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第596話 危うく……
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よくわからない不安が心をよぎっているが、どうしていいのか分からないので、状況を観察することにした。
敵の上官が指示を出した、別動部隊が隊列を組んで俺達に近付いてくる。十人程の部隊だろうか? その動きを見ていた違和感が生まれる……訓練された兵士の動きじゃない?
どういうことだ? 兵士じゃない人間が敵部隊にいるのか? あいつらはどういう集まりだ?
情報を逃さないように、相手の動きを観察する。その違和感に気付けたのは、おそらく偶然だった。
相手が装備している武器が、兵士が好む長剣や長槍みたいなものではなく、メイスや短剣、片刃の剣等ちょっと癖の強い武器だったのだ。こいつらはおそらく、冒険者のパーティーだ。それもそれなりの実力の持ち主だろう。
俺たちの街から連れてきた冒険者と、ラディッツの冒険者たちが戦闘可能距離に入ろうとしている。
「全員退避! 野営地までひけぇぇえええ!!!」
俺は大きな声で指示を出して、敵側の冒険者パーティーに向かって走るが間に合わなかった。
その間に合わなかった一瞬で前線にいた三人が重症を負い、七人が中傷を負ってしまった。
「てめえら! 許さねえぞ! ぶっ殺すぞ!」
俺の怒りに反応するように、妻たちとレイリーが行動を開始した。俺が叫んだ時に声に魔力がこもっていたようで、敵は冒険者以外のメンバーが、恐慌におちいっていた。そしてチビ神が念話を飛ばしてきた!
『魔王の咆哮!』
魔王じゃねえし! チビ神、てめえも殺すぞ!
『や、や~ね。あなたが我を忘れてるから、なごますためのジョークじゃない。だからそのよく分からない黒い靄みたいなのは飛ばさないで、何か存在が削られそうなんです。
すいませんが、やめていただけないでしょうか? そろそろ落ち着いたかしら? あなたの怒りのせいで、周りの人間にまで伝播してるわよ。あなたは、妻たちを単なる殺戮者にしたいのかしら?』
……すまん、落ち着いた。それにしてもあまり干渉しないんじゃないなかったのか?
『何言ってるのよ。もしこのまま、修羅の道に進んでいくと、本当にあなたは魔王と呼ばれる存在になって、世界を滅ぼすかもしれないわよ? ゲーム盤でイレギュラーが起こればさすがに対処するわよ』
魔王って大げさな……
『それがそうでもないのよ。何故か理由はわかってないけど、怒りによって殺戮にはしると、多くの場合で魔王のような存在になってしまうのよ。だから止められるなら止めるために、声掛けするのはしょうがないでしょ。そのくらいわかってよ!』
それにしても魔王か、存在的には近いかもしれないけど、気持ちまで魔王になるのは勘弁だな。チビ神助かった。
『だからチビじゃないってば!』
現実に意識が引き戻されると、俺が叫んでから一秒も経っていないのではないだろうか? 俺の感情はある程度おさまったのだろうか? 伝播していた負の感情が減ったせいか、みんなが落ち着きをある程度取り戻していた。
「シュリ! レイリー! リリー、前に出て攻撃を防げ! ヒーラーは三人の重症者の手当て、他の怪我人は魔法組が応急処置! 前衛組は実力差を思い知らせてやるために素手で行こう」
俺の宣言で全員が武器と盾をしまう。その代わり非殺傷の、ミスリル合金繊維を使ったグローブが装着されていた。
俺たちの中で先陣を切ったのは、レイリーだった。両手に持っていた剣と盾をしまって、移動しながらグローブをつけているのが目に入った。そのまま一番強いと思われる、敵の一番前の中央にいるタンクに殴りかかる。
拳と盾がぶつかった様な生易しい音ではなく、周囲に轟音を響かせた。その後に重い何かが、複数落ちる音が聞こえた。
スキルやステータスによって、レイリーの拳は何とか止められたが盾はそうもいかずに壊れてしまったようだ。それでも相手は少し驚いただけで落ち着いていた。片手で持っていた剣を両手に持ち切りかかっていた。
かなり早い剣速、それをレイリーはサイドステップをすることで回避し、無防備になった左わき腹へ拳を突き立てる。今まで戦ったことある敵なら、ここで悶絶して崩れ落ちるのだが、相手はそう優しくなかった。
痛みをこらえて、ふり下げた剣を返して右手で切り払ってくる。回避できないタイミングだったようだが、何とかグローブをはめた手で受け止める事が出来た。
いくらミスリル合金繊維を使っているとはいえ、ただのグローブ、衝撃を殺すことは出来ずに、左手の指の何本かは骨が外れてしまっていた。
レイリーもこの程度で止まるわけも無く、無事な右手を使い、相手の右手首をつかみ引っ張り、わきの下に潜り込むように移動する。自分の左肩で右脇を突き上げ、つかんでいる右手を引き下ろした。
足が地面から離れた相手の冒険者は、なすすべなくそのまま地面に叩きつけられる。
だがレイリーの攻撃はそこで終わらず、地面で寝転がっている敵の胸を鎧ごと踏み抜き、顔を蹴飛ばして意識を刈り取る。
レイリーの行動に、罵声を浴びせている敵の冒険者達だが、
「てめえら、自分たちが何したか見てから言え! こっちは三人重傷だぞ! お前らはこっちを殺そうとしてるけど、優しい俺らは戦闘能力を奪うだけの予定だ。この意味わかるよな? 手加減しても倒せる自信があるってことだぜ」
俺の言った通り、次々に無力化されていく。一番悲惨だったのは、シェリルが攻撃を仕掛けた冒険者だろう。死なないとはいえ、まさか人に対してシェリルが、浸透勁を全力でうつとは思わなかったよ。
あのグローブつけてなかったら、内臓がミンチになってただろうな。今でさえ胃が破れてるだろうし、下手したら内臓のどれかが、破壊されている可能性もあるな。
次は強い順にシュリ、アリスといった感じだろうか?
