ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1062話 亀の名前と猫たちの進化

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「んん~っ! よく寝た!」

 俺が工房で何をしようか悩んでいると、休憩室から伸びをしながら出てきた綾乃が、そんな事を言っている。寝てた自覚があったのか?

「シュウじゃん! もう帰ってきてたの?」

「時間をよく見ろ」

「え? もうそろそろ5時? 何でこんな時間なの?」

「そりゃお前さんが寝てたからだろ。何で寝たのか覚えているか?」

「土日は、銅線が出来上がると思ったらなかなか寝れなくて、銅線をもらって喜んだ所で、工房について安心したら眠気に襲われて……床に倒れた?」

 ずいぶん具体的に覚えてるんだな。ベッドにたどり着く前に寝てしまったという事か。ブラウニーたちの言っている事が全面的にあっていたんだな。さすがブラウニー!

「とりあえず、今日の作業はもう無しだからな。後、バザールはあそこに転がってるけど、どうするべきだと思う?」

 床でまだ寝転がされているバザールを綾乃が見て、苦笑をしていた。

「はっ! まさか! 私が寝てるのをいいことに、あんなことやこんな事をしたんじゃないでしょうね!?」

「寝言は寝ていえ。可愛い妻が2ダースほどいるのに、わざわざ手を出すわけないだろ。それと、お前を運んだのは、ドワーフだぞ。あーここで働いている男ドワーフは、髭の生えてない女性は対象外みたいだから、何もされてないと思うぞ」

「普通の返し、面白くない! ぶーぶー。それにしても、ドワーフの異性観念が酷いよね。髭が生えた女性がいいとか。でも、古い小説のドワーフみたな女性ドワーフと男性ドワーフ、見分けがつかないんだけど、何でドワーフたちは分かるのかしら?」

「それはあれだろ、同族同士でしか分からない何かがあるんだろ? 俺たちから見れば、動物の雄雌が分からないのと一緒じゃないのか?」

 そうなのか? と納得しかけた綾乃が、それはさすがに失礼じゃない? と言ってきた。今日の作業はできないと分かったようで、少し体を動かすと言って工房を出て行った。

 しばらくすると!

「シュウ! なにこれ? 亀の上に亀が乗ってるよ!」

 亀を抱えて工房に飛び込んできた。抱えられている亀は、シエルだ。で亀の上の亀は、拾ってきた子亀だ。

 子亀の説明をしてやると、私が飼う! と言い張ったが、全力で却下した。ペットで世話をできなくて、俺の家で引き取ったのを忘れてやがる。

 シエルが迷惑そうにしてるからやめてやれ。

『主、そろそろ行っていいですか?』

 シエルが迷惑していたので、解放するように言うとしょうがないな。みたいな顔をして綾乃がシエルを放してくれた。

 子亀は30分位の間でシエルが中庭で面倒を見る事になっていた。食事はみんなと一緒で、食堂に来るように躾けるそうだ。そうすると子亀だけで食堂には来れないので、猫の移動用のドア以外にも、子亀用のドアも用意してやらないといけないな。帰ったら改造するか。

 それにしても……バザールが起きないな。

「こいつ死んでるんじゃないよな?」

 おれがボソッとバザールの横にしゃがんで言うと、急にバッと起き上がって!

「死んでない! 生きてるって、アンデッドは死んでるか?」

 いつのもアンデッドジョークを言って立ち上がったのだ。そうすると、ん? と周りを見てどうしたんだ? みたいな顔をして周りを見ていた。

「いやさ、お前、帰ってきてから倒れてたらしいぞ? アンデッドのお前が、寝たり気絶したりするのか?」

 しばらく悩んだが、

「分からんでござる!」

 と言う事だった。初めての体験ではないが、ここ数十年は無かったみたいな事言っていた。初めてじゃないのか……

 それにしても床で寝かされてたのに何も言わないんだな。あっ、床はまだいい方なのか? 酷い時は、ごつごつした岩の上にありえないような体勢で寝てたんだ。寝違えないのか?

「何を言っているでござる! 寝違いは生身の肉体だから起こるでござる! 骨身の我が身には、寝違いは起こらないでござる!」

 自信を持って胸……肋骨を張っている。この骨、無駄に自信を持っていてなんかむかつくので、聖拳を発動して殴っておく。

「痛いでござる! 何するんでござるか?」

「骨には痛覚ないだろ? 寝違いだってないんだからさ」

「何言ってるでござる! 骨でも魔石があるから痛覚だってあるでござる!」

 言い争うのも面倒になってきたので、適当にあしらった。

 汚れてはいないが、工房を掃除してから家に帰る事にした。


『主! この子亀に名前をつけてほしいです』

 帰りの魔導列車の中でシエルが俺にそんな事を言ってきた。急にそんな事言われても、俺に名前のセンスはないから困るんだけどな、でも真剣に考える事にした。

 亀、亀……亀って英語でなんて言ったっけ? タートル? この世界に英語が無いとはいえ、さすがに安直だな。シエルの養子みたいなものだから、似てる何かがいいかな? じゃぁ、シールドとかどうだ?

 シエルにそう言ってみると、背中に乗っていた子亀が喜んでいるようで、シエルの甲羅をバンバンと叩いていた。何を言っているのか俺には分からなかったが、後でシエルが教えてくれた。シエルにちなんだ名前だという事を聞いてめっちゃ喜んでいたらしい。

 そういえば、シエルって亀と話ができるんだな。念話のおかげか? でもそれだと、子亀からの声は届かないか、気にしてもしょうがないから放置しておこう。

 家に帰ってから、食事の前にシエルの上に載って移動している、シールドを紹介すると意外にも、猫たちからの人気が高かった。

 猫対亀の異種族格闘技が行われて、猫の攻撃を完璧にしのぎった事から、猫たちから尊敬のまなざしで見られていたのだ。そりゃ亀だから、甲羅に閉じこもれば猫からの攻撃も……って!

 普通の猫だった家の猫たちが魔法を使っていたのだ。異世界に来たとはいえ、猫が魔法を使うのか? そして、この亀もタダモノでは無かった。猫の攻撃に対してシールドの名の通り、結界魔法のような物でしのぎ切っていたのだ。

 子どもたちを護ってくれるという意味では、頼もしい猫たちだが、変な事を教えるなよ? フリじゃないからな! 絶対だぞ! 絶対!

 猫のまかしておけ! みたいなドヤ顔が俺を不安にさせる……
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