ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1537話 良いこと悪いこと

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 1週間かけて同じ実験を繰り返した結果、神経を治すのはCランクポーションの点滴がベターであることが判明した。それをもとに、実験に参加を希望してくれた負傷した兵士たちにポーションを投与したところ、全員が動けるようになった。

 だが、神経が繋がっても後遺症はあるようで、昔みたいに剣を振って前線で戦う、犯罪者を追うために走るといったことに影響が出る人もいた。

 これは肉体の影響だけではなく、心の影響によるものもいたので一概には言えないが。

 そして、実験に参加してくれた一般人のおかげで、1つ判明したことがある。時間が経てばたつほどポーションの効果が、薄くなっていくことが判明した。特に10年前以上から負傷していた人に対しては、効果があまりなかった。

 全く効果がないわけではないが、例えば握力100キログラムくらいあった人間が、20キログラムくらいになってしまったという感じだ。ただ筋力が衰えただけでは? とも思ったのだが、10年も経つとその状態が、正常と体が認識してしまうのではないか? というのが最終結論としてあがった。

 実験が終わってすぐには解らなかったが、この実験から3ヶ月後になっても一向に筋力が回復しないことにより判明した事実である。

 それでも、動かせなかった腕が動かせる、動かなかった足が動くようになったというのは、本人たちも家族も喜んでくれたので、実験してよかっただろう。

 そんなこともあり、実験に協力してくれた重犯罪者の中で希望する者は、マイワールドでの自給自足であれば生活を許可してもいいのでは? という話になり、グリエルもきちんと管理してくれるのであれば、問題ないということになった。

 それでも、神経再生実験に参加させた重犯罪者の20名の内2名しか、マイワールドで生きることを希望しなかった。18名は実験中に心が折れたらしい。俺も実験する側ではなくされる側だったら、ここまで平気でいられなかっただろう。

 そもそも、実験に参加して問題ない精神になっていたことにビックリしている。

 次の実験を始めるにはまだ早く、準備までに時間がかかると連絡があり、2週間ほど暇な時間ができた。

 暇だった俺たちは、あの実験から1週間後に集まって次の実験について話をしていた。

「思ったんだけどさ、精神異常者って脳に問題がある奴もいるんじゃない? 急に言動が変わって暴れだした! みたいな報告書もあったわけじゃん。それって小規模な脳内出血が原因だったりしないのかな? っておもうんだけど、どうよ」

「確かに、地球でもそんな文献があった気がするでござるな。抑圧されていたのか、精神が変容したのか証明する方法がないでござる。だけど、同じ傾向の脳変容の起きた人間でも、犯罪を犯す者とそうでない者がいるとかいう話だったでござるかな?」

「脳については、分かっていないことの方が多いって話だし、俺たちが考えてもわかることじゃないだろ。それより、ポーションの投与実験によって改善される可能性があるんだから、とにかく実験して回復するのかしないのか、結果が解ればよくないか?」

「確かにシュウの言う通りだけど、こういう話って何か面白いじゃない? 答えがないからいろいろ考えられる……みたいなところがあるからさ」

「解るでござる」

「俺も解るけどさ、もし脳変容によって犯罪に走ってしまった人を元に戻せたとして、罪が消せるわけじゃないじゃん? それに、同じ変容を起こさないとも限らないわけで、罪の重さで裁かないといけないことには変わりがないわけさ。あまり考えすぎると感情移入しそうだしな」

「確かにね。神経再生の実験では実際にいい内容だったこともあって、2人はマイワールドに移動したわけだけど、あの2人ってどうなったの?」

「あの2人なら、自殺したよ。人に会えずにただ広い畑を耕すことに絶望を覚えたのかもしれないな。正直な話、俺だったら耐えられないと思う。最後の最後で慈悲だと思ったことが、実は最大の罰だったかもしれないな」

「そうだったでござるか。某は数百年は1人だったでござるからよくわからないでござるな」

「あんた、そもそも人間じゃないでしょ。それにしゃべらないけど、配下のアンデッドはいたわけだし状況が違うんじゃない?」

「同じとは言えないけど、魔物になったことによって精神が変容した可能性はあるかもしれないな。最初は俺たちのことを普通に襲ってきてたわけだし、魔物っぽかったぞ」

「そう言えば、そんなこと言ってたわね。頭のいい人たちが考えてもわからないことを私たちが考えても、解るわけないか! よし! 考えるのはこの辺でやめて、一狩りいくわよ!」

 そういって俺たちはゲームを始めた。

 遊びに夢中になりすぎて、途中でシルキーたちに怒られるという流れまでが1セットで、1日を過ごした。

 麻薬の投与が始まってから3週間、実験場に集まっている。

「50名の重犯罪者の内、4名が麻薬の過剰投与で死んでしまいました」

 そう報告を受けて、そういえば、麻薬の正常というのはおかしいけど、使用用量ってどのくらいが普通かなんて知らねえよな。

「実験に使えないのは残念ですが、丁重に弔っています。残りの46名ですが、半数以上が自力で行動することが無理なほどになっております」

 え? 麻薬ってそこまで効果あるのか? 量を多くしたからって、そんな風になるものなのか?

 そこにはツィード君とシルクちゃんがかかわっているようで、1週間たったころに4名死亡してしまってから、助けを求めたらしく、闇魔法で効果を上げて、光魔法で体への負担を減らして、何年も大量に使った状態と同等にまで引き上げたのだとか……地球でやったら、死刑になるんじゃないか?

 そのおかげで、実験ができるのだから感謝しておこう。

 この実験は、すぐにというのも変だが、簡単に終わった。Cランクポーション以上を点滴すれば、ほぼ完ぺきに行動が以前のように戻ることが分かった。なので、少なくとも脳内出血をした人に対して投与すれば、すぐに日常生活に復帰できるだろうとのことだ。

 肉体の件と同じで、時間が経っていると効果が薄い可能性は高いけどね。

 問題は、46人中全員が麻薬投与前の状態に戻った。

 何が問題かというと、犯罪を犯す確率のあがる脳変容は、犯罪を犯した人間の正常な状態だという可能性が出てきたからだ。

 俺たちは実験前に、何人かは行動の変化が起こるんじゃないかと考えていたのだが、そうではなかったようだ。
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