ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1009話 俺っていらない子?

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 あれから1週間が経った。

 冒険者ギルドの関係者は、全員トルメキアからの退避を完了していた。ただ、近隣の地域に移り住む人は極僅かで、今もまだ移動をしている者が大半だった。

 その理由の多くは、聖国が他の国も攻めるのではないかという恐怖を感じて、出来るだけ遠くへ逃げようという事らしい。

 近くの国に残った人たちは、親戚が居りある程度土地にも余裕がある街に住んでいるため、そこに住もうと移動した人たちだ。

 この世界で、親戚と呼べる人たちがどれだけ役に立つのか俺には分からないが、知っている人が近くにいるという安心感は違うのだろうか?

 次に報告に上がったのは、冒険者ギルド以外のギルド関係者の移動に関してだ。どうやら、荷物の余裕があったためか、ジェノサイドキャラバンが2つに分かれて、そちらの移動も助けているようだ。

 特に商業ギルドに関しては、お金も移動方法の馬車も十分に用意できるため、他のギルドを手伝って移動しているようだ。そこにジェノサイドキャラバンが付き添っているようだ。

 さすがに商業ギルドの用意できる馬車の数で、商業ギルド以外の人たちの荷物を運ぶのは厳しいようで、ジェノサイドキャラバンに白羽の矢が立った感じらしい。

 まぁ、商業ギルドの人間は、ジェノサイドキャラバンの戦力を期待してのチョイスなのは何となく察したが、出来るだけ多くの人にトルメキアから逃げてほしいものだ。

 後発が出発できたのが3日前で、それもトルメキアの王都からみて聖国の国境近くに位置する都市だったから、トルメキアの軍の動き次第では危険になりそうな集団だったので、そこにジェノサイドキャラバンが派遣された形だ。

 まぁ、その可能性があると早い段階でグリエルから進言があったので、早めに手をうっておいた形だ。

 グリエルの話では、各ギルド関係者が揃ってトルメキアから外国へ移動しているのを危惧して、集団で移動している人たちを強引に国内に留めるために、私財を挑発する可能性があるとの事だった。

 さすがにそれはやり過ぎかと思ったが、戦時中の国では市民にも逃亡罪が適用され、私財没収をしていた国があるらしいので、今のトルメキアの状況を考えると可能性はあるらしい。

 そして、3日前の出発した人たちに軍の騎兵隊が近付いているので、グリエルの考えは間違っていなかったようだ。

「それにしても、本当に国民に対して逃亡罪を適用するとか……あの国、頭おかしいんじゃねえか?」

「そうでもないですよ。戦時中は特に国のために動けっていうのが、貴族共の考え方なので、このタイミングで移動する人たちから、財産を奪っても何とも思わないですからね。それに貴族共からすれば、商業ギルドの金持ちは、軍資金のための財布だと思っている奴らもいますからね」

 他人の財布で戦争とは、ただでさえ税金で私腹を肥やしているのに、さらに他人の財布で戦争するとか本当にありえんだろ。すべての貴族がそういう訳じゃないだろうが、吐き気がしてくるな。

「で、トルメキアの騎兵隊への対策は出来てるのかな?」

「もちろんです。四大精霊のガルド様にも手伝っていただき、準備をしております」

「ん? ガルドに協力してもらったのか? 何を?」

 なんでガルドに協力を依頼したのか全く分からず、疑問を投げた。

「えっと、そこまでする必要があったか分かりませんが、魔物を召喚していただき騎兵隊を襲える位置に配置してもらっています」

「ん? それなら、わざわざガルドに頼まないでも、俺でも良かったんじゃないか?」

「ガルド様もおっしゃられていましたが、シュウ様に負担をかける必要はないとの事で、手伝っていただきました」

「どうせ仕事少ないんだから、それくらい手伝うって……」

「私共の事は問題ないので、奥方の事を気にかけてください!」

「それなんだけどね。あまりにも心配しすぎるからって、仕事探してきなさいって言われて家を追い出されたんだよ。心配してくれるのは嬉しいけど、うざいって言われた……」

 泣き崩れながらそう言うと、グリエルとガリア、ゼニスまでもが狼狽してしまい、一時執務室内が何とも言えない空気になってしまった。

「それなら、シュウ様、庁舎で領主の仕事してみますか?」

 と言う感じの流れになって、今日初出勤してきたのだが……

「グリエル、ここに来ても俺する事なくないか?」

 グリエルに来てみるかと言われて来たのに、俺に出来る仕事が無かったのだ! 新しく仕事を覚えようにも、専門的判断や経験が必要なものが多く、俺にはよくわからない事ばかりだったのだ。

 覚えるにも、グリエルたちが俺に教える時間を考えると、業務が止まってしまう恐れがあるため、俺は椅子に座って小さめの声で聞く事しかできなかったのだ。

 うむ、出来る事は出来る人に任せて、俺は俺で何かしよう。

「ここにいてもする事ないから、街の見回りにでも行ってくる。久々に畑エリアにも顔を出してくるわ」

 そう言って執務室を後にする。

 畑エリアに行く前に海岸に行く事にした。この前、養殖を始めたと聞いたので、何の養殖をしているか確認に行こうと思ったのだ。

 俺が前に見た時より、少し湖が大きくなっている気がする。山側ではなく、樹海側に向かってだが……そこに、魚人族が集まっているエリアがある。

「おや、シュウ様ではないですか。どうなさいましたか?」

「前に養殖を始めたって聞いたんだけど、何の養殖を始めたんだ?」

「アコヤガイですね。シュウ様の奥様にお願いされて養殖を始めました」

 あこやがい……何だっけ?

「あっ! 真珠の養殖をしてるって事か?」

「さすがシュウ様、真珠をご存じでしたか。何に使っているかは知りませんが、いい稼ぎになっておりますので、こちらとしてはとても助かっております。得意なエリアである水の中で、ちょっと特殊な育て方ですが、貝を育てるだけでお金が稼げるのですから」

 なるほど、確かに水の中で活動できる魚人族の皆なら、得意な分野かもしれないけど、そもそもどうやって養殖してるか分からないから、それが正しいのかもよくわからん。

 それにしても、妻たちが真珠をね……と言っても、アクセサリーで身に着けているのは見た事ないけど、何に使ってるいるんだろうね?

「なるほどね。貝の養殖か、他に貝とか養殖してる?」

「いえ、特にしてないですね」

「じゃぁ、今度気になるものがあったらお願いするけどいいかな? もちろん、そっちに利益がある様にするからさ」

「問題ありません。シュウ様の頼みでしたら、優先して行います!」

「そこまでしなくてもいいよ。貝類でも、美味しい物は沢山あるから、養殖できそうなものがあればやってみようか? って感じだからね。無理する必要はないよ」

 分かりました! とは言っているが、本当に分かってくれたのか怪しい気がする。

 何の養殖がされていたのか分かったので、次に畑エリアに向かう。

 そこでは、特に何があるわけでもなかった。言うなら、果樹園が広がっていたくらいかな? ワインの原料としてブドウ畑がかなり広がっていたのだ。最近、ディストピア産のお酒が増えている事は知っていたけど、大量に生産してるんだな。

 ブドウはそのままでもうまいが、ワインの原料としてはどうなんだろうな? まぁ、人気があるという事は良い事か?

 いろんなお土産をもらってから家に帰る事にした。
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