ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
654 / 2,518

第654話 キマイラの最期

しおりを挟む
 神歩を使いキマイラの尻尾のある位置をめがけて移動する。尻尾は動く事は出来ても、移動は出来ないため、若干慌てている様子が見えるがもう遅い。抜刀術による斬撃はとにかく早いのだ。

 根元を本当は狙いたいが、体が大きいため根元は狙えなかったが、一番狙いやすい所にめがけて刀を振るう。

 ほとんど抵抗なく、尻尾の蛇を切り飛ばすことに成功した。切り飛ばした蛇はまだ死んでおらず、動く様子が目に映ったので、両手に持ち替え頭の部分を斬りつける。

 切り落とせなかったが頭の半分まで斬撃が入ったので、独立して動くとしてもここまでしたら動けないだろう。

 しばらく尻尾の蛇の様子を見ていたが、その様子も見ていられる状況ではなくなった。尻尾を切り落されたキマイラの本体と言っていいのか、そいつが俺の方に血走った眼をして突進してきたのだ。対応しないと俺がダメージを受けてしまうため、対応せざるを得なかった。

 近付いてくる時に、火炎ブレスを吐いてきた。レッドドラゴンの鱗を使った盾は、離れた所に落ちてるから盾を使って防ぐ事ができない。軽減する装備が全くないので、ダメージ覚悟で魔力を魔法として形を持たせずに、体の周りに纏いダメージを軽減をはかる。

 魔力自体には、物理的な影響力はほとんどないのだが、魔力を込められたものに反発する性質がある。魔法同士をぶつけると、相殺することがあるのは、この効果によるものだ。特に結界の対魔法結界は、その反発を積極的に使っている。

 本当なら結界を張って防ぎたいところだが、反応が遅れたためブレスを防げる結界を張る事が出来ない。なので、魔力を放出して纏う方法をとっている。ほとんど使っていなかった技術だが、咄嗟にできたのはガリアの訓練のたまものだろう。受けておいてよかった。

 完全にダメージを防ぐ事は出来なかったが、簡単な回復魔法で治療が可能だった。

 キマイラは火炎ブレスだけで止まる事は無く、吐いた後も距離を縮め爪撃でも噛み付きでもなく、大きな身体による突進だった。盾が無いからフォートレスを発動できず、避ける選択肢しか残されていなかった。神歩を使うにも横に移動する手段ではないので、どうにもならなかった。

 全力で後ろに飛び、腕をクッションにしてキマイラの突進を正面から受けた。吹っ飛ばされた距離は、大体一〇〇メートル程だ。コロッセオは大体、直径三〇〇メートル位なので、中心付近まで吹っ飛ばされた状態だ。

 吹っ飛ばされた距離を考えれば、ダメージは小さい。慌てて体を起こしてキマイラの方を見る。火炎に対する耐性はないが、盾がないよりはあった方がだいぶマシになるので、いつも愛用しているカイトシールドを収納の腕輪から取り出す。超振動刀も手放してしまっているので、自分で打った刀も取り出している。

 キマイラの方を見るが、俺への追撃は無かった。リリーが後ろから切り落とした尻尾の残った部分を攻撃したようで、キマイラが振り返り攻撃をしていた。追撃をしていれば、死ぬ事は無かっただろうが、それなりに手傷を負わせることはできたと思うんだけどな……こっちが不利にならなければ何でもいい。

 レッドドラゴンの鱗の盾と超振動刀を回収しようと思ったが、盾はキマイラの向こう側にあり、刀はキマイラと俺の丁度中間にあった。自分で打った刀は使うことなく腕輪に収納され、キマイラに接近しながら超振動刀を拾い、戦いの様子を伺う。

 自分の気配を可能な限り消して、キマイラの背後に接近する。リリーの様子は芳しくない、嬲られるように左右の爪撃の攻撃をくらっている。キマイラが嗜虐的な感じで、リリーを攻撃している。

 生身じゃなくファイアナイトの身体に憑依しているので、頭が沸騰せずに済んでいる感じだ。それでも本人の気持ちを考えると、爆発しそうになっている自分がいる。だが、倒すことが先決だと理解している。

 キマイラの攻撃に合わせて俺は、神歩でキマイラの右後ろ脚に移動して、そのまま抜刀術を使い、ネコ科動物のアキレス腱がある場所を刀で全力で振り抜く!