このニ人は、レイリーが殴り掛かったタンクの両側にいた、サブタンク的なポジションの相手だろう。
そんな奴らに、このニ人の怒涛の攻撃を捌けるわけがない。レイリーが戦っている間は、牽制しているだけだったが、罵声を言い始めた頃に、他のメンバーと一緒に攻撃を仕掛けていた。
罵声を浴びさせている暇も無くなり、サブタンク的な冒険者はニ人の攻撃をくらい、一撃目で盾を失い二撃目で剣を落とし、三撃目で膝が崩れ、四撃目で完全に意識が刈り取られる。
多分、こちらの冒険者が重傷を負ってから、一分にも満たない間に相手側の冒険者が全滅した。マップ先生を見てこいつらのような、イレギュラーがいない事を確認すると、レイリーがディストピアから連れてきた冒険者たちに指示を出す。
戦力差がニ倍以上あり、こっちの方がレベルが高い。その上、仲間が切られたことによる怒りで、相手の兵士は抵抗する事も出来ずに撃破される。一〇〇人程いた兵士たちの一割程がかえらぬ人となったが、今回はしかたがないだろう。
「さて、初めに切りかかって来た部隊に、指示を出したのはお前だったな。なぜあんなことしたか理由を聞かせてもらおうか?」
敵の上官が指示を出した、別動部隊が隊列を組んで俺達に近付いてくる。十人程の部隊だろうか? その動きを見ていた違和感が生まれる……訓練された兵士の動きじゃない?
どういうことだ? 兵士じゃない人間が敵部隊にいるのか? あいつらはどういう集まりだ?
情報を逃さないように、相手の動きを観察する。その違和感に気付けたのは、おそらく偶然だった。
相手が装備している武器が、兵士が好む長剣や長槍みたいなものではなく、メイスや短剣、片刃の剣等ちょっと癖の強い武器だったのだ。こいつらはおそらく、冒険者のパーティーだ。それもそれなりの実力の持ち主だろう。
俺たちの街から連れてきた冒険者と、ラディッツの冒険者たちが戦闘可能距離に入ろうとしている。
「全員退避! 野営地までひけぇぇえええ!!!」
俺は大きな声で指示を出して、敵側の冒険者パーティーに向かって走るが間に合わなかった。
その間に合わなかった一瞬で前線にいた三人が重症を負い、七人が中傷を負ってしまった。
「てめえら! 許さねえぞ! ぶっ殺すぞ!」
俺の怒りに反応するように、妻たちとレイリーが行動を開始した。俺が叫んだ時に声に魔力がこもっていたようで、敵は冒険者以外のメンバーが、恐慌におちいっていた。そしてチビ神が念話を飛ばしてきた!
『魔王の咆哮!』
魔王じゃねえし! チビ神、てめえも殺すぞ!
『や、や~ね。あなたが我を忘れてるから、なごますためのジョークじゃない。だからそのよく分からない黒い靄みたいなのは飛ばさないで、何か存在が削られそうなんです。
すいませんが、やめていただけないでしょうか? そろそろ落ち着いたかしら? あなたの怒りのせいで、周りの人間にまで伝播してるわよ。あなたは、妻たちを単なる殺戮者にしたいのかしら?』
……すまん、落ち着いた。それにしてもあまり干渉しないんじゃないなかったのか?
