ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,075 / 2,518

第1075話 一先ず完成

しおりを挟む
「あれ? 思ったより混ざってない? 勢いは足りないと言っても、ある程度砕けてるから問題ないはずなんだけどな」

 初めに成功する見込みの高い足踏み動力にしたのは、俺のモチベーションを上げるためだ。ここで成功しておけば、手動式が失敗しても気持ちが楽だし、足踏み式が失敗すれば手動式が失敗してもしょうがないと思えるためだ。

 自分でも思うが、せこいな。

 っと、そんな事より原因調査だ。勢いの所為ならどうにもならないのだが、DPで出したミキサーと見比べてみる。

「シュウ様、ミキサーの内側なんですが、このでっぱりは何ですか?」

 そう言われて、ミキサーの内側の縦に4本ほど入っているでっぱりを見る。あ~これで液体の流れをコントロールしてるのか? このでっぱりがある事で、中の液体がいい感じに変わるのか?

 内側の方はもうできているので、削る作業で済むから型の加工自体はすぐに終わった。クリアメタルを流し込んで加工を進める。

「ん~やっぱり足踏み動力の方は、それなりに力があるから簡単に果物なんかもジュースに出来るな」

 先ほどと違ってかなり良く混ぜられている。

 これで、ある程度稼げているお店には置けるようになった。でも、俺達が目指しているのは一般家庭でも使える値段の便利な調理器具だ。でも、これなら屋台でスムージー屋みたいなのが出来る位って、スムージーが売れるか分からんのにやる人間はいないか。

 普通の人からすれば、果実をしぼって水に入れただけの果実水でも、飲み物としてはそれなりに高価だと認識されているからな。でもさ、野菜と果物をそのまま、まぁ皮なんかは適切に処理するけど、ゴーストタウンでの値段を考えれば、売れる値段になると思うんだよな。

「こっちは成功じゃな。手動式の方も実験してしてみるのだろ?」

 ドワーフの1人が俺の方に向かって、そう言ってきた。なので俺も準備を始めるが、まずは誰かに抑えてもらってからの作業になるのだが、力のある俺たちがやっても意味が無いので、近くで遊んでいた子どもたちとその母親を呼んで試してもらう事にした。

「突然呼んでしまってすいません。今日は試してもらいたいものがありまして、御呼びいたしました」

「そ、そんな! 私たちに頭など下げないでください!」

 母親の1人がビクビクしながら俺にそう言ってくる。

「あまり失礼な言葉でなければ、フランクにしてもらってかまいませんよ。あまりな言葉だと、自分より周りが反応してしまうので、本当にすいません」

「そうだよ、かーちゃん! シュウ様はキサクなんだぞ! 僕たちと広場で遊んでくれるし、美味しい物も食べさせてくれるいい人なんだぞ!」

「クライブ君、キサクって言葉の意味わかって使ってるの?」

「わかんない! でも、シュウ様の事をキサクって言っている大人の人たちが多いから、それであってるはず!」

 この子たちは、工房近くの広場でよく一緒に遊んでいる子たちだ。大体10人位がまとまって遊んでいる。まぁ、家の仕事を手伝っている子もいるので、いつも同じ数ではないが学校が終わった後なんかによく遊んでいるので、一緒に遊ぶこともある。

 いろんなスポーツを試してもらってもいるので、その中から街の皆が熱中できるスポーツができるといいな。

 そんな子どもたちなので、親を呼んできてくれた。本当に仲良くしてて助かったな。

「では、説明します。ここにある道具はミキサーと言って、食べ物を砕いて混ぜてジュースにするような調理器具だと思ってください。それを皆さんに試していただきたくて御呼びしました。私たちができても意味がなくて、一般の家庭に普及させたいと思っています」

「あの~それって、みじん切り器とはまた違うのですか?」

「みじん切り器も知っているんですね。あれは細かく切る事に重きをおいていて、こっちはちがいまして、そうですね、ジュースのような物を作ったり、野菜のスープに使えば形をなくせたりします。調理方法については、ミキサーが完成すればブラウニーが教室を開くのでそれに参加してもらえればと思います」

