ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
913 / 2,518

第913話 毒じゃない毒?

しおりを挟む
 中継拠点から出てすぐの戦闘が終わりをむかえていた。

「シュリ! そのサルの魔物を捕獲してくれ。ちょうどいいから実験につかおう。キリエ、カバンから荷馬車を取り出してくれ。クロとギン、すまないけど荷馬車で実験する間ひいてくれ」

 すぐに指示を出す。シュリは問題なくチェインで強引に引き寄せて、近くにいたアリスとリリーがロープを取り出して簀巻きにしてくれている。あっ! 右手でも左手でもいいから、片方の手は外に出しておいてね!

 キリエが出した荷馬車を、後衛のメンバーが手伝って、クロとギンにつないでくれている。シュリがそこに簀巻きにされたサルの魔物を運んできた。

「俺はちょっと実験に入るから、みんなはそのまま警戒しながら進んでくれ。俺の代わりは、ミリーに頼むからそのつもりで!」

 基本的な指示は、ピーチ・シュリ・アリス・ライムが出しているが、俺が実験している間は、ミリーが代役としていいと思ったので頼んだ。

 ただ、ピーチは念のためキリエとリリーを近くに置いてほしいと言われたので、俺の実験を手伝ってもらう。

「みんな、道の方はよろしくね! まぁ、ここにいるから何かあったら声をかけてくれ。じゃぁ2人共、実験を始めるよ」

 そう言って、俺はゴブリンを召喚する。一応、最下級の魔物ならどの位で死ぬのか調べるためだ。まぁ死んでも心が痛まない魔物のラインキング上位に入るので、こういった実験には向いている。

 召喚されたゴブリンは、一応俺の眷属になるが、問答無用で実験を開始する。まぁ眷属であっても、殺されると分かればすぐにパスが切れてしまうので暴れるのだ。なのでその前に拘束する。拘束したゴブリンにサルの魔物の爪を食い込ませる。

「えぇ~こんなに強力なのか? まさか傷付けてから10秒で死ぬって早くないか? 鑑定してもマップ先生でも状態異常になってはいるが、やっぱり毒ではないんだな。じゃぁ次の実験だ。キリエ、今度は回復魔法で回復しながら、免疫機能を上げる魔法を使ってくれ」

 初めは1人でやるつもりだったが、ピーチがキリエとリリーを手伝いにつけてくれたので、協力してもらう。

 実験の結果、ゴブリンは死んでしまった。この魔法では死を防げなかったようだ。その次に、万能薬を試してみたところ、Aランクの万能薬であればすぐに死ぬことはなかったが、治すことも出来なかったようだ。そのゴブリンも10分後に死んでしまった。

「Aランク万能薬もダメなのか、Sランク以上であれば、問題なく完治するみたいだけど、魔物の強さを考えると、効果が強すぎないか?」

「そうですね。ゴブリンだからかもしれませんが、もし他の魔物でも同じ結果になるようでしたら、この島の中心に向かうのは、止めた方がいいかもしれませんよ」

「でも昨日の魔物は、5分位死ななかったよね? そう考えると、ゴブリンが弱すぎるんじゃない?」

 キリエの慎重論に、リリーが昨日の様子を思い出して意見を出してきた。

 確かに昨日の不幸な事故でサルの毒じゃないな……なんていえばいいかな? 邪爪じゃそうとでも呼んでおこうか。

 その邪爪で死んだ魔物は、確かに5分位は死なずに生きていたのだから、基本的な生命力……体力が影響しているのかもしれないな。

 という事で、ゴブリンの上位種のゴブリンジェネラルとゴブリンのLvを30まで上げた奴を召喚する。

 Lvをあげたゴブリンは、初期値のゴブリンと変わらない時間で死んでしまった。それに対してゴブリンジェネラルは、死ぬまでに20秒かかった。レベルはゴブリンジェネラルの方が低いのにな。

