ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1099話 ニコの不思議

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 今日も工房に来て作業を開始する。最近は便利道具の開発ではなく、量産の手伝いが中心になっている。掌握していたエリアに出来たダンジョンに出向いてから2ヶ月が経っているが、まだまだ需要に追い付いていないのだ。

 帰ってから1ヶ月、心が病まない程度に量産を行いながら息抜きをしている感じだ。

「あれ? この子、シュウの所のニコちゃんじゃない?」

 綾乃が俺の作業スペースに来てそんな事を言ってきた。後ろを振り向くと……ニコが見つかっちゃった! みたいな仕草をしている様な気がする。

「本当にニコだ。何でここにきてるんだ? いや、来ちゃいけないわけじゃないけど、何でいるのかビックリしてな」

 数いる中でスライムの中で今鑑定を使わずに、個体を識別できるのってニコだけなんだよね。ニコだけは7色に自分の体の色が変わるから、擬態しない限りすぐにわかるのだ。その他のスライムは、増えすぎてニコから分裂したオリジナルが、どれかももうわからなくなっている。

「それより、本当に何でここにいるんだろ?」

 綾乃と首をかしげていると、体を変形させてジェスチャーを始めた。

「えっと……魔導列車の中に、隠れて一緒に来た?」

 理由は分からないが、何故かジェスチャーが分かりニコが着た経路が判明した。だけど、理由について聞くと、ジェスチャーをしてくれるのだが、訳が分からず30分位格闘する事となった。

「要するに、暇をしてから俺の後をつけてきた? って事なのか? 本当にお前は自由で羨ましいな」

 跳び付いてきたニコを抱き留め撫でてやると、腕の中で高速で震えだした。

「嬉しいのはわかるけど、その揺れるのは抱いている時にやられると、くすぐったいからやめてくれ」

 そう言うと、ピタッと揺れが収まった。このスライム、本当に言葉を理解しているからすごいよな。

 撫でられて満足したのか、俺の作業スペースを探検し始めた。しかもわざわざ体を小さくして、何となくスニーキングしてるんじゃないかと言う動きで、物陰に隠れながら移動しているように見える。

 そして、何かに見つかりそうになり慌てて隠れるが……ニコ、お前の隠れているそれ、透明だから外から見てバレバレだぞ? しかも足元に凶器があるからな。

 ミキサーの中に隠れようとしたのだ。もし回ってもニコが切り刻まれる事がないとはいえ、何となく怖いので、器用に閉めたミキサーの蓋を開けてニコを取り出す。

「ん~ニコちゃんって本当に変だよね。スライムなのになんか芸が細かいし、言葉だって通じてるもんね。しかも体を変形させてコミュニケーションまで取ろうとするから、スライムのイメージが崩れるわ」

「言わんとしている事はよくわかる。こいつらスライムはスライムでも知性があるからな、綾乃が想像しているスライムはこいつだろ? 俺の作った街の地下にウジャウジャいるぞ」

 そう言って、粘液タイプのスライムを召喚する。

「この世界のスライムって、ドラ〇エ系じゃなくてファ〇ナルファン〇ジー系のスライムに近いわよね。しかも色々取り込もうとして、飛び掛かってくるキモイ系……ファイア!」

 俺が召喚した粘液タイプのスライムが、綾乃によって焼き払われた。こいつらを倒すとゲル状の何かが出るんだけど、何かに使えねえのかな?

「スライムのドロップなんて摘まみ上げてどうすんの? その膜破れたらヌルヌルになるわよ」

 液体系のドロップなのでよくわからない膜につつまれてドロップするのだ。

「スライムからドロップするこれって燃えるんだっけ?」

「ランプとか松明の燃料にされてるわね。そういえば、裕福な人たちは石と木材で家を建てるけど、貧困層というか、密集して生活している場所が総レンガや石なのは、ランプに使っているこれが原因だって言われてるわね」

 そう言われて思考する。灯油みたいなものだとして、使い方を間違えればすぐに火事になる……そうすれば木造建築なんてすぐに燃えて、隣に燃え移っちまうか。

 今まで気にしてなかったけど、樹海や魔物の領域の森で木がすぐ育つのに、木造建築が少ない気がしていたのはそういう理由だったのか? ディストピアでは見た目と造りやすさの問題で、初期の家はほとんどは石造りだったっけ?

 でも、フレデリクにいた時は……木造も多かった気がするんだけどな。

 そんな事を考えていると、すぐに答えが返ってきた。

「まぁ、場所によってはスライムがいなくて、燃料が薪しかない街もあるみたいだから、一概に木造が少ないとは言えないんだけどね」

「そうなのか。そういえば、フレデリクを再度自分の街にした時に、俺の家があったあたりに火事の跡が多かったのって、地下からある程度スライムの燃料が取れて、使いなれていない多少金持ちの人間が起こしたのかな?」

 扱いなれてても失敗してって事もあるしな。まぁ数が取れないなら、必然的に上の階級の人間達が買い占める事になるんだろうな。

「それにしてもニコちゃんは、何がしたいんだろうね?」

 そういった時にニコは、俺の体に張り付いて上ったり下りたりしている。

「俺にも分からん」

 しばらくして気が済んだのか、体から降りて工房の中を探検し始めた。

「ニコちゃんってどうやってここに入ったのかしら?」

「体の形を変えれるから、正面の扉の隙間からじゃないか?」

「そういえば、気付かれずに侵入できる種族の1つだとか言ってたっけ?」

 あるいて追いかけるのが面倒になったので、マップ先生の追加機能である監視を使って、ニコの後ろからカメラが付いていくような感じの視点で表示した。

「あっ、バザールだ。足に絡みついたけど、無反応だな。しかも体の内側って言っていいのか? そこら辺を動いているのに、バザールが反応しないっていうのも異様な光景だな。今度は顔に移動ってさすがに邪魔になったみたいで、投げられたな」

 それからもニコは気の赴くままに工房の中を移動してまわり、満足した様子を見せると扉に向かって移動をして工房を出て行った。そのまま魔導列車に移動して……えっ!?

「今日一で驚いたわ。ニコちゃんって魔導列車運転できるんだね」

 しかも芸が細かい事に、自分の体の上に車掌さんの帽子っぽい物を自分の体で作って、運転手っぽくなってる。これはおもろいな。今度暇があったらニコの行動を観察してみるか?

 あれ? 今の状態だと俺の帰りの魔導列車が無くね? 後で連絡入れてこっちに移動しといてもらうか。

「ん?」

 ディストピアに着くと、駅の近くにある俺の工房に入っていった。そこで人造ゴーレムを起動して、何やら指示を出しているようだ。そしてすぐに何をしたのか分かった。

 ニコが命令を出すと人造ゴーレムが魔導列車を運転したのだ。どうやら、自分で使ったけどしっかりと元の場所に戻すようだ。

「シュウ、ニコちゃんって本当に頭いいね。私たちの知らない所で、いろんな所に行ってそうね」

 本当に何処にいてもおかしくないな。
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