 可能なら足を落とすつもりで切り付けているが、さすがに足を切り落とす事は出来なかった。が、アキレス腱を切断する事には成功した。後ろ足一本を奪ったため、機動力も攻撃力も激減している。

「リリー、いったんみんなの所へ行って回復してもらってくれ、ついでにバフの更新もしてからこっちに戻ってきて」

『了解しました。すぐに戻ってきます』

 リリーが入り口の方へ走っていく。俺はその姿を確認することなく、俺の前で俺を殺そうと睨みつけているキマイラと睨み合っている。

 スピードの落ちたキマイラの攻撃など、恐れる程の事もなく余裕をもってかわしたり、攻撃をそらしたりできている。もう敵じゃないな。どうにかして足をもう一本奪えれば、完璧に勝てる。

 スピードの遅くなったキマイラの攻撃は、単調になってきているので、攻撃に合わせてかわすだけではなく、同時に切り付けてダメージを蓄積していく。

 五分程攻防を続けていると、キマイラの前足が痛々しい位に、毛皮に血が付着している。そうしていると、リリーが戻って来た。

「リリー、もう一回こいつを引き付けられそうか?」

『少し試してみます』

 リリーが先程怒らせるときに使った、尻尾の残りの部分を再度強打している。メイスで叩いた後に、さらに盾で殴りつけるおまけ付きで挑発している。さっきあれだけボコボコにしたと思っていたリリーに、痛い場所を叩かれたため、キマイラはスピードの落ちた体でリリーの方へ振り向く。

 こいつ本当に馬鹿なのか? 俺の方が今危険度が高いのに目をそらすとかな……尻尾を切られてブチ切れてるせいか? 俺に隙を晒してるんだから、残った左後ろ足を【ライトニングスラッシュ】で切り付ける。物の例えで、雷のように早い斬撃で左後ろ足のアキレス腱を斬りつける。

 抜刀術とは違い鞘から抜いた状態で、高速で切り付けるスキルだ。厳密に言うと抜刀術はスキルではなく、俺が編み出したわけではないが、スキルやステータスに反映されない技術だ。その内スキルに昇格する可能性はあるが。

 見事に両後ろ足のアキレス腱の切断に成功した。魔物とはいえ回復魔法無しで怪我を治せるものは多くない。キマイラは回復力は高いようだが、移動がほとんどできなくなっている。

 前足と上手く動かせない後ろ足を使って移動しようとしているが、戦闘についていける程のスピードは無かった。

 ブレスで最後の悪足掻きをしているが、俺はその合間を縫って弱点である首を何度も切り付け、首を落とす。

 最後はすっきりしない終わり方だったが、何とかキマイラを倒すことができた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

鮮明な月

BL
鮮明な月のようなあの人のことを、幼い頃からひたすらに思い続けていた。叶わないと知りながら、それでもただひたすらに密やかに思い続ける源川仁聖。叶わないのは当然だ、鮮明な月のようなあの人は、自分と同じ男性なのだから。 彼を思いながら、他の人間で代用し続ける矛盾に耐えきれなくなっていく。そんな時ふと鮮明な月のような彼に、手が届きそうな気がした。 第九章以降は鮮明な月の後日談 月のような彼に源川仁聖の手が届いてからの物語。 基本的にはエッチ多目だと思われます。 読む際にはご注意下さい。第九章以降は主人公達以外の他キャラ主体が元気なため誰が主人公やねんなところもあります。すみません。

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ミカヅキグマ
ファンタジー
 魔導師のヴァージニアは転移魔法に失敗して見知らぬ島に来てしまった。  地図にも載っていないその島には何やら怪しげな遺跡がポツンと建っていた。ヴァージニアはただでさえ転移魔法の失敗で落ち込んでいるのに、うっかりその遺跡に閉じ込められてしまう。彼女が出口を探すために仕方なく遺跡の奥に進んで行くと、なんとそこには一人の幼い少年がいた。何故こんな所に少年が? 彼は一体何者なのだろうか?  ヴァージニアは少年の正体が世界を揺るがす出来事に発展するとは露程も思っていなかったのだった……。 ※台詞が多めです。現在(2021年11月)投稿している辺りだと地の文が増えてきています。 ※最終話の後に登場人物紹介がありますので、少しのネタバレならOKという方はどうぞご覧下さい。 ネタバレ ※ヴァージニア(主人公)が抱く疑問は地竜とキャサリンが登場すると解けていきます。(伏線回収) さらにネタバレ ※何度もループしている世界の話ですが、主人公達は前の世界の記憶を持っていません。しかし違和感などは覚えています。(あんまりループ要素はないです) さらにさらにネタバレ? ※少年の正体は早い段階で出てるじゃないかと思っている方……、それじゃないんです。別にあるんです。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...