「こういう結果になるのか。これって、種族の元になるものが免疫機能に影響を及ぼすのか? そうなると、人間でも実験しないといけないのか? 死刑囚とかならまだいいけど、そういうわけにもいかないからな、どうしたもんだか」

 とりあえず次は、オークで実験した。ゴブリンに比べ時間が伸びただけで、上位種も変わらない結果になった。

 亜人型の魔物だけではなく獣型の魔物でも実験してみた。こちらは、亜人型に比べて基本となる死ぬまでの時間が長かった。

「どうするか? とりあえず、Sランクの万能薬は効果があるから、全員に多めに渡しておこうか」

 基礎レベルがこのエリアと同じくらいになるAランクの魔物だと、実験結果が変わってきた。

 Aランクの魔物だと、回復魔法を使いながら免疫機能を上げると、死なずに済んだのだ。と言っても、魔法をかけなければ、死んでしまうのは変わらないのだが。

 レベルで分かれてくれるならいいんだけど、基礎ランクで結果が変わってしまった事が頭を悩ませることになった。

 人間のランクはどの位置になるのか、レベルで変わってくるのか。結果を考えると、前者になるんだろうな。まぁ、生来の免疫機能の違いで変わってくるとは思うが、自分たちで実験するわけにもいかないからな。

 以上の結果から、撤退を視野に入れていることを話したが、出来れば進みたいとお願いされ、今も島の中心に向かって整地をしながら進んでいく。何故、進む事を止めないのだろうか?

 時間の余裕をもってお昼前には、10キロメートル地点に到着し中継拠点の作成を終わらせる事が出来た。

「敵の強さはどうだい?」

「そうですね。今まで戦った事のある魔物としては、たいして強くないと思いますが、やはり爪の攻撃に関して死ぬ虞があるという点において緊張感があるため、今までのような温室とは違い良い経験になっていると思います」

 死の危険を良い訓練で片付けてしまうのか……それより、温室? 俺が過保護って事か? よくよく話を聞いたら、今までも危険はあったけど死ななければ回復できたので、今回は違う意味でいい訓練なのだそうだ。

 俺の肝が冷えちまうよ。それでもSランク万能薬で何とかなる事が分かってるから、すぐに飲ませれば大丈夫だろう。あの後の実験で、Bランク以上のエリクサーでも回復する事が分かったので、万能薬と合わせて持たせている。

 冒険者は冒険する事が! とかいうが、死んでしまっては元も子もない! 生きてなんぼ! 英雄譚なんていらんのだ!

 昼食後、問題なく更に3キロメートル先まで開拓して、中継拠点まで戻ってきている。

 お風呂に入ると、今日はニコがシエルの上に、ハクがダマの上に乗って俺の事を待っていた。どうやら2匹は、新入りの事を気にして他の従魔たちは追い出して、女湯に行かせたようだ。俺もすげえ助かる。最近かまってやっていなかったのか、2匹はめっちゃ甘えてきていつも以上に可愛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】  身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?

Chiyosumi
ファンタジー
原因不明の筋委縮性難病の治療法が確立されるまで、延命措置として冷凍睡眠《コールドスリープ》で眠らされていた僕が目覚めたのは異世界だった? コールドスリープ中に死んで異世界に転生されたのか? それとも何らかの理由で脳だけ覚醒させられてVRMMORPGの世界に取り込まれたのか? 状況が分からないまま僕は銀等級冒険者『盲目の魔女』バロラに導かれ、この世界での冒険者生活が始まる。 魔法が存在する世界…… でもこの世界の魔法は僕がかつて冷凍睡眠≪コールドスリープ≫で眠る前にやっていたVRMMORPGの魔法のシステムとよく似ている…… 異世界なのか? 現実か? それともVRMMORPGの世界なのか? 謎が謎を呼び困惑する主人公ニケが冒険しながら謎解きに挑む! ※第二章第3話くらいまで設定の解説が多めでその後、冒険の話が中心になってくる予定です! ※この作品は小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

処理中です...