ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1236話 最後の最後に大問題

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「で、その助命というか、俺たちに存在を伝えておきたい人物っていうのはどういう奴なんだ?」

 助命を主目的として、教皇が今の話をしているわけでは無いと理解したので、教皇の胃に穴が開く前に話を聞いておこう。アンデッドだから、穴が開いても問題ないか? それにヴァンパイアだからすぐに直るか?

『それはだな……』

 ちょっと長い語りになったので、教皇が俺に伝えたかった事を勝手に自分の中で並べてみた。

 1、人食い胞子の製造法を知っている……と言うより、作らされていた。

 2、ほぼ奴隷みたいな形で働かされ、その人物には自分で何かを選ぶ権利が無かった。

 3、作らせていたお偉いさんが存在を秘匿していて、今の今まで存在すら知られていなかった。

 4、その人物とは、獣人の特徴的外見をほとんど持っていない、ハーフの獣人だった。

 3番までなら、情状酌量の余地があるから、そっちで監視なりなんなり勝手にしてくれと思ったが、4番目の情報を聞いて俺の表情は険しくなった。

 この世界の人間は、人間と他の種族とのハーフを忌避する傾向が強い。自分たちが上位種族であるかのように振る舞う奴が多いのだ。その半分程が、この聖国の広めた宗教のせいなんだがな。そう言うのに抵抗が少ないのは、帝国だろう。あそこは実力主義だからな。

 一般市民にはほとんどいないが、あの国の領主になるような有能な人間には、獣人のくせに! みたいな事を言う奴が多いらしい。正確には、それ以外で獣人領主を責める理由が無いのだとか。獣人だって責める要素にはならないが、人の国だから人がみたいな感じだとか。

 それに対して獣人は、人間を忌避する傾向は強いが、ハーフである事を理由に子どもを蔑んだり物のように扱う事は無い。子は子、ハーフだからと言って忌避する理由にはならないという考えらしい。

 そもそも、自由恋愛で生まれるハーフより、人間が自分の欲望を満たすためだけに、獣人の女性を犯してできた子どもの方が圧倒的に多い。

 それなのにハーフだからと言って人間じゃないとか、どれだけ屑が揃ってんだよ。

 まぁ、4番目の事があるから俺に連絡してきたのだろう。

「要するに、そのお偉いさんが秘匿していたから、把握していなかった獣人のハーフの子が奴隷に近い扱いを受けていたって事が今になって分かったってことか?」

『そう言う事になります。その領主によれば、あなたが提示したのは、獣人の奴隷を解放しミューズへと言うあれですが、その子は獣人ではなくハーフだという事で条件に当てはまらないと言っています』

「屁理屈だという事は分かるけど……あ~ちなみにそのハーフの子の出自ってわかっているのか?」

『もちろんです。その領主が犯した獣人の女性の子供だとの事です』

 俺も怒っていたのだが、教皇の話の途中で合流したミリーが怒髪天を衝く勢いで怒っていた。それを見たせいか、俺の怒りは収まってはいないが冷静にはなれた。ミリーは急な仕事でギルドに来ていたらしい。

 怒ってても、自分より更に怒っている人がいると冷静になるこれって不思議だよな。

「じゃぁ、こっちの要望を伝えてもいいか? そのハーフの子はこっちで保護する。とはいえ、知ってはいけない物を知っているから何かしらの対策は考えておかないとな……で、もう1つ。その領主とその件で関わった全員をこちらに寄越せ」

 怒髪天を衝いているミリーが、聖国に処分を任せたとしたら、1人で殴り込みに行きそうだったのでこちらに寄越すように言った。お願いではなく、命令と言う形だ。お互いの立場で考えれば、あり得ない話の流れだが、力関係を見れば不思議な事では無いだろう。

 と言うか、ミリーの怒りに呼応して、他の妻たちまで行動を開始したら絶対に止められないからな。特に、シェリル・イリア・ネルの3人が参加してしまうと、俺の従魔の大半が俺の静止を聞かなくなるのが怖い。

 移動の観点でバハムートとワイバーン親子、火力の面で更にリバイアサンが加わる。特に、リバイアサンが本気になれば、街の1つや2つは簡単に地上から跡形もなく消える。何の誇張も無く、文字通りに消えてなくなるのだ。

 街ぐるみ、国ぐるみで今回の事をしでかしていたのであれば、街や国が消えてしまっても気にはしないのだが、さすがに今回の件だと巻き込まれる人が不憫なので、処刑をこちらでする事によりミリーの怒りを鎮めようと考えたのだ。

 一瞬でこの思考に至った俺、よく頑張った!

『了解した。その可能性も考え、関した者を全員捕えている……が、ちょっと数が多い。それでも大丈夫か?』

「多いって言っても、たかが知れてるだろ?」

『その……例の物の作成方法を知っているのはその子だけなのだが……調べてみたら、この領主みたいに、獣人の女性に産ませたハーフを奴隷のように扱っていた奴が多くてな。まだ全員を捕らえられていないが、全部で3000人を超えるのだよ』

 なっ! さすがにその数には俺も驚いた。そして、怒髪天を衝いたミリーの怒りが限界を突破したのか、すとんと表情が無くなった。限界を越してしまって、感情をどう処理していいか分からなくなり、結果として無になった。

 何だろな、ミリーの背中と言うか後ろと言うか、内側? どう表現したらいいか分からない場所に、ブラックホールのようなすべてを飲み込む闇が存在しているかのようだった。

 ってか、俺もマップ先生で調べたけど、獣人として調べたから、ハーフの子供や奴隷には反応しなかったのか……くそ! もっと細かく設定して調べておくべきだった!

「わ、分かった。考えていた以上に多くてびっくりしたが、ハーフの子も全員引き取る。そして、クズ共も全員こちらに……移動させる費用に関しては全額こちらで払う。下手な護衛は困るから、お前の命令を忠実に実行する奴らに任せろ。全員確実にこちらへ送り届けろ」

『費用に関しては、本当に助かる。今回捕らえた領主や金持ちから得た金品を使えば賄えるが、さすがに戦争で被害にあった人への補償を考えると、頭が痛かったのだ。確実に送り届けるから安心してほしい』

 住人には、被害を出さないように戦利品をいただいている事を伝えてはいるが、領主がいなくなり暫定的に役人を送り込んでいるが、治安の悪化はあるようだ。そこへ神殿騎士も派遣しており、何とか治まっている。

 だが、補償すべき領主もそのお金も、俺たちが持って行ってしまっているので、その金品をどこから捻出するか考えた時に、今回のハーフ事件が判明して臨時に資金を調達できたが、引き渡しを要求された場合の移動費を考えると頭が痛かったのだろう。

 そこに俺の提案だから、乗っかる形にしたようだ。

 いくつか話を詰め、一ヶ月を目安にミューズに届けると約束してくれた。普通に考えて、一番離れている街からここまで一ヶ月は無理じゃないか? と思っていたが、そういう場所からは、既に運び出しており、運搬に使っている馬車も馬も一番いい物なのだとか。

 天候にもよるが、遅れても半月は遅くならないとみている。全員がこちらに届くなら、どうだっていいや。それよりもミリーの怒りを鎮める事が先決だ。未だに表情を無くして、ブラックホールがすべてを飲み込みそうな気配を醸し出している。

 そんな状態のミリーを正面から優しく抱き寄せる。効果があるか分からないが、自分の胸元に優しく抱き寄せ、背中をさするように、落ち着かせるように時間をかけた。
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