ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1032話 話が進みすぎ

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 研磨機の試作ができた次の日。

「もう少し、スムーズに回すためには、この部分もベアリングに変えてしまうのが、手っ取り早いのではないか?」

「そうすると、大きく形が変わるぞい」

「それなら、ベアリングにする部分と同じように、中心から90度間隔で同じものを作れば、重心の問題はなくなるわい! 形が変わっても使いやすさが優先じゃろうが!」

 朝から、じっちゃんたちが研磨機の改良について話し合っていた。俺たちの入る隙間は無かった。だけど、試作の研磨機は俺たちが回収していたので、新しくもう1台作ってから研磨機の改良について話し合っていた。

「俺たちは、足踏みミシンのパーツを木材で作ろうか。後で、じっちゃんたちにそれを型にして金属のパーツにしてもらおう。役割はどう分ける?」

「私には細かい調整は無理だから、粗削りがいいわ」

「じゃぁ俺が細かい調整か?」

「自分が切り出しでござるな」

 3人の分担を決めて、流れ作業のような形で足踏みミシンのパーツを作成していく。

 その日の内に完成したのは、大まかな動力になるパーツだ。細かいパーツに関しては、ドワーフたちの手を借りないといけないので、動力になる部分までの部品を作成しているのだ。

 次の日、じっちゃんたちの様子を見に行くと、研磨機の足踏みの部分と回す輪の部分のデザインが大きく変わっていた。そして使わせてもらうと、俺らが今使っている試作の研磨機よりスムーズに動いていた。

 1日でここまで改良してくるドワーフの情熱を舐めていた。すべては自分の得意分野に活かすための道具としてしか見ていないが、それでもすごすぎる。

 ここまで改良出来て何を話し合っているかと思ったら、すでに次のステップに話が移動していたのだ。

 ゴーストタウンでは難しいが、ディストピアでは水精霊の加護もあるため、水車を回すための水など簡単に用意できるのだ。そのため、水車の動力を使って研磨機を動かせないかと言う話になっていたのだ。

 ちょうどよかったので、歯車の説明をすると、どうしてこんな事に今まで気付かなかったのか……と震えていた。魔法があるせいか、技術の進歩が地球とは大きく異なっているんだよな。

 ここから始まる技術革新は、あまり大々的にやるものではないだろうなと思い、ゼニス、グリエル、ガリアが、頭を抱えている姿が思い浮かんだ。

 まぁそのおかげで、足踏みミシンの方も大分進みそうな気がするが、水車動力型研磨機が完成しないと、作成依頼ができないので、俺たちはドリルについて話し合う事にした。

「爺様方は元気でござるな」

「そういうけど、お前の方が年上だろ?」

「正直、何年生きたかなんてわからにでござる! アンデッドになってから、時間の感覚が生身だったころと違うでござるから? 違うのでござるか?」

「俺に聞くな! 分かるわけないだろう! 頭の中まで腐ってるんじゃねえか?」

「何を言っているでござるか! 頭の中に腐るような物は入っていないでござる!」

 アンデッド、しかもスケルトンに分類される動く骨に、腐るような物はすでになかった。ここまで体を削ったアンデッドジョークを聞いて、苦笑しか出てこなかった。

「歯車、ギアができれば、手持ちじゃなくて据え置きタイプのドリルなら作れるよね?」

「ドリルの部分に使う金属はともかく、動力さえあればドリルの刃は回せるな」

「そうするとでござる、物作りがはかどるでござるな!」

「でもさ、全部足踏み動力だと、さすがに疲れるわよ」

 水車が使えないとなると、動力となる物の開発しないといけないのだが、その目途が立っていないのである。

「動力って言うと、モーターでござるか? でもあれは電気が無ければ動かせないでござる」

「ん? 電気があればモーターって動かせるじゃん! なぜ気付かなかったし!」

「シュウ、ダンジョンやあなたの家じゃないんだから、コンセントも無いのにどうやって電気なんかつかうの? 太陽電池なんて作れないでしょ?」

「バカな事言うなよ。よく考えたら、足踏み動力が作れるなら、蒸気機関だって作れるじゃん! ここで使う分には何も問題ないだろ? 別にそんなことしなくても、魔法……魔導具で雷魔法を再現すれば、電源を確保できるんじゃないか? 燃料となる魔石はダンジョンからいくらでも手に入るんだからな!」

 それを聞いた2人が、盲点だった! と言わんばかりの顔をして……あ、バザールは相変わらず骨状態なので分からないけど、動力として実現可能な物の話し合いを始めた。

 魔石を燃料に雷魔法で電気を得る方法だが、雷魔法を魔導具で再現する研究が進んでいないので、今すぐには無理だった。簡単な属性魔法であれば、再現ができているのだが……

「そうなると、蒸気機関が現実的? 魔導具で火魔法の再現はできているのよね?」

「飛ばす事と威力はともかく、ディストピアの台所には、火魔法で火力調節ができる魔導具の五徳がすでにあるぞ。それを大規模にしすれば熱量は何とかなると思う。そうなると問題は、何があるんだ?」

「2人共、落ち着くでござる! 蒸気機関の詳しい構造を知らないのに、何が問題になるか考えても分かるわけが無いでござる!」

 1人だけ冷静だったバザールの声で、我に返った。俺たち3人は、ちょうどいい関係なのかもしれない。3人の内2人が暴走すると、1人がストッパーになっている。

 それは、自分の周りに自分より怒っている人がいると、冷静になるあれみたいな感じかな?

 ちょうどいい感じに、その時々で役割が変わるけどいい感じにかみ合っている。

 バザールの助言通りに蒸気機関の設計図を召喚する。

「これじゃあ、難しくて何が書いてあるか分からないよ」

 失敗失敗、いきなり設計図をポンと出しても、素人がどんな作りか分かるわけがない。なので、本のタブから『分かりやすい蒸気機関の仕組み!』みたいな感じの本を召喚して、3人で読んでみた。

「こうやって見ると、構造自体は簡単っていうほど簡単ではないけど、ドワーフのじっちゃんたちなら作れそうだな。今回の考えでは、普通の蒸気機関と違って燃料が魔力だから、公害は発生しないのがいいね。最悪、樹海のように木の成長が早いのであれば、熱を生み出すのは問題ないか。熱量の問題はあるけどな」

「そんな事はどうでもいいでござる。どうせ、ゴーストタウンとディストピアでしか使われないでござるから! ボイラーと冷却器の部分は、魔導具で問題ないでござるから、蒸気を動力に変える部分が問題でござるな!」

 物作りに励んでいるが、問題の日が近付いている事をすっかり忘れていた。
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