『何言ってるのよ。もしこのまま、修羅の道に進んでいくと、本当にあなたは魔王と呼ばれる存在になって、世界を滅ぼすかもしれないわよ? ゲーム盤でイレギュラーが起こればさすがに対処するわよ』
魔王って大げさな……
『それがそうでもないのよ。何故か理由はわかってないけど、怒りによって殺戮にはしると、多くの場合で魔王のような存在になってしまうのよ。だから止められるなら止めるために、声掛けするのはしょうがないでしょ。そのくらいわかってよ!』
それにしても魔王か、存在的には近いかもしれないけど、気持ちまで魔王になるのは勘弁だな。チビ神助かった。
『だからチビじゃないってば!』
現実に意識が引き戻されると、俺が叫んでから一秒も経っていないのではないだろうか? 俺の感情はある程度おさまったのだろうか? 伝播していた負の感情が減ったせいか、みんなが落ち着きをある程度取り戻していた。
「シュリ! レイリー! リリー、前に出て攻撃を防げ! ヒーラーは三人の重症者の手当て、他の怪我人は魔法組が応急処置! 前衛組は実力差を思い知らせてやるために素手で行こう」
俺の宣言で全員が武器と盾をしまう。その代わり非殺傷の、ミスリル合金繊維を使ったグローブが装着されていた。
俺たちの中で先陣を切ったのは、レイリーだった。両手に持っていた剣と盾をしまって、移動しながらグローブをつけているのが目に入った。そのまま一番強いと思われる、敵の一番前の中央にいるタンクに殴りかかる。
拳と盾がぶつかった様な生易しい音ではなく、周囲に轟音を響かせた。その後に重い何かが、複数落ちる音が聞こえた。
スキルやステータスによって、レイリーの拳は何とか止められたが盾はそうもいかずに壊れてしまったようだ。それでも相手は少し驚いただけで落ち着いていた。片手で持っていた剣を両手に持ち切りかかっていた。
かなり早い剣速、それをレイリーはサイドステップをすることで回避し、無防備になった左わき腹へ拳を突き立てる。今まで戦ったことある敵なら、ここで悶絶して崩れ落ちるのだが、相手はそう優しくなかった。
痛みをこらえて、ふり下げた剣を返して右手で切り払ってくる。回避できないタイミングだったようだが、何とかグローブをはめた手で受け止める事が出来た。
いくらミスリル合金繊維を使っているとはいえ、ただのグローブ、衝撃を殺すことは出来ずに、左手の指の何本かは骨が外れてしまっていた。
レイリーもこの程度で止まるわけも無く、無事な右手を使い、相手の右手首をつかみ引っ張り、わきの下に潜り込むように移動する。自分の左肩で右脇を突き上げ、つかんでいる右手を引き下ろした。
足が地面から離れた相手の冒険者は、なすすべなくそのまま地面に叩きつけられる。
だがレイリーの攻撃はそこで終わらず、地面で寝転がっている敵の胸を鎧ごと踏み抜き、顔を蹴飛ばして意識を刈り取る。
レイリーの行動に、罵声を浴びせている敵の冒険者達だが、
「てめえら、自分たちが何したか見てから言え! こっちは三人重傷だぞ! お前らはこっちを殺そうとしてるけど、優しい俺らは戦闘能力を奪うだけの予定だ。この意味わかるよな? 手加減しても倒せる自信があるってことだぜ」
俺の言った通り、次々に無力化されていく。一番悲惨だったのは、シェリルが攻撃を仕掛けた冒険者だろう。死なないとはいえ、まさか人に対してシェリルが、浸透勁を全力でうつとは思わなかったよ。
あのグローブつけてなかったら、内臓がミンチになってただろうな。今でさえ胃が破れてるだろうし、下手したら内臓のどれかが、破壊されている可能性もあるな。
次は強い順にシュリ、アリスといった感じだろうか?
このニ人は、レイリーが殴り掛かったタンクの両側にいた、サブタンク的なポジションの相手だろう。
そんな奴らに、このニ人の怒涛の攻撃を捌けるわけがない。レイリーが戦っている間は、牽制しているだけだったが、罵声を言い始めた頃に、他のメンバーと一緒に攻撃を仕掛けていた。
罵声を浴びさせている暇も無くなり、サブタンク的な冒険者はニ人の攻撃をくらい、一撃目で盾を失い二撃目で剣を落とし、三撃目で膝が崩れ、四撃目で完全に意識が刈り取られる。
多分、こちらの冒険者が重傷を負ってから、一分にも満たない間に相手側の冒険者が全滅した。マップ先生を見てこいつらのような、イレギュラーがいない事を確認すると、レイリーがディストピアから連れてきた冒険者たちに指示を出す。
戦力差がニ倍以上あり、こっちの方がレベルが高い。その上、仲間が切られたことによる怒りで、相手の兵士は抵抗する事も出来ずに撃破される。一〇〇人程いた兵士たちの一割程がかえらぬ人となったが、今回はしかたがないだろう。
「さて、初めに切りかかって来た部隊に、指示を出したのはお前だったな。なぜあんなことしたか理由を聞かせてもらおうか?」
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