ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第948話 飯は偉大だった

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 ヘコキムシの最凶の臭いで気絶してしまった従魔を、ニコの手を借りて次の階に降りる階段の前まで連れてきた。ここまでの距離が短くて助かった。あいつが出たのが階段の200メートル位手前で本当に助かったよ。

「ここにいると、またあいつに襲われそうで怖いな。下の階の偵察に行かないでもいいか?」

 俺はヘコキムシの魔物を思い出して、ここに残りたくないと主張してみた。

「一応臭いに関しましては結界で防げますが、このままいるのは精神的によろしくないですね。下の階の様子を見て、留まるか進むか決めましょう」

 ピーチもあの魔物がいかに危険なのか理解しているようで、すぐに下の階へ偵察を出した。マップ先生を見る限りでは、洞窟型の通路に変わっているので野営をするには問題ないと思うが、虫系の魔物が継続して出てきた場合、俺の中で黒い悪魔に匹敵する悪魔が出てくる可能性が高い。

 偵察に向かったのは、タンク2・斥候1・前衛2・魔法使い2・ヒーラー1の8人だ。バランスのいいパーティーだと思うが、この下の階も虫系の魔物であるなら、魔法使いがいれば事が足りるんだがな。

 偵察に行っている間に俺は、ニコ以外の従魔の様子を見ている。獣医でもなければ医学の知識も豊富ではないが、鑑定やマップ先生で状態を見る事が可能なのだ。

「やっぱり、状態は気絶になっているな。それもよりも、混乱っていう状態異常がついているんだが……大丈夫なのだろうか?」

 状態の欄に気絶と混乱っていう状態異常がついていたので、心配になってしまった。初めて見るステータスではないが、多くのゲームであるような仕様と同じで、敵味方の区別がつかなくなり暴れるのだ。

「ピーチ、さすがにこいつらを拘束するのは気がひけるんだけど、他に何か方法ないかな?」

「そうですね。一応状態異常回復の魔法はありますが、気絶だけ解除されて混乱が解除されない可能性がありますが、どうしますか?」

 俺たちって状態異常にかかった事があまりないから、回復魔法の効果もよくわかってないんだよな。特に状態異常系回復の魔法には、いくつか種類があるのだがすべての状態異常に対応した魔法はないのだ。

 分かりやすい所で言えば、キュアポイズンの解毒、キュアパラライズの痺れ回復なのだが、他にもリカバリーといって、何をリカバリーするのか分からない回復魔法や、クリアという何を綺麗にするのか分からない回復魔法があるのだ。

「やめておこう。とりあえず、下を偵察しに行ってくれたみんなが帰ってくるのを待とうか。放っておいても死ぬような状況でないのは間違いないだろうしな」

 従魔達は、しばらくそのままにしておくことにした。そしてニコよ、みんなが寝てるからと言って、その上でポンポン飛び上がるのはどうかと思うぞ?

 そう思っていたら、ネルに捕まえられて「そんな事してはいけません!」と怒られていた。人の言葉を理解できるはずなのに、『何を言っているか分かりません』といった態度をとっていたため、2人の援軍を呼んでみんなで怒り始めた。

 ネル・イリア・シェリルの3人に囲まれて右往左往しているニコが、俺が見ている事に気付いたのか助けを求める気配を漂わせていたが、さすがに無視した。その俺の様子をみたニコの気配が、愕然とした雰囲気に変わった。

 必死になって逃げようとするが、こういう時の3人の連携は一分の隙も無い。脱走を図ろうとした瞬間にシェリルが押さえつけて、ネルが自分たちを包むように脱走防止の結界を張り、イリアがニコが乗りやすいように台座を作った。

 その上に載せられたニコは、更に結界で閉じ込められて更に怒られた。

 そんな微笑ましい様子を見ながらも、この階に残ったみんなは周囲の警戒をしている。今の所広域に物理結界を張っているので、近寄って来る者はいないが、油断はしていない。

 30分ほどすると下の階を偵察しに行っていたメンバーが帰ってきた。

 下の階は、マップ先生の表示通り洞窟の通路型のダンジョンに戻っていたようだ。魔物の種類は、昆虫系ではなく爬虫類系の魔物になっていたとの事だ。

 そして、次の報告が一番大きな変化だったと思う。下の階の温度が明らかにこの階より高かったとの事だ。そろそろ本命の火山のダンジョンに突入という事だろうか?

「よし、移動しよう。それで、今日は下の階で休もう。野営の準備をするよ。一番近くで野営できそうな部屋は何処にあった?」

 そう聞くと、降りた先が広い部屋になっているとの事だった。なので、怒られていたニコを救出して、他の従魔達を運んでもらった。

 ダマ達の状態異常の混乱が解けていない以上、そのままにしておくわけにもいかず、コンテナ野営地の中に簡易的な檻を作って1匹ずつ入れて様子を見る事にした。壊されないようにアダマンタイトで作成した、特製の檻を使用している。

 それから夕食の時間を過ぎても起きてこず、シルキーがしびれを切らせてフライパンとオタマをもって、ダマたちの所へ向かってしまった。

 追いかけていると急に大きな音が聞こえた。

 ガンガンガンガンッ!

 フライパンとオタマから連想されるそれを実行に移したようだ。そしてその音が止んだと思ったら。

「早く起きないと飯抜きにするわよ!」

 と、気絶をしているダマたちに向かってスカーレットが言い放つ。気絶してるんだから、聞こえるわけないだろ……

 嘘だ。そのセリフを聞いたダマたちが、飛び跳ねるように起きて状況を確認したら『早くここから出して! ご飯が食べれなくなっちゃう!』と必死の形相で、俺に訴えかけてきた。

 鑑定とマップ先生で状態を確認するが、ダマたちは全員が空腹状態で、それ以外の状態異常はなくなっていた。シルキーの飯が食べられないと分かったら、目が覚めるし混乱も解けてしまうのか……

 むしろこれは、よく調教された従魔との上下関係+胃袋を掴まれた結果の賜物ではないだろうか。

 この様子を見ていた俺達は、ポカーンとして口を開けたまま何も言えなかった。

 そんな様子に怒りだした従魔達が檻を早く開けろ!囚人のごとくガタガタとやっている姿がシュールに見えて現実に戻ってこれた。

『主殿! 早く開けてくだされ! 食事抜きはつらい! お願いします!』

 ダマも必死になって食事にありつこうとしていた。これ以上放置すると危険だと思い、みんなにお願いして檻から出してもらった。

 従魔たちはスカーレットの号令に従って、列になって行儀よく食堂へ歩いていった。色々と凄いな。
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