 とりあえず、調理方法についてはブラウニーに丸投げした。近くで聞いていたブラウニーは、任せなさいと胸を張っていた。

 親子に使い方を教えて、使ってもらう。

「シュウ様! これ! 大変なんだけど! まだ! まぜ! ないと! いけないの!?」

 母親にミキサーを抑えてもらい、力の有り余っている子どもたちには、手動の紐を引っ張ってもらっている。紐と言うよりは力をしっかりと伝えるために、ちょっと特殊な加工になっている物を使っている。本当は自転車のチェーンみたいな物を使いたいのだが、技術的にまだ無理で使えない。

 なので、みじん切り器にも使った特殊加工の紐といっても、謎液体を固めに加工した物をミキサーの軸に巻き付けており、それを凸凹に加工して摩擦を強くしている。

 他にも、紐も謎液体を圧力式脱水機の脱水部分より少し柔らかくひも状に加工している。そうする事によって回る事を確認していたので、今回もこれを採用している。

 子どもが疲れた! といって手を止めたので、この辺で一度結果を試してみる。

 ちなみに、子どもたちが喜ぶように牛乳とバナナ、砂糖をミキサーにかけたバナナミルクだ。いい感じにバナナも潰れているので問題なくミキサーは機能したようだ。

「これうめ~! なにこれ!?」

 子どもたちが美味い美味いと騒ぎ出した。母親たちも驚いた表情をしている。まぁこれが美味いのは当たり前。次へ行こう。

「え~この野菜嫌い!」

 文句を言いだす子どもたちをなだめて、ミックスジュースを作ってもらう。しっかりと混ざったジュースを見た自分たちの嫌いな野菜が入っていた子どもたちは、嫌な顔をしている。だけど、嫌いな食べ物の無い女の子が一口飲んで、

「美味しい!」

 と言うと、他の子たちも口をつけ始めた。苦手な野菜の味がしても、問題なく飲めているようだ。ゴーストタウンでは最近、ブラウニーの料理教室があるため、栄養学についても多少の知識がついてきているので、野菜をしっかりととるようになってきているのだ。

 主食のパンにちょっとした味の濃い肉や野菜と言った食事が多かったのだが、スープを作るようになり硬いパンも浸して食べると柔らかく美味しくなる事を知って、今度は野菜や肉を挟んで食べる方法も浸透してきたが、青臭い野菜が嫌いな子も中にはいた。

 食べる物があまりない地域でも好き嫌いはあるが、それでもお腹が減るのには耐えられずに子供達も食べているらしい。

 なので、比較的裕福な街で生活している人間より、ちょっと不便で貧しい地域で暮らしている子どもたちの方が栄養の偏りがなく元気なのだ。これまでは、ただその地域に住んでいる人たちが強いだけだと思われていたが、ブラウニーの説明で納得して、一般家庭でも実践するようになってきている。

 それでも好き嫌いがあって食べないので、みじん切りにして好きなお肉に混ぜたり、シチューやカレーに入れたりして最近は食べるようになってきていたようだが、ミキサーはさらに色々に使えるのでは? と母親たちが考え始めていた。ブラウニーに色々聞いている姿が見られる。

 いい傾向だ。もう少し改良する必要はありそうだが、成功と言ってもいいだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ
ファンタジー
 魔導師のヴァージニアは転移魔法に失敗して見知らぬ島に来てしまった。  地図にも載っていないその島には何やら怪しげな遺跡がポツンと建っていた。ヴァージニアはただでさえ転移魔法の失敗で落ち込んでいるのに、うっかりその遺跡に閉じ込められてしまう。彼女が出口を探すために仕方なく遺跡の奥に進んで行くと、なんとそこには一人の幼い少年がいた。何故こんな所に少年が? 彼は一体何者なのだろうか?  ヴァージニアは少年の正体が世界を揺るがす出来事に発展するとは露程も思っていなかったのだった……。 ※台詞が多めです。現在(2021年11月)投稿している辺りだと地の文が増えてきています。 ※最終話の後に登場人物紹介がありますので、少しのネタバレならOKという方はどうぞご覧下さい。 ネタバレ ※ヴァージニア(主人公)が抱く疑問は地竜とキャサリンが登場すると解けていきます。(伏線回収) さらにネタバレ ※何度もループしている世界の話ですが、主人公達は前の世界の記憶を持っていません。しかし違和感などは覚えています。(あんまりループ要素はないです) さらにさらにネタバレ? ※少年の正体は早い段階で出てるじゃないかと思っている方……、それじゃないんです。別にあるんです。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...