死ぬ人が少ないため平均寿命が短くなっているということが、今回の実験の最中に判明した。知らなかっただけともいうんだけどね。

 出生率だけで見れば5人は超えているが、兵士や冒険者になって亡くなったり、トラブルで亡くなったりする人数も多いので、最終的な人口があまり増えていないのがこの世界なのだ。

 人口があまり増えないのは、国の政策として無茶な開拓などをさせて数を減らしている……言ってしまえば、間引きをしているためだ。

 胸糞悪い話にはなるが、国としても養いきれない人間を無理に養おうとすれば、全体が腐り落ちてしまう可能性があるのだ。それなら、一部の人間を人柱にするのも政策の1つと言っていいのだろう。

 それに、無謀な開拓でも成功すれば、その分養える人間が増えから、成功しても失敗してもどちらでもいいという形で送り出すのだとか。

 なんとも言えない気分になったものだ。少なくとも、ダンジョンを有しているゴーストタウンとディストピアは、食料に困ることは無いので、人が増える限りは街を広げていくことが可能だろう。ゴーストタウンに関しては、人口が増えればマンションみたいな建物を増やしていかないといけないだろうけど。

 少なくとも俺が管理している限りは、政策によって人を間引くようなことは絶対にしないように対策をしておこうと心に誓った。

「それにしても、進行性の病気に関しては、ポーションやエリクサーが効きにくいっていうのは、意外だったわね。特にエリクサーなんてなんでも治ると思ってたわ。いえ、治っているのだろうけど、私たちの考えている完治ではなかったわね」

「そうでござるな。ただ、進行性の病気でも治るものと治らないものがあったのには意外でござったが……基準は何なのでござろうな?」

「誤差はあるだろうけど、老化がトリガーになっているものは治りにくい傾向にあるんじゃないか? 脳萎縮に関してはどうにもならなかったけど、筋萎縮性側索硬化症に対しては効果を発揮したからな」

「確か、筋萎縮性側索硬化症は、脳や脊髄の運動神経の細胞死による筋力低下が原因となる進行性の病気だったわね。分類的には、脳出血による脳細胞の死滅に近いはず。萎縮とはついてるけど、脳萎縮とは関係なかったよね? 確かに老化とは確かに関係ない病気ね」

「詳しい病状は解らないでござるが、鑑定でそう病名が出ているでござるから、治ることがわかってよかったでござるよ。問題というでござるが、疑問でござるが、なんで認知症の高齢者が少ないのでござろうな?」

「確かに気になるわよね。ゴーストタウンにもディストピアにも、老人はたくさんいるのにそういう人は見かけないもんね。生活環境のおかげなのかしら?」

「確かに気になるけど、この問題に関しては考えるだけ無駄だろ。比べる方法もなければ調べる方法もないんだから、この世界だからってことにしておいた方がいろんな意味で楽だろ。それよりも、今回実験できていない病状以外も、治る治らないの分類をしたいところだな」

 この世界では、不健康と言うと問題はあるが、日本みたいにハンデのある人が生きていくのが厳しい世界だ。なので、多くの病状を探すのは難しい。

 グリエルに聞いたところ、生活が厳しい家にそういう人がいれば外に放り出すこともあるし、病状によっては殺す街もあるって話だしな。

 できる限り多くの実験を行いたいところではあるが、自分の街でないところから実験の対象者を連れてくることは難しいし、見つけることも難しい。商会を通じてコンタクトをとった人もいるが、返事が芳しくなかったり、いろいろな問題があるのだ。

 今回の実験は、概ね成功と言っていいだろう。途中で、一般の方にもいろいろ手伝ってもらっているが、いい結果を残せたと思